34 ルカ


二階客用リビングに戻ったら

地下に行ってた ボティスたちも戻って来てた。


出たのは 人霊で、カラオケ大音量だけでなく

モニターにヒビが入ったり、照明器具の点滅しまくったりで、やたら怒りまくってたらしい。

榊が 心経で念を解いて、朋樹が大祓で祓った。


「蝗は?」と、ミカエルが聞くと

ボティスが「出なかった」って 答えた。


「鬼などが出たこともあり、近くを通った霊が

引かれて参ったのであろうの。ふむ」


霊とか妖しとかも、そんな強くないヤツらって

集まったりするもんな。

心霊スポットとかにいる霊だって、全員その場所で、生前に何かあった訳じゃねーんだろうし。


今んとこ、タブレットには何も映ってねーし

ちょっと落ち着いてる。

コーヒー 飲みながら話し中。


シェムハザが まだ戻ってないから、アコが買って来てくれて、アンバーが 生クリームのカップに

顔突っ込んでるところ。

琉地は、四郎と遊んでるけど

榊は そっち見ねーし。


「けど、魔人にも 蝗 仕込まれるのはな... 」


朋樹が 蛇みたいなメレンゲ摘んで言った。


魔人たちは、“静かに過ごしていきたい” って

人たちが多いし、こういうトラブルに巻き込まれるのは イヤだろうな...

それを対処することで、敵対することになる とかは、オレらも避けたい。


「その魔人の子たちは、昨日までも

この家に来てたのかな?」って

ジェイドが 疑問そうな顔になる。


「そうだよな。

夜、そんな小さい子を 外に出すか?

モレクの時の生贄に、魔人の子が拐われただろう? 親は心配してたんだよな?」って

朋樹も眉をしかめる。


「それに昼間、この家には

まったく 何の気配も無かっただろう?

夜になってから、外から集まって来てる。

同じゴーストや妖怪なら、昼間は家を出る理由が

よく 解らなくないか?」


うん、ずっとここに居りゃ いいもんなぁ。


“同じ 一人の霊” とかなら、まだ 解るけど。

“夜になったら出る” っていうような、通って来るヤツもいる って、たまに聞くし。


でもそれは、“家” に 憑いてるんじゃなくて

“人” に 憑いてる場合が多いと思う。

その人のところに 毎晩通って来るから

その人が移動すると、移動した場所にも出たりする。ま、移動したら 出ないヤツもいるけどさぁ。


この家では、人がいない階でも ポルターガイスト現象が起こってるし、人に憑いてるんじゃなくて

家に入って来てる って気がする。


同じことに気付いた 朋樹が

依頼主の大蔵さんや、執事っぽい貝沢さんに連絡して

“移動したホテルでも 現象は起こってるか”、とか

“家具は どういう移動の仕方をするのか”、とかを聞く。


通話を終えると

「ホテルでは何も起こってねぇし

家具は、床を擦るように ゆっくり移動してるのを

見た... って 言ってた」って ことらしく

黒オニの動かし方とは 違った。


「昨日と 違うヤツらが来てる、って ことか?」


だったら、ここで ポルターガイスト起こしてるヤツらは、毎日 入れ替わってる... って ことになる。


「なら、昨日 ここに来たヤツらは

違う場所に行ったのか?」


「この家は 通り道ってこと?

どこからか来て、通り過ぎる途中に寄る とか?」


オレらの話しを聞いて、ボティスが

「それなら、蝗配りをしているのは

この家より上 ってことだろ?

山を登っても、人間はいないからな」と

ピアスをはじいた。


山の上の方で、蝗配りして

蝗憑きの妖しとか いろいろが、街に降りるまでに

この家を通る... って 考えられる。


もちろん、ただ通り過ぎるのも いるだろうし

違う場所を通るヤツもいると思うけど。


だったら、元の場所を 何とかしねーと

この家では 毎晩ポルターガイスト現象が起こるし

蝗配りしてる ってことは、天逆毎アマノザコか その子供が

そこにいる ってことになる。


「じゃあ、あの洋館じゃないのか?」

「あぁ、勝手に 霊とか寄り付いて来るとこな」


朋樹や泰河が言って、榊や浅黄も

「おお、化け合戦の折りの」

「うむ。有り得るかも分からぬのう」って

頷いてる。


「説明」って ミカエルが言って

「祓っても祓っても、すぐ いろいろ集まってくる

心霊スポットみたいな洋館があってさ... 」と

泰河が話してたら

水竜巻が上がって、柘榴が戻って来た。

オレらは 自然と背筋が伸びるんだぜ。


「おお」「柘榴様」


榊がソファーを立って、浅黄は床に移動してる。

ミカエルが「雷女」って 言ったのを

「やめろ」と ボティスが止めた。


「柘榴、珈琲いる?」


アコが買いに行こうと立つけど

ちょうど、シェムハザも戻って来た。

琉地と寄り添って座ってた、四郎の腹が鳴ったし

「食事にしながら 話すか」って

シェムハザが 取り寄せる。


「浅黄」って、ボティスが 朋樹を退けて

ソファーに 浅黄を呼び戻したし、人数多い。

床で食うのも なんだし、オレらと四郎は

リビングと繋がってる ダイニング部分に移動した。


テーブルには、魚介のサラダ、ラム肉のソテー、

エシャロットの生ハム巻き、ムール貝の白ワイン蒸し。トマトとオリーブのパスタ、スライスしたカンパーニュ。クリームチーズのフリット。


「また豪勢ですね... 彩りも綺麗です」


四郎は、“わぁ... ”って 顔してる。

柘榴がソファーから 四郎に振り向いて

優しげな顔を見せた。

そっか、子供好きだったよな...


アコが、白ワインの栓を 指ではじいて開けて

こっちに 一本渡してくれる。


浅黄からグラスを受け取った 柘榴が

「鬼等には、銀蜘蛛を渡して参った。

女等にも皆 一匹ずつ行き渡ったが... 」って

話し出した。


「女等?」と、朋樹が

椅子から振り向いて聞き返したけど

柘榴も、事情を知ってそうな 榊や浅黄も

無言で グラスを口に運んだり、料理を取ったりしてる。聞かない方が いいっぽいよなー。


「黒風は、山菜などを取りに 鬼里から降り

中腹の洋館近くの 森にったようじゃ」


やっぱり洋館かぁ。


「もう、そこだよな」

「たぶんな。勝手に集まって来るんだしさ」


「魔人の子達は、昼間

“お化け屋敷” とやらに居たようだ。

あの子達の能力は、姿を目眩めくらまし出来る事だ。

夕方から どちらの両親も探していたが

人間の家に入り込んでいるとは思わなかったらしい」


そして、考え付いた最大限の悪いコトが

羽根布団の中身を出して散らかす... ってこと

らしかった。


「なんで “お化け屋敷” に 居たんだ?

怖くなかったのか?

お化け屋敷には お化けがいるんだぞ?」


ラム肉食ってる アコが聞くと

「秘密基地にしていたようだ。

“昼間は 人間が来ないから” と 言っていた」って

シェムハザが答えた。


「魔人の “子”、と?」


柘榴が 冷ややかな声で聞いてる。

シェムハザが説明したら

幼児おさなごに そのような... 」って

また オレらの背筋を伸ばした。


「その 洋館とやらに向かうとしてもだ、

アマノザコや 子に気付かれ、姿をくらまされる

... という 事態は避けたいがな」


偵察して 準備してから乗り込む、ってことに

なるよなぁ。


「なぁ、ずっと思ってたんだけどさ

“天逆毎の子” って、呼び名として

分かりづらくねぇか?」


泰河ぁ...


「えっ、何だよ?」って 言ってるけど

みんな “後で良くね?” って ツラになるし。


「“天魔” とかだと、天馬... 馬っぽいからさ

もう、“天狗” で いいかもな って思ってさ」


ずっと思ってて、それかよ...


「ですが、天狗でありますと

様々な魔の方達の 総称となりますが... 」


パスタの おかわりしながら、四郎が言って

自分で ハッとする。


「しかし、まさしく

様々な魔の方々のぬし... とも 言えますね!

泰河。私は “天狗” に、異論 御座いません」


「うん、だろ?」


四郎の支持を得て、泰河は イキイキし出しちまった。得意げな顔してやがる。

もしかしたら 四郎、泰河と合うのかよ?

じゃあ、オレとも合うじゃん。


「天草殿が言うのであれば、

そのように呼称 致すことにするか。のう?」


柘榴も笑顔で同意してみせる。子供には優しいよなぁ。四郎も「はい」って 嬉しそうで

「ふむ」「そのように」って

榊と浅黄も 頷いてるし。


「うん、じゃあ “テング” な。

で、どうするんだ? 偵察も目立つとマズイだろ?」


ミカエルが、呼び名は流し気味に

話を先に進める。


「アマノザコは、生け捕って

日本神側に引き渡しが 望ましいな」


「引き渡したところで、咎められるかどうかは

分からぬが... 」


「しかし、滅してしまっては

須佐様に 猛気が溜まろうよ。

再び、同じような御子を お産みになられるやもしれぬ」


「天狗は?」


「そっちは滅しても構わんだろう。

元々 存在しなかったものだ。

だいたい、アマノザコは 幾らでも魔物を産んでるんだろ?

蝗を呑んだ 奈落絡みの子が居なくなろうと

そう 気にもしないんじゃないのか?」


「いや、また違うと思うぜ?

天魔雄神あまのさかをのかみみたいに、特別な子って気がする。

呪いの像の中で生まれてるし、阿修羅や迦楼羅、

天使とかの 気の残滓を取り込んでる。

天狗には、それなりの力もあるだろうからな」


気の残滓。違う言い方にするなら

残った神力の跡 になると思う。


オレらを呪殺しようとした 矢上妙子っていう魔人は、月夜見とスサさんの神力が残る場所で

呪詛掛けをしてた。


「警戒は怠るべきではないが、

天狗の生死は問わない... と いうことだな」


見つけたら どうするか、っていう

方針は決まったけど、朋樹とジェイドが

「天狗と天逆毎って、一緒にいると思うか?」 とか

「天狗は、呪い像から出たんだろうか?

像は、“一人出すと 一人望む” んだろう?」とか

推測の話をし出した。

まぁ 動く前に、多少必要だよなぁ。


「一緒にいる理由は 無い気もするが...

それぞれで動いた方が、効率は良いからな」


シェムハザが答えた後に、ボティスが

「像から出たかどうか などは分かんが

像が望むのは、“中にいた者” と

同等程度か それ以上の力を持つ者... という気が

するがな」と、眉をしかめる。


「呪物には、そういった物が多い。

貪欲に力を欲し、力を増していく。

最初に取り込まれていたのは、“大勢の人間” だった。これを解放したのは、使命が無ければ降りれない “下級天使” だ。

“迦楼羅”、“阿修羅” と 入れ替わったが

この二神は、同等程度の力だろう。

泰河の獣が犠牲にならずに、阿修羅を出す。

だが、アマノザコが自ら入った。

迦楼羅も入り、天狗を産んだアマノザコが出たが

暫く “アマノザコと迦楼羅” が、像内に共にいた。

また像には、割と長い期間

“迦楼羅と天狗” の 二神が入っていたことになる」


あっ なんか やめて... って思う。

みんな、フォークやグラスを持ったまま

動作を止めちまう。


「迦楼羅が出たが、像は “二神分” の力を覚えた。

まだ天狗が中にいるとしても、あと 神ひとり分の

力を望んでいるだろう。

この状態で、天狗を放すとは考えづらい。

だがもし、天狗も出ていたとしたら

神二人分の力を欲している、と 考えられる」


天逆毎と天狗だけでなく

像の方にも注意が必要 ってことになるよな...


「けどさ、像は 自分から進んで

神とかを 取り込んだりは しねぇんじゃねぇの?」


泰河が言ってみたら

「貪欲だと言っただろ?

今までは “取り込む状況を作っていた” だけだとしてもだ、これからは 自ら意欲的に取り込もうとすることも考えられる。

像は 神を取り込む度に、力を付けている と

考えた方がいい。

神々の気の残滓を餌に、力を欲する神を 誘うこともするだろう。しかも 獣以外であればだ、

天使だろうが 仏教神だろうが、邪神だろうが、

お構い無しに 何でも取り込んでいる」

... って、ボティスが返した。


像の中にいる神とか、像自身の力と

同等程度の力の神なら 取り込まれる恐れはあるし

力が欲しい神が、神の気の残滓 目的で

自分から入る場合も考えられる ってことらしい。


「像が今、どんな姿してるのかも

分からねーしなぁ」


フォークやグラスは再開したけど

「偵察は、僕らが行くのは どうだろう」と

ジェイドが言った。


「おう、ミカエルとかシェムハザとか

榊たちが行くより 目立たねぇよな。

相手も、天使や悪魔とか 神に類するものが 近付いたら分かるんじゃねぇか?

蝗配りしようって 待ち構えてんだろうし」


朋樹も言うと

「待ち構えてるなら、オトリになれる俺等の方がいいだろう?」って、シェムハザが肩を竦める。

「シルバー蜘蛛がいる。

藍色蝗を 飲まされることはない」


「いや、もし 像も居て

取り込まれることがあったら... 」


「えっ?」「ちょっと待てよ、朋樹ぃ」


あるのかよ、それ?

ミカエルとか 取り込まれたりしたら...


ギョッとして ミカエルに眼を向けたら

「いや。それはない」って ボティスが言った。


「異教神 二神程度の力では

ミカエルとは釣り合わん」らしい。


「他にも幾人かの上級天使や

皇帝やベルゼ、ベリアル、アザゼルなどもない」


こう聞くと 安心してくるけど

「しかし、我等なら取り込まれようのう。

迦楼羅様や阿修羅様でも 入れたのだ。

シェムハザやアコならば?」と、柘榴が聞くと

「危ないだろうな」と シェムハザが肩を竦めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る