26 ルカ


迦楼羅や阿修羅は、ミカエルや皇帝のことは 知っていたみたいで

ミカエルも インド神としての二人は 知ってた。

けど、顔を合わせて話すのは 初めてっぽかった。


ボティスたちが ミャンマーのことを話す前から

蝗が出たことは知っていて、そっちの状況は

迦楼羅たちも 配下に見張らせているらしい。

あの辺は 仏教国だし、祈りは すぐに届くようだ。


「そちらの地母神であろう?」


泰河を読んで、キュベレのことも知ってたし

協力してやっていく ってことで、話は落ち着いた。


「これ等は?」


泰河が、四郎と オレらを紹介すると

「シロウ、トモキ、ジェイド、ルカ」って

名前だけ 覚えてくれたんだぜ。


「獣のことに ついては?」


「様々な情報を取り込むようではあるが... 」

「現世の者は 読み込まぬようだ」


「死したことのある者にしか 見えなかった」


迦楼羅と阿修羅は、視線を合わせた。


「俺等は、死した存在ではない」

「だが 見えた」


そうなると、また解んねーよなぁ...


「“インド神話の神” から “仏教神” に 転生したと

見做されたから... とか。

インド神話上では 死んだことがなかったり

阿密哩多アムリタで 不死だとしても、

仏教の天部神には 寿命があるし」


朋樹が言うと「有り得るかもしれんな」と

ボティスが頷く。

「俺も その例だ。地界から地上へ。

地上から天へ取られ、また地上へ。

すべて 同じ俺自身であっても、それぞれ違う存在だったからな」


悪魔から人間、天使、また人間... だし

迦楼羅や阿修羅も、これに 当て嵌まるのかも。


「では、俺は?」


シェムハザが 不思議そうに聞く。

うん、そうだよな。

天から堕天してるんだしさぁ。


「地上に属することが 条件なのでは?

泰河が、地上の者である故」


榊が言ったけど

「だって、迦楼羅や阿修羅は?」って 聞くと


「六道には、天道、人間道、修羅道、畜生道、餓鬼道、地獄道... と ありますが

天道は “天部の” 神の界なので、解脱して向かう

涅槃などがある界とは 別なのです」って

四郎が 教えてくれた。

仏や菩薩側から見ると、天道は 地上らしい。


迦楼羅や阿修羅は、インド神話の神界から

地上に転生した... って 見做されるようだ。

いや、今も インド神話の神でもあるんだけど

日本ここでは ってこと。


「俺は “地上棲み” だが

地界に属する者であるから... と いうことか」


「それなら、ゾイには 獣が見える確率は高い。

悪魔の身体だが、朋樹の血が混ざっている。

堕天扱いであっても、悪魔とは見做されていないようだからな」


シェムハザが納得して、ボティスが言うと

「俺は見えないのに!」って

ミカエルが拗ねるけど、これは 仕方ねーよなー。


「... 皇帝は どうなんだ? 獣の出現を予言した」


「“天津甕星” ではあるが

日本神に転生... ということでは ないのか?」


「けど、“高天原の神” じゃないぜ」


朋樹が言うと、ボティスとシェムハザが黙った。


「いや、“天津神” ではあるみたいだけど

地上平定の話にしか 出て来ねぇし、属するのが

六道の “天道” みたいな界の神だったら... 」


「お前等、獣の 見える見えないの話は

ルシフェルにするなよ?」


朋樹を遮りながら、まだ拗ね気味のミカエルが言って、シェムハザもボティスも

「勿論だ」「言う訳ないだろ?」って

答えてるけど

「ならさ、皇帝がいる時は 獣を喚べねぇな」って

泰河に言われて、ミカエルも黙った。


「何か 問題なのか?」と、迦楼羅に聞かれたけど

“獣を 何かに利用しようとするかも”... とか

言えねーし、上手くも 答えられねーし

「まぁ... 」「何かと な... 」って 濁してみてる。


「しかし 白い焔のあれは、未知のものでもある。

危険が無いとも限らんからな」


阿修羅に 迦楼羅も頷いて

矢鱈やたらと 喚ばぬ方が良いかもしれん。

喚ばずとも、向こうから顕れるからな」って

必要を感じなければ、喚ばない方向で いくことになった。


「でも、“必要な時” って?」


ジェイドが聞いたら、ミカエルが

「モレクみたいな相手。

こっちの攻撃が ほぼ通用しない時」って 答えて

「モレクの情報を、読み込んだりは... ?」とか

朋樹が言う。


おいおい... って、全員 ゾッとする。

「獣は、モレクの姿には なっていない」って

ボティスが 気付いたとこを言ってみても

みんな “うーん... ” ってなった。


「そうだよな...

モレクは、バアル神の界に属する」

「六十六部の僧も、すでに亡者だったし... 」


... ってことは、相手に “泰河が会った時” に

相手が どういう立場なのか?... って いうのが

ポイントなのかも。


モレクは バアル神だけど、

六十六部の僧は、最初は人間だった。

けど 泰河と会ったのは、僧が亡くなった後で

集落を長く祟ってた厄霊みたいに なっちまってた。


いや... けど “人霊” なら、獣は 姿を写すよな... ?

獣が 情報を読み込んでる ってことになる。


矢上妙子の 蠱物まじものにされた身体に触れたのも

死んだ後だったし、顔を知らない男の霊は

海のホテルの 露天風呂にいた霊なんだろうし...

泰河に対して、害が無いから かな?


ミカエルや迦楼羅たちは

「また別の国にも 蝗が出た場合... 」って

話を詰めてるけど

今 考えてたことを、話の邪魔にならねーように

小声で、朋樹に言ってみたら

「じゃあ、藤は?」って 返ってきた。


藤 っていうのは、泰河を殺しかけた 狐らしい。

モロに 害あるよな...

しかも 藤には、泰河が獣の血の力で 何かした訳じゃねーし。考えたら、ギリシャ鼻の人もだ。

藤は、玄翁や浅黄がケリを着けたらしく

ギリシャ鼻の人は、死神が撃った。


「獣は、相手を選んで読み込んでる みたいだけど

その基準が 分からんよな。

動物の姿にもなるけど、関わったことない動物もいるし」


「うん。虎とか竜とか、関われねーもんなぁ。

鰐とかも 怖ぇし」


「モレクや六分の僧は、泰河の意志で触れたんじゃないから... じゃないのか?」


海外蝗の話を抜けて来たジェイドが話に入ってきた。当の泰河は、ミカエルに

「お前、しばらく留守だったんだから

もうちょっと ここに居ろよ」って、肩に腕 回されたままだけど。


「それでいくなら、虎とか鰐は どうなんだよ?」


「変化する動物の姿は、泰河に関係無く

あの獣が選んでいる気がするんだ。

人間は、聖父が手ずから造った。

地上の獣... 動物は、聖父の言葉のみだ。

でも、アダムに名前を付けさせたことで

地上のもの... 植物や動物の統治を 人間に任せている。

これで説明するなら

人間... 泰河、動物... 白い焔の獣 と、まず分けて

動物は あの獣が選ぶ。

人間である泰河に、自分の血肉を取り入れられて

繋がりが出来たから

泰河の意志で選ばれた、人や人霊の姿を

自分が変化した姿に投影する。

何故そうするかというと、獣の方からも

泰河の意志を “受け入れている” と

変化した姿で 示しているんじゃないか?」


「アダムに名前を付けさせて

植物や動物と、人間を繋いだ... って とこが、

泰河が選んで触れた人や霊、妖しの姿を取ることで、獣も 泰河を受け入れている と示している

... 自分と泰河の 繋がりを示している って ことか?」


朋樹が まとめると、ジェイドは

「そう」と、頷いて

「泰河との “意志の共有” を 示すことで

自分と泰河が “同体” だと 示しているんじゃないか?」って 逆に聞いた。


「じゃあ、阿修羅や迦楼羅の姿になるのは

獣が選んだんじゃなくて

泰河の意志に沿って、阿修羅や迦楼羅の情報を

取り込んだから... ってこと?」


「ルカ、話が分かったのか?」


「うるせーしぃ」


それなら、情報を読み込む相手の生死は 無関係

ってことになる。

迦楼羅も阿修羅も 滅してねーし。

しかも、動物でも、人間でも、神々でも

何でもアリだよな。


獣が、動物を選んで読み込んだのは どうしてなのか?... って 考えてみると

地上っていうか、この星を知るため、って気がする。なんか “自然” って気ぃするし。

または、星の情報そのものが 動物にあるのか。


植物の姿を取らないのは、

“動き回るもの” じゃないから... とか?


人間は、“自然” と言うには異質だし

読み込む前だったのか

読み込む気すら なかったのかもしれねーけど

泰河の方が、獣を取り入れちまった。

ここで繋がりが出来る。


... いや


子供の時に、山に獣が降りたのは

朋樹が呼んだからだ。大祓詞を叫んで。


獣は、光のようなかたちで降りて

白い焔のたてがみと尾、ひづめにも焔が巻く

あの獣のかたちになった。


泰河が、獣の首を噛みちぎって飲んじまってから

いろいろな動物に 姿が変化した。


あの時に、泰河が知っている動物の情報を

獣が 読んだ、とか... ?

最初は、あの獣のかたちで出たんだし

何も読み込んでなかったんじゃねーのか?


朋樹の実家で見せてもらった、獣の絵巻の話でも

獣は、“白い焔の神獣” って書かれてるんじゃなかったっけ?

草書体だったし 全く読めなかったけどさぁ。


その時も 確か、神童って呼ばれるような子が

皇帝が言った ヘブライ語の予言みたいのを言い出して、獣が降りた。ってこと らしかったよな...


「... だから 獣は、泰河が選んだものの姿になってみせている だけであって、モレクや六分の僧の情報も 読み込んではいる... とは、思うんだけど」


「モレクにも 六分僧にも

泰河を通して 触れてるもんな。

なら、皇帝やミカエルは... ?」


「泰河の方に、皇帝やミカエルを “従わせる”...

つまり 取り込む気が無いから、じゃないのか?

その気になれば 出来るんだろうね」


「なあ、全部 泰河の情報なんじゃねーの?」


また考えたことを言ってみたら

「そうか... 泰河が喰うまでは

本来の “白い焔の神獣” の象だけだもんな」って

朋樹が 同意して

「それなら、“動物” としても喚べるんじゃないか?」って ジェイドが言う。


「動物として喚んで どうするんだよ?」


「さぁ... 」


いい加減だよなー。

「でも、ドラゴンなんて喚べたら

カッコいいじゃないか」とか 言ってるしさぁ。


「朋樹は、どうやって喚んだんだよ?」


「大祓詞で」


知ってるしぃ。


「いや、あの 童謡歌ってた黒い影の時だろ?

“助けてくれ” としか 思ってなかったぜ」


うーん...  まだ解らねーこと 多いよなぁ...

泰河が喚べば来る ってこととか、

死んだことあるか、地上に転生した扱いじゃないと 獣は見えねー... とか、

いろんな情報は、泰河から読んでるんじゃないか? っていう推測だけ。


けど、今までは ほぼ何も解らなかったし

多少は まぁ...


話したり考えたりしてる間に、里は夕方になって

迦楼羅と阿修羅が「そろそろ... 」って 消えて

朱里ちゃんも「あたしも夜、仕事だから... 」って

なった。


「でも、泰河くんは 居た方が... 」とか 言うけど

山だぜ? そうじゃなくても、当然 送らせるし。


「泰河。朱里を送った後は、里に戻るが良い。

明日でも良い故」


浅黄だ。修行つけるつもりでいるっぽいけど

泰河は 頷いて、朱里ちゃんと里を出た。


「オレらは?」「どうする?」

「沙耶ちゃんから、仕事の連絡は ねぇけどな」


シェムハザは、一度 城に戻るけど

ボティスは そのまま里に居て

ついでに ミカエルと四郎も、桃太たちと花札大会するって言う。

「ファシエル」って ゾイも呼んだりして。


じゃあ、オレらも 花札大会に参加しようか... って

なってたら、ジェイドと朋樹に 玄翁が

「影法師の調子は どうであろう?」って

ほっほ って 笑って聞いた。


「うん... 」「立体には なってないかな... 」


最近、影 動かしてるとこすら見てねーし

二人は 玄翁の屋敷で、修行することになったんだぜ。

浅黄と目が合ったけど、オレ 修行終わったし

笑っといて、花札大会に参加することにした。








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