16


「司祭、ありがとうございました」


「いいえ 何を... こちらこそ」


「また 伺います」

「もし、何か ありましたら

ヴィタリーニの教会に連絡を... 」


西原司祭と固く握手して、教会の扉を出る。

「御大切」と、四郎が 右手を胸に当てると

扉の前に立った司祭も、同じように手を当てた。


もう 一度 会釈して、駐車場でバスに乗り込む。

今度は、オレが運転。

長く居たような気がしたけど、教会に居たのは

一時間くらいだった。


「なんか、道 混んでんな... 」


大きめな通りに出たら、やたらに渋滞してるし。

「祭 あるからじゃね?」って言ったら

「ああ... 」って 泰河も納得してたけど

リラの父さんのパン屋は、この道の先にある。


「どーするう?」

「ホテルに車停めて、歩いた方が早いかもな」


「ルカ。リラさんの御父上とは、お会いしたいのでしょうか... ?」


「えっ、いや... 緊張するしさぁ」


会ってみたい とも思うけど

何か話したりとかは、する気ねーし

本当は、オレが行かねーほうがいいのかも... とも 思う。


「見て参ります」って、隣から 四郎が消える。


「あっ!」


掴み損ねたぜー。


「またか、四郎... 」

「さっきの教会の四郎とは、大違いだよなぁ」


じりじりと バス進ませながら

「ま、でも 安心もするけどな」って 言ったら

「おう。しょっちゅう説教されるくらいが普通 の年頃だしな。あんまり聞いてなかったけどさ。

“分かった 分かった” つって」と、泰河が 言って

そんな感じだったよなぁ... って 懐かしむ。

あれ? じゃあ、四郎も 話 聞いてねーのかな?


「しかし、進まねぇよな」

「どっか 通行止めにしてんのかもなー」


「戻りました」


「おっ」って、匂いで 隣見たら

パンも買って来てくれてたし。


「ありがとー」

「でも、消えたらダメだろ 四郎」


泰河がパン代 渡しながら言うと

「はい」って、最近、注意された時に よく見る

バツが悪そうな 安心したような顔になる。


「とりあえず、ホテルに戻るか」って

部屋に戻ると、ミカエルとシェムハザも来てて

榊たちも戻ってた。

シェムハザがコーヒー 取り寄せてくれる。


「ミカエル、パーティーだったみたいじゃん」


「うん、楽しかった。ワインとチーズ貰ったんだぜ。マドレーヌとマカロンも、メレンゲも。

いつも シェムハザが取り寄せるのに」


そう言いながらも、すげー 上機嫌。

ブロンド睫毛が眩しいぜ。


「昼間、子供たちが描いてくれたんだ」って

ベッドの 一つを指差した。

画用紙が たくさん広げられてて

どれも くせっ毛ブロンドのミカエルの絵。

榊とジェイドが、一枚一枚見てて

隣のベッドに座るボティスは、

葵や菜々、葉月から貰った手紙を読んでる。

別にある紙袋は、ボティスへの クッキーとマカロンらしいし、相変わらずモテるよなぁ。


「ワインとチーズは、夜にする」って言ってるけど、テーブルにはマドレーヌやマカロンが並んでて、更に四郎が 買って来たパンも出す。

クロワッサン取って食うけど、美味いし。

マカロンは、一個だけ やけに真っピンクだったけど、四郎が食ってみてる。


朋樹とジェイドは、シェムハザやアコと

洞窟からバリに出た話しをしてた。


「珊瑚礁が見つかったと?」


ソファーに座った四郎が、今度はパン オ ショコラを 一つ持って、ラテ飲みながら聞くと

「うん、そうなんだ。俺も見て来た」って

ミカエルが答えてる。


「それで、ひとつ 分かったことがある」


アップルパイを取りながら、ミカエルが言うには

「潮が満ちる時、一緒に砂も満ちる。

珊瑚礁は、無くなってなかったと考えられる」


つまり、珊瑚礁が無くなったように見えたのも

洞窟の入口の高さが変わってたのも、砂に埋まっていて、そういう状態になっていたらしい。


「珊瑚礁の下部が、昨日より 砂に埋まってる状態だったし、珊瑚同士の隙間にも 砂が残ってた」


「なんで? “砂が減った” ってのは

聞いたことあるけどさ」


「さぁ。洞窟から バリだったんだろ?

中の門が閉じると、珊瑚礁も 砂に隠れるようになってるんだろ。また 白蝶貝も見つかったからな。

あの辺の珊瑚礁みたいだし」


ミカエルが適当に返してきてたら

アコが、透過スクリーンを オレらに渡して

クロワッサン取りながら

「そう。配下に 調べさせた」って

海中の写真を見せた。


「えっ?」「これ、変じゃね?」


珊瑚礁の画像なんだけど、一部が キレイに切り取られたように、不自然に消失してる。


スクリーンを四郎に渡すと

「広い範囲のようですが、断面が直線ですね。

自然に起こったようには... 」って 首を傾げた。


「この、切り取られた部分が

こっちの海の中に移動してるんだ」


もう一枚、透過スクリーンを渡してきたけど

この珊瑚礁の画像は、こっちの海のもの。


「重ねてみて」


四郎に もう一枚の透過スクリーンを渡して

二枚を重ねると、珊瑚礁が消失してる部分に

こっちの海の珊瑚礁が ぴったり嵌った。

でかいパズルみてー。


「洞窟も見て来た。

俺は通れたけど、アコとシェムハザは 通れなかったんだ。遺跡で喚んだら、二人共 顕れたけど」


「じゃ、門は 魔除け?」


「そうなるだろうな。また 潮が満ちて来たら

観察する必要があるから、洞窟と 海底の珊瑚礁には、シェムハザが カメラを付けてる」


「洞窟は分かるけどさ、海底には どうやって付けてるんだ?」


泰河が聞くと、アコが

「位置固定したボートの底」って 答えた。

術で ボートが動かないように固定して、人避けして来た って言う。

「珊瑚礁の場所の 目印にもなるし」


「今 それに映ってるのも、海底の様子。

縮小して 全体が映るようにしてるけど。

洞窟のカメラは、バリの遺跡側にも付けたぞ」


これで観察することになるけど

「でも、夏祭りに行くぞ。

浴衣に着替える前に、風呂に入って来いよ」って

アコに 部屋出された。




********




「おおう?! シェミー!」

「黒なら 似合うんだな」


「そう。温泉旅館では最悪だったからな。

丈も まるで足りていなかった」


過去、ボティスが オレらを置いて行った温泉に

勝手に行ってやったことがあるんだけど

シェムハザ、旅館の白い浴衣姿は 妙だったんだよなぁ...  で、何の為かは 知らねーけど

「もう、城で作った」っていう、今 着てる

黒い浴衣にグレーの帯とかだと

やっぱり輝いてるし。


「お前の鑑賞会になるんじゃないのかよ?」


榊に 臙脂えんじの帯 巻いてもらってるミカエルは

黒っぽいグレーの浴衣。似合うじゃん。


「心配するな。俺は、お前達以外には見えんよう

目眩ましするからな」


シェミー、浴衣 着なくて いいんじゃね?

みんな着てるし、着たいんだろーけどー。


巻いてる榊は クリームの地に椿。赤い帯。

纏めた黒髪に 椿の髪飾り。かわいーしぃ。

やっぱり、和装 いいよなぁ。


朋樹は 自分でやってるけど

オレらも 帯巻けねーし、

榊と四郎にやってもらおー って、順番待ち。


「アコ、大人しいやつ買って来たんだな」


アコが買って来た浴衣は、榊の以外

ちょっと色味が違っても、全部 無地。

黒、紺、グレー。いや、これでいいんだけど

模様入ったやつとか 買って来そうだったし。

サイズが違う四郎のも、紺の浴衣に 濃紺の帯。


「うん。お前等、見た目が うるさいから。

浴衣は しっとりしたイメージあるし。“情緒ジョーチョ”?

それが良いから、少しでも 近付けようかと思ったんだ」


で、浴衣 羽織ってみてる オレら見て

「朋樹とシロウは 似合うな。うん、こういうイメージ。ルカも まぁ普通」って 言ってるけど

「俺が 買って来たけど、泰河とジェイドも 着るのか? 俺、そういう雰囲気は 求めてないんだ」

とか 言われてるんだぜ。

アコは、明るいグレーの浴衣に 黒い帯で

オレより 似合ってやがる。


「失礼じゃねぇか?

アコ、黒髪黒眼でも 彫り深いくせに」

「僕は、自分じゃ 似合うと思うんだけど... 」


「お前等、ガラ悪く見えるからな」って

黒い浴衣に臙脂の帯で ベッドに転んでるボティスが、ピアスはじいてるけど

おまえには、軒並ノキナミ負けると思うんだぜ。

不思議と 浴衣は似合ってるんだけどー。


「ルカ、結ぶ故」って、榊に

腰んとこで 帯巻いて やってもらってたら

隣で、泰河の帯やってる四郎が

「何か 楽しいですね」って、ニコニコしてる。


「まだ 何もしてねぇじゃねぇか」

「着替えてるだけだしさぁ」って 答えたら

「このように、皆で 楽しむ支度をして」って

言うし。

もー、祭で出来ること 全部させてやるぜー。


「榊」


ボティスが、榊に マネークリップごと預けてて

赤い巾着に入れてる。

オレらは「手ぶらが いいよな」って

それぞれ帯に、さつだけ挟んでたら

「仕事道具」って、ボティスに言われる。


「浴衣にベルトかよ?」って 言ったら

「帯に付くようにしてやろう」って

シェムハザが 指を鳴らして、帯の右下側に

それぞれ 仕事道具入れが付いたけど、

浴衣にレザーだと 浮いてるし。

「神隠しする故」って言う榊に 隠してもらう。


「地界の素材で作った」って、シェムハザが

取り寄せた下駄は、見た目は普通の黒い下駄だけど、履いてみた四郎が「おお!」って 感動してる。足裏に着く部分が クッションになってて、

足と 一体化したみたいになる。

鼻緒の負担が 指の間に掛からねーし。


「昨年、城で花火をした際に 浴衣を着用したが

鼻緒で アリエルの指の間が擦れた」ってことで

開発したらしい。相変わらず すげー。


「よし。シロウ、行くぞ。

お面を買おう。お前達も買うんだぞ」


シロウの肩に腕を回す 隊長のアコに次いで

部屋を出る。

エレベーター 降りて、ホテル出たら

「じゃあな」って、ボティスが 榊 連れてった。

うん、そーだよなぁ。


まだ 18時くらいだし、外は明るい。

オレらみたいに 浴衣着た人たちとか

そうじゃない人も、だいたい同じ方向に向かってる。


「今、人がたくさん向かってる この 一本裏の道沿いと、その先にある 海が見える でかい広場に、

夜店が出てるんだ。

広場の方は、この辺りの店も 屋台で出店してる。

花火は、広場の方が見えるけど

ビーチの洞窟の崖からも 見えると思う」


アコ、調べてんなぁ...


「じゃあ、広場から回って

花火が始まる頃に、崖に向かう?」

「うん、それもいいよな」


なら、空いてる道から 広場に向かおうぜ って

ホテルの前や ビーチの崖の丘の前を通って

海沿いの広場に出た。


「公園になってるんだ」


海が見える公園は、周りに遊歩道があって

歩道の外周は、腰の高さくらいの人工木の柵で

囲まれてる。

端に遊具があって、まだ子供が遊んでるし。

それ以外にあるのは ベンチだけ。

結構 広さあるし、普段は 寂しい感じっぽいけど

今日は、周囲に店も並んで 人も多い。


「タピオカミルクティー 飲む?」

「あの辺、テーブルも出てるじゃん。

もう、人が いっぱいだけど」


『“Janne” も、店を出している』


目眩ましした シェムハザが、端の遊具近くの店を指した。


「おっ」「本当だ」


赤い 移動式のショーケースに、パンが並んでる。

あの辺だけ、おフランスっぽい雰囲気。

その向こう側に、エプロンを着けて

長い黒髪を後ろに束ねた 女の子が立ってた。


「最近、バイトで入った子だ」って

アコが言う。詳しいしさぁ。


さっき 買って行って、部屋で食ったのに

「サンドイッチがある」って、ミカエルと

買いに行ってるし。


ジェイドは、シェムハザに言われて

朋樹と四郎と タピオカミルクティー買いに行ったから

「あの子も 順の子かな?」って 普通に言う

泰河と 一緒に、アコの方に寄って行ってみる。


「こんばんは」って、アコに笑い掛ける

バイトの女の子は、ミカエルにも会釈して

「うん、こんばんは。サンドイッチあるんだ」って 聞いてるアコに

「いつもは、夕方だけ出してるんです。

何をサンドするかは、店主の真島さんの気まぐれで 決まります」って 答えてる。


「夕方しかないのか。今日のは?」とか聞いて

スライスしたカンパーニュのサンドイッチ

三つ買ってるけど

「順じゃなさそうだよな」って 泰河が言う。

そう。この子、そういうのにノリそうな感じじゃねーし。名札の名前は 月野サン。

けど、アコとコーヒーとか飲みに行ってる雰囲気も ねーし。... 友達? 店員と客?

いや 別に、いいんだけどさぁ。


「今日は、一日 ここ?」


「そうです。完売するまでだけど...

でも 花火も見れるのが、楽しみなんです」


紙の包みに挟んである サンドイッチ食いながら

ミカエルが戻って来たけど、アコはまだ

「ショーケースは、どうやって運ぶんだ?」とか

話してるし。


タピオカミルクティー 両手に持って、戻って来た

ジェイドから、一つ受け取った シェムハザが

「離れても、アコは 喚べば来るだろう。

もっと マツリらしい店が並ぶ場所へ行こう」って

オレら相手に輝くし

広場から、店が並ぶ道路へ移動することにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る