32


********




「地上の調査をさせたところ、他にも

移動した箇所や 入れ替わった部分が見付かった。

人が立ち入らんような場所ではあるが

日本の森の 一部も、密林と入れ替わっている」


アコが戻って来たし、ハティも喚んで

飯 食いながら、話ししてるんだけど

ヴィラから、バンで 30分くらい走った場所に

カフェやレストランが並んでる場所があって

その 一軒に入ってる。 


バンに、サロンとサプッを積んで

そこら中に供えてある チャナン見ながら

一本道を ひたすら走って、いつの間にか 周りは緑。道路沿いの駐車場に バン停めて

アコが『入場料払ってくる』って 払いに行って、

山でかよ? って 思ってさぁ。


カフェの 一軒に入って、テラス席に出たら

目の前に、棚田が広がってた。

カフェとの間の 渓谷の向こうに

曲線を描く水田の階段。

椰子の木が生えていて、日本の棚田とは違う風景だった。


『おお... 』

『どこか 懐かしゅうもあるのう。

今でもあろうが、昔は 三の山の中腹も

このようであった』


四郎と榊が、目の前の風景と同時に

記憶の中の風景も見ているような 表情になって

『うん、きれいだ』って言った ミカエルにも

嬉しそうに頷いた アコが

『その席と その席』って 差した席は

六人掛けの東屋席の二つ。


『バリは 三毛作らしい。

全部が緑になっても、稲がなってもキレイだろうけど... 』


サンダル脱いで、席に座って

渡されたメニューを見ると、日本語も載ってた。


『助かるな』

『この、揚げたアヒルの 食ってみたい。

べべッ ゴレンてやつ』

『カレー アヤム』とか、いろいろ取ってもらって

催眠掛けられた状態の店員が、料理やスムージー、アイスティーを運んでくれた後に

ハティを喚んで、榊が 東屋を神隠しした時に

日が暮れ出した。


棚田の水面の水が、夕日のオレンジと

ピンクや群青の空を映して

緑の畦や 椰子の木、渓谷も、

オレンジの柔らかい陽に染まっていく。


木々や 畦の草の緑の夕日に、どこか 懐かしさを刺激されながら、空や 空気の色が変わっていくさまに 眼を奪われていると

『こういう風になるかな って 思ったんだ。

晴れてて良かった』って、アコが言う。

よく分からんけど、泣きそうになるし。


『良し、なかなかだ』

『素晴らしい』って、ボティスとシェムハザも

アコを褒めてる。


水の棚田を見つめていた ハティが、満足げに アコに頷くと、『よし、じゃあ食おう』と 照れながら

『シロウは、特に いっぱい食うんだぞ。

榊に負けないくらい』って、シロウの取皿に

アヒル肉や 鶏のサテを積み始めた。


で、ハティの地上調査報告 聞いてたんだけど

「これにより、生態系のバランスに乱れが生じる恐れがある。

日本の森と入れ替わった密林からは、ハキリアリやドクチョウ、ツノゼミなどが見付かった」って

良くなさそーなことを言った。


「へ? 場所だけが入れ替わるんじゃなく... ?」

「それさぁ、オレも

例えば、“三の山と どっかのジャングルの山が入れ替わった” としても、榊たちごと移動するんじゃないんだと思ってたんだけどー」


頭ん中には、昨日まで里だったはずのジャングルで、首を傾げる榊、玄翁や浅黄が浮かぶ。


「しかし、珊瑚礁が移動しておったのです」


あっ...  珊瑚は、動物だった...


「考え方は 間違っていない。

もし、三の山のと どこがが入れ替わろうと

“霊獣等” の 移動はない。

ゴブリン等の地底洞窟も、他の洞窟と入れ替わったが、ゴブリン等は 移動していなかった。

しかし、動植物は 場所に伴い入れ替わる」


「どうしてなんだ?

もし、人間がいる場所が入れ替わったら

人間も移動するんじゃないのか? 動物だから。

ゴブリンやドラゴンも 場所と一緒に入れ替わっても、おかしくはない気がするんだけど」


魚のすり身のサテ食いながら、ジェイドが言うと

「多分だけど、人間が認識してるものが移動するんだろ。地上は人間に与えられたから」って

ミカエルが答えて、ロントンっていう 餅みたいなやつ食ってみてる。

葉っぱに包んで蒸すか何かしたやつで、白飯の代わりって気がするから、オレはサテとかと 一緒に食った。


「虫とか入れ替わっても ヤバいんじゃねぇの?

ドクチョウって、毒あるんだろ?

周りにも拡がったら... 」


アヒル肉 食ってる朋樹が言って

「分かった時点で、対策は講じたんだろ?」って

ボティスも ハティに聞くと

「ベルゼの虫に頼るしかなかったが... 」って

似合わねー ビール飲んでる。


ブラジルの密林では、オオスズメバチが見付かったらしいし、仕方ねーのかもな...

ベルゼの虫に、その土地には生息していないはずの虫を 食わせてるらしい。


「また、植物なども混雑させんよう

地上から 根のある地中まで、移動した範囲を

囲っている」


けど、気付くの 結構 遅かったから

もう 混雑はしてるかもだよなぁ。

風で花粉は流れるし、蝶とか蜂も 花粉運ぶし。


「動物は?」


バビ グリンっていう、焼いた豚肉食ってみてる

泰河が、心配そうに聞いたら

「それぞれの土地に移送している」って返ってきて、オレも安心したんだぜ。


「これ等の異変の原因は、まだ調査中だが

入れ替わった土地が 住処であった者等の多くには、帰巣本能が備わっている」


ん? ナシゴレンを運ぶ スプーンの手が止まる。


「住処に 移動しようとしているのか?」


パリパリに揚げてある ベーコンを

指に摘んだままのシェムハザが、眉をしかめる。

ゴブリンやドラゴンが... って ことだし

マズイんじゃね?


「移動せぬよう、パイモンやニルマ、ヴァイラやレスタが 説得して回っている」


ハティは、サテの串 持ってみて ため息ついてる。

「カレー アヤムと、この餅みたいのも合う」って

四郎に教えてる ミカエル見て、ちょっと 肩が落ちたように見えるし。


「しかし、儂等であっても そのような事になれば、里を恋しく思うであろうよ。分からぬではない」


そうだよなぁ。住み慣れてるし

少しずつ 皆で造ったんなら、余計に。


「ちなみに、日本の森と入れ替わった 南蛮の密林には、どのような者等が棲んでおったのでしょう?」


ミカエルおすすめの カレー アヤムとロントンを前に、四郎が聞いたら

「“ボラロ” という者等だ」って サテ食ってる。


白い者達 って意味の、背が高い 毛むくじゃらのヤツらで、膝がない 後ろ向きの足をしてて.

石のくわを持って、食料の人間を探す... ってヤツ。

石の鍬 って、カンベンしろよ。


「移動した 日本の森にいたのは?」


「ケセランパサラン」


安心したぜー。


「何とか、入れ替わった土地を

戻せぬものかのう... 」


一人で 一羽のアヒルを骨にした榊が言うと、

「土地を切り取り、入れ替える事も考えたが

それ程の事をするならば、我の軍を喚ぶこととなる。地上への影響を考えると... 」って

黒い睫毛が並ぶ 赤い瞼を臥せた。


「バロンが居た場所も

移動しちまったんじゃねぇの?」


泰河が 考えなしに言う。

朋樹が “ん?” って 考えるようなツラになったけど

「“森の王” なんだろ?」つってる。

珊瑚礁の移動を、ヴィシュヌが知って

バリ島の森も チェックしたと思うんだぜ。


けど「里みたいに、神隠ししてあったら

移動した先でも、里は見えねぇんじゃねぇの?」って 付け足してて、そっか... って なった。


「だけど、魔女ランダと戦い続ける存在なのに

移動したりするかな?」


「そのランダは、どこに居るんだよ?」


えっ?


「だってさ、せっかくバロンが居ねぇんだし

幅 利かせるチャンスなんじゃねぇの?

出て来ねぇしさ。

花火見た時、魔女みたいなヤツら出て来ただろ?

緑の女。レヤック?

あいつら、遺跡抜けて 日本に入る時

何かを探してるように見えなかったか?

バロンとランダが戦ってる時に、森が移動して

ランダが そっちに逃げたら... 」


「泰河 おまえ、そいつらが

ランダを探してた って いうのかよ?」


シェムハザが、透過スクリーン取りに行って

ハティに渡してる。


緑女たちが、ひそひそ何か話してから

日本側に入って来てるのを見て

「確かに、泰河が言うように

何かを探して、入って来たようにも見える... 」と

二度目の ため息をついて

「だいたい、守護天使等が探せぬのであれば

バリ島に居ないか、神隠しなどで隠されている

恐れが高い」って、ビールを空けた。


「ガルダ」


ボティスが喚ぶと、師匠が顕れて


「ハーゲンティ。うん? ライステラスか... 」って

バルフィと インディアンコーヒー出してくれたけど、「ランダは居るのか?」と 今の話しをしてみてる。


「居らんのか?」


師匠、知らねーんだしぃ。

でも もし、“ミカエルが居ない!” ってなっても

皇帝 探したりしねーもんなぁ...

ハティ、バルフィ食っても 普通の顔してるし。


「その上、神隠しの恐れ だと?」


オカッパ頭で 難しい顔してるけど

そりゃ なるよなー。


「簡単に分かる方法もあるぜ?」


インディアンコーヒーのカップ持った ミカエルに注目すると

「“バリ島の地表だけ” 炙る」って 言った。


「そうか、バリ島と限定して炙れば

島内には 炙られない箇所が出て

他の国では 入れ替わった箇所が炙られる」


日本の三の山と入れ替わった としたら

バリ島と、日本では 三の山だけが炙られて光るってことになる。


「しかし、神々や バロンも炙られようよ」


「うん」


ダメじゃね?


「だが、隠された場所と入れ替わっているなら

探すのは至難の業となる」


ボティスが言うと、師匠は ヴィシュヌたちに

相談しに行くことにするようで

「もし、バロンもランダも消えたとなれば

最早 バランスなどの問題ではない。

二元論そのもの の 喪失となる。

島も人心も、混沌に帰す」と、厳しい顔になった。


混沌って、いろいろ入り混じってる様子だよな?

聖書や神話だと、光と闇が 分かれる前だったり

天地が 分かれる前だったり。


あれ? なんか、相当 やばくね... ?

だって、全てが破壊されて 消滅しねーと

混沌に 戻らねーんじゃ...


「また来る」


厳しい顔のまま、師匠が消えると

ボティスが 守護天使を喚んで

「ランダも探せ」と 命じる。


「さて。まだ推測の域ではあるが

ベルゼやパイモンに 報じておかねば... 」


ハティが 立とうとしたのを、ミカエルが

「待て」って 止めて

「ザドキエルが喚んでる。天使召喚円」と

ジェイドに、ルーシーで円を敷かせた。


「ザドキエル」


ミカエルが喚ぶと、ザドキエルが円に立つ。


『ミカエル。書状を渡しに行っていた

第六天ゼブルの天使が、手ぶらで戻った。

というか、奈落へ向かった 第四天マコノムの天使たちが

奈落の外に倒れている所を保護して、天に連れ帰ってきた』


ん? 奈落の囚人リストを持って 戻るんじゃなかったっけ? 倒れてた?


『どうしたのかを聞いたら

“奈落を出て、ミカエルに襲われた” と 言うんだ』


「は?」「どういうこと?」


つい、オレらが 口を挟むと

『いや、誰も信じていない。サンダルフォンすらね。それしか話せないし、記憶も喪失している。

術によるものとは思うが、私がみても、みえないんだ』と 初めて、苛ついた顔を見せた。

ザドキエルは 記憶の天使 だし、ザドキエルに見えなければ、誰にも 見えないだろう。


『今、記憶は再生しようとしているし

第四天マコノムの天使たちも、また 奈落へ向かったが

戻った天使が、あからさまな嘘をかされているのが 気に掛かる。

奈落で術を掛けられたか、外で掛けられたのかも 分からないが、第六天ゼブルの天使に それを出来る者が居るってことだ。

まだ 父には報せていないけど、長老たちが不安がってる』


ミカエルは、ザドキエルに

「分かった。一度 戻る」と 答えると

オレらには「すぐ戻る。バリに居ること」と 言って、暗くなった渓谷の上に エデンの扉を開き

階段を昇って行った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る