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「よし、この島だ」


トゥアル島から 二時間ボートに乗って

無人島に到着。


「水、透明過ぎて

ボート浮いてるみたいだったよなー」

「おう、テレビとかで観るやつだった」


ボートでも、“いいよなー いいよなー” つってたけど、いまいち薄い感想 言いながら、水ん中に降りる。かなりの深さになるまで 珊瑚礁も見えたし

マジで すげーって思った。

重ねて言ったところで、やっぱり薄いんだけどー。


「なんと、気持ち良いのう... 」


ボートを降りようと、立った榊は

シェムハザが取り寄せた 赤い花柄のサマードレス着てて、なんか かわいいし

ジェイドが、ボート下から抱き取って 降ろして

先に降りた ボティスに渡してる。


昨日は、シェムハザに 肉焼いてもらって

ムール貝のワイン蒸しとか ポテト食ってたら

幽世の扉が開いて、月夜見キミサマと榊が出て来た。

榊は 番人の正装だったし、アンバランスさに ビビって、シェムハザが 指 鳴らしてたけど。


『天狗のことには、皆 納得はしたが... 』


納得はしたけど、心配もしてるみたいだ。


『モクシロクのナラクの王の使つかいこなすと?』

『異国神になったとあれば、裁かれる折も

異国の法に従うことになろうよ』... っていう

意見も出てたし

『その際の蝗とは、我等も含まれようか?』とも

出てたらしかった。


『あ... そういう事になんの?』


それは、全く考えてなかった。

黙示録の蝗は 五ヵ月の間、人間を苦しめる。


天狗に そんな気は無いし、月夜見も

ハティやゾイも 否定したけど

『しかし天狗は、国の妖し等の王でもあるのだ』

『怨霊様等が 目覚めでもすれば

我々では、とてもあらがえぬ』って

不安にもなってる。


『でもこれは、父の計画書じゃないんだぜ?

キュベレさえ目覚めさせなければ、丸く収まる。

早く見つけて、第七天アラボトに戻すことだ。

キュベレを戻した後なら、アバドンのことが

サンダルフォンに知れても 問題は無い。

アバドンは 自己改変の上、天使を殺してるから

幽閉天に隔離されることになる。

そうなれば 天狗も、責任を感じることは無いし

日本神に戻ることに納得するだろ?』


『して、大母神キュベレが 何処にるかは?』


『うん、探してる』


ワインと ムール貝摘んでた月夜見キミサマ

『奈落から消え失せたことが、良い事であったか

否かは、分からぬのう... 』って

凛々しい眉 しかめたけど

『サンダルフォンの裏をかいていることには

なっている』って、シェムハザが言って

月夜見の取皿に、ホイル焼きの白身魚を載せて

ライムを絞った。

月夜見キミサマ、最近 普通に、オレらと飯食うよなぁ。

和むんだぜ。


『あっ、そうだ。

月夜見 お前、天の月の領地も監督してくれよ。

サリエルの代わりに入った天使が、キュベレに使われると 困るから』


フォークで、白身つつく 月夜見は

『その御使いの方が 納得するまい』って

渋いツラになったけど

『俺も 時々見にいく。ワインなど どうだ?』って シェムハザも言うし。


『日本は、預言者の四郎を降ろしている国で

守護者は俺だから、“協力関係にある” って

俺が説明する。

シェムハザは、聖悪魔で有名だし

月で会う分には 歓迎されると思うぜ?』と

ミカエルが押して

『食ったら、ハサエルに紹介する』って

どんどん話を進める。


『まぁ、構わんが... 』


さらっと答えてるけど、月夜見キミサマ

シェムハザ達とか ミカエルと仲良くなって

楽しそうにも見えるんだよなー。

『お前も、糸があれば 幽世かくりよに昇れるが』って

ついでっぽく ボティスにも言っちまってるしさぁ。


で、朋樹に『勾玉は?』って 聞いて

『あっ、天狗に渡したんです』って 答えてたけど

怒らずに、神御衣の袖から 新しい勾玉を出すと

朋樹に渡して、ミカエルとシェムハザと 一緒に

幽世に消えた。


榊とボティスも、手ぇ繋いで 散歩に出て、

オレらは、白い砂の 水の中に座って

迫るような星空を見たりした。


光の強さも見える星の数も、普段と まるで違う。

満天の星空 っていうけど、見慣れてねーから

畏怖感ある。天の川見たのも 初めてだったし。


『この中に居るんだな... 』とか

『“降るような” って 言うけど、天の川は

宇宙に吹き上がっているようにも見えるね』とか

どーでもいいこと 話してて

けど それが、心地よかったり。


『“よひよひに 天の川なみ こひながめ

恋こふらしと しるらめや君”』


『おう?』『四郎?』


『与謝野晶子の短歌で御座います。

最近、見つかったものと言われております。

離れ暮らす 兄に向けて詠んだもの... と

言われておりますが、言葉は残るのですね』


『意味は?』と、ジェイドが聞くと

四郎は『おお、はい... 』って なんか照れてるし

宵毎よいごと... 毎晩、天の川波を眺め 恋しく思い悩み

愛しく思う このこころを、あなたは 知っているのだろうか?』って、朋樹が訳する。


『ストレートなのに、美しいね』

『おう。与謝野晶子は、情熱的なやつ 多いぜ。

魅力的だよな』


普通に流れていったけど

高校生男子が、コイの短歌かぁ...

“天の川” で 思い浮かんだのかな? とかも

思ったけど、泰河も “ふうん... ” ってツラで

四郎 見て、指が ヒゲにいってた。


シャワーで 砂 流して、テントで着替えると

簡易ベッドに 転んで

ゆっくり上下する パラシュートと狐火見ながら

他愛もない話してるうちに 眠って。

知らねー 場所の、何もしない夜って いいよな。


起きたら、ミカエルもシェムハザも居て

アコも戻って来てたんだけど

テントで朝飯食って、ボート乗る時に

『シイナに喚ばれて、店に行ってたんだ』って

言ってて、ちょっと気になってるんだよなぁ...

ジェイド居るし、詳しく聞いたり出来なかったんだけどさぁ。


で、今は、奈落の森と入れ替わった場所がある っていう 無人島に上陸したとこ。


「島、小さいよな」

「砂 白いけど、さっきまで居たとこ程じゃないね」


見た目、こんもりとした森の外周が 砂浜になってる、無人島らしい 無人島。


指鳴らして、トゥアルの白い砂浜から

テントを取り寄せたシェムハザは

「着替えろ」って言うし

テントの氷テーブルの上には、黒ツナギが入ったダンボールがある。


「仕事着?」


「当然だろう?」


シェミー、好きだよなぁ...


「遮光 及び、虫除け効果もある。

今までも 術で虫除けはしていたが。

蚊がマラリアを媒介するからな」


「えっ?」

「オレら、予防薬とか飲んでないんだけどー... 」


「いや、認識されん。大丈夫だろう」つってるけど、動物には されるじゃねーかよー...

虫は どうなんだよ...


不安になって、無言で着替えてたら

「洞窟を勝手に通ったのは、お前達だろう?」って 呆れられて

「うん」「ごめん」って 反省するんだぜ。


ツナギに仕事道具入れ巻いて、夏仕様のブーツ履くと、隊長のシェムハザに続いて、テントの裏から 獣道に入る。

森ん中でも、一つにまとめた小麦色の髪が輝く。


四郎が「格好良いですね」って

ツナギ喜んでるし。

肩とか しっかりしてきたよなー...

こういうシンプルなやつ着てると 分かりやすい。


「むう... 縄のような蔓といい、嗅ぎ慣れぬ匂いといい、南国の森であるのう。

草木の勢いのさまよ」


赤いツナギ姿になった榊は、人化け解いて

シェムハザとボティスの間に入ってる。

森だし、副隊長らしい。


ジェイドと朋樹も続いて、オレと泰河の後ろに

ミカエルとアコ。


「ミカエル、隊長やらないんだ」って 言ったら

「だって 俺、場所 知らないぜ?」って

アコと、エステルの花探ししながら ついて来る。


「ミカエル、ちょっと入れ替わってくれよ」


「うん?」


なんか閃いた顔の泰河に言われた ミカエルは

泰河と入れ替わって、オレに 手ぇ差し出してきた。なんでだよ...


「お前、ルシフェルの方がいいのかよ?」って

言うから「いや 違うし... 」って 繋ぐけど

もう よく分からねーんだけどー。

皇帝に対するライバル心は 確かだろうけど

ミカエル自身も よく分かってなくて

「あれ?」つってるしさぁ。


「... “シイナに喚ばれた” って、言ってたよな?」


ヒゲの小声。

「うん。やっぱりニナが、ぼんやりしてるから

気になる って」

アコの小声。


「店で、俺が目立つ席に 一人で座ってても

ニナは、気づかなかったんだ」


ボンデージバーは、店内自体にインパクトあるけど、店の女のコたちは 客を見てるし

アコの周りには、女のコが群がるから

すぐ目に止まる。


「えー、重症じゃね?」って 振り向いて言ったら

泰河が、オレの前を見る。


ん? って見たら、ジェイドが

“何の話?” って感じで、振り向いてたから

ミカエルが、繋いだ手を 上に上げて見せた。


「確かにね」って 前向きやがって

軽く脱力するんだぜ。


「俺が、“ニナ” って 名前呼んでも 気付かなかったけど、シイナが呼び止めて。

やっとこっち見て、“アコちゃん、来てたの?” って いつも通りだったけど」


ニナは 店で、男にも女にも人気あるらしくて

“ニナちゃんニナちゃん” って 呼ばれるけど

バリから戻ってからは ぼんやりしがちで

店のヤツにも、やんわり注意されてたみてー。

いかんよなぁ...


泰河が「呪詛?」って 聞いたら

「多分。シイナが、ジェイドの話し してみたけど

俺等の話する時みたいに、普通の返しだったみたいだし」って 肩竦めて

「あっ、食虫植物だ。エステル、近付いちゃダメだぞ」って 注意してる。


「日本に居る限りは、心配 要らないし

洞窟抜けて来たって、認識されないから

時間経過で 呪詛は解けるかもしれないけど」


「おう。バリアンの方には、ニナに掛けた っていう意識が無いもんな」


まぁ、まだ帰って 二日三日だし

夏の旅行先で、“ちょっといい” なんか思っても

アバンチュールみてーなもんだし、大丈夫かな。

他に何か 影響が出ねーかは 心配だけどー。


トラップみてーに 地面張ってる根に 足取られて

「大丈夫か?」って、ミカエルに助けて起こされたり、「一度 休憩する」って、青い瓶の水もらって 飲んだりして、まだ奥地へ進む。

木の枝から、バサバサって 派手な鳥が飛んで

日本の森じゃないって実感するんだぜ。


「しかし、こうして お前達を連れて来る事を考えると、スマトラ島などではなくて良かったが... 」

「虎がいるからな」


「ゾウとかサイもいなかったか?」

「スラウェシ島?」

「怖ぇし」

「そんなんだったら、行かねぇよ」


「しかし、私は 大型の動物を

実際に見たことがないのです」って言う 四郎には

「うん。今度、アフリカのサバンナへ行こう。

トラはアジアだけど」って

ミカエルが 生サファリに誘ってる。


「... む?」


目の前の 何でもないシダの茂みに、榊が何か反応した。


「結界の如きものよの」


「マジか... オレ、分からんかったぜ」


朋樹、ちょっと くやしそうだし。


「あるな」って、ボティスも言う。

オレにはサッパリだったけど、神隠しより

感覚的に “何かある” って 分かるらしい。

榊は、獣的な感も働いたみたいだ。


「宗教の違いでしょうか?」

「トゥアル島は、イスラム教が多いのかな?

ジェズの像も あったけど」

「ミカエルは、イスラム教でも信仰されてるだろ? “ミーカール”」


「でも俺、術は分からないぜ?」


隣で、当然みたいに答えてるんだぜ。

「何かフルーツ欲しい」つって、シェムハザに

ぶどう もらってるし。


「とにかく、大樹を探してみるかな」


朋樹は、森の主みたいな大樹を探すために

シダの間に手のひらを着けて、緑の呪の蔓を伸ばし始めた。

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