12 祝福 ジェイド (第八日)


フィールドにいる敵にも、まだまだ苦労をして

ようやく森を抜けると、明るい海が見えた。


すぐ近くにある、大きめの町へ入り

まずホテルを取って 休憩をするが

「聞き込み」と、ボティスに指示を受け

家探しや 買い物をしながら、港町の人たちから

船を手に入れるための 情報収集をする。


「おっ、新しい武器!」と、武器屋でルカが食いついたが「待たれよ」と 浅黄が購入を止める。

「家探し等の後が良かろう。宝箱などもある故」


町にある宝箱ならいいが、今の武器や防具だと

フィールドの宝箱集めには、相当 苦労するだろう。

「その分、精進致すしのう」と 榊も頷くが

今 僕らはレベル上げが、長い作業になり出すところにいた。なかなか楽隊音楽が鳴らない。


だが「まあ、腕は上がるしな」と、朋樹も同意した。泰河やルカは ため息をついているが

確かに腕は上がる。作業するしかなさそうだ。


町に散らばって、家探しと道具の買い物

聞き込みを終えると「飯」ということになり

大きなバーに 食事に入った。


バーの名前は “ハレル ヤ”。

大木を輪切りにしたようなテーブルに 樽の椅子。


ショーステージでは、眼から下をベールで隠し

アラビアンナイトのような衣装を着た セクシーなダンサーたちが、透けたショールを持って踊っていて、周囲のテーブルで ビールやワインを飲む男たちが、野次や歓声を飛ばしている。


「活気あるよな」

「港町は、物流や取引で栄えるからな」


大人数用のテーブルに通され、

ライム入りのクラブソーダと白ワイン、

白身のフリットや海老のサラダ、イカスミのパスタ、網焼きのカニ、ブイヤベースとガーリックトーストで食事をしながら、

「これは泰河向け。これはジェイド向け」と

宝箱から手に入れた 腕輪や帽子を分け、

集めた情報を交換し合う。


「でかい船は、

この店のオーナーが所有しているらしいぜ」

「話してみるか」


ベアトップにショートパンツ、赤毛のウェイトレスを呼び止め、オーナーを呼ぶように頼む。

待っている間も情報交換だ。


「町で、噂になっている話があった」

「... “幽霊島” ?」「あっ、聞いたぜ それ!」

「“新月の夜しか出ない” らしいよな」


幽霊島の噂は、僕も家探し先の教会で聞いた。

しゅの水” つまり聖水を手に入れた時だ。


ここ ニ、三ヵ月の間のことのようだが、

この大陸と、僕らが 次に向かうことになる砂漠国の大陸との間に、小島が顕れるようだ。


『あの島が顕れてから、町の外には

得体の知れぬ 恐ろしいモンスターが増えました。

あれは、悪魔の島に違いありません』と

教会の神父は、ジェズに祈っていたので、

『この地に 恵みがありますよう』と 僕も共に祈ると、『これをお持ち下さい』と

教会には そぐわないように思える、獅子を浮き彫りにしたメダイを貰った。


「“幽霊島” って、蜃気楼じゃないのか?」

「“船を迷わせる” みたいな?」

「けど、本当だったら すごくね?」

「付近には、あやかしなども 増えたと聞く」

「やっぱり寄るべきだよな?」


「次の新月は?」と、ボティスが聞くと

「ふむ、三日後よ」と 月暦付き星座版を見た

榊が答えた。


「その間に、周辺の探索だな... 」と 話し合っていると「ボティス」と、アコがテーブルに来た。


「アコ」「何してんだ?」


「俺? ここのオーナー」


話は早い。


「船が要る」と、ボティスが言うと

「用意してある。でも、羅針盤コンパスを盗られた」と

軽く 肩を竦めた。


「羅針盤?」「新しく作れば?」


「ダメ。特別なやつだから。

それがないと、船は動かない」


港町で やることは、これのようだ。


「誰に盗られた?」


「フィールドの西の小高い崖の上の城の城主」


アコにしたら、一気に言った感がある。

しかも「一緒に行こう」って ことになった。


ここから二日程、フィールドの宝箱探しをした僕らは、それぞれが少し成長し、また衣装も変わってきた。


ルカは 赤い竜の道着になり、泰河は 大盗賊のマントと衣装。朋樹は 何故かプリンスコート。

榊は 際どい水着を見つけたが、それは止めて

赤のチャイニーズドレスの道着姿になった。


僕は 聖騎士の衣装になり、浅黄はプラチナの甲冑と兜。露は 猫用の赤いケープ。

ボティスとアコは、大海賊の衣装だ。


「おまえら、カッコイイよな... 」

「船に乗るし、ぽいよな... 」


僕らは ひがんだが、職業により

着れるものと 無理なものがある。

「オレ、何でダメなんだよ?」と、泰河が聞くと

泰河は 町盗賊タイプらしい。


「アコって、職業 何?」

「俺? “あそび人”」


僕らは納得した。アコは すでに

“順にいく” を 習得している状態だった。


武器も ほぼ、プラチナシリーズに変わり

榊もムチを手に入れ、泰河はブーメランになった。僕は 聖騎士の剣と盾。なかなかいい。


「新月は明日だ。今日、城を攻略する」


皆で馬車に乗り込むと、小高い崖の上にある

城を目指す。

ナビになるアコは、御者の浅黄と前に乗った。


道中、人の頭をしたトカゲや、猫の頭をした鳥。

上半身がサメで、下半身が 腰布を巻いた人という

割と 無理したモンスターもいたが、

やたらに合成獣が多いのも 気になるところだ。


「着いたな」


城の前で馬車を止め、早速 城門の中に入ってみると、そこは 木々に囲まれ、花々が咲き誇る

見事な庭園だった。


中央に、白い泉が作られていて

その中心には、壷を左肩に載せた 白い女神の彫像が 配置されていた。

女神の肩の 前に向けた壷の口からは、

清い水が流れ出ている。


思わず、手で水を掬って飲んでみると

体力や術力が 全回復したのが分かった。親切だ。


城の大きな両開きの扉を開け、

城内に脚を踏み入れる。白い石壁に水色の絨毯。

まだ、モンスターの気配はない。


「あっ、出てきたぜ!」


泰河が前方を指差す。

ブロンドの長い髪に、貝殻の髪飾りを飾り

青い海色の尾ひれを 優雅に靡かせ、空中を泳いでくる。人魚だ。


「綺麗だ... 」「これ、やっつけるのか... ?」


躊躇していると、楽隊音楽が響き

アコが前に出て、人魚に「止まれ」と 命じる。

人魚は素直に 空中に留まった。


「効いたな」


アコは、特技 “めいじる” を 覚えたようだが

経験値は期待出来ない。

レベルは上がらないことだろう。


「まあ でも、やっつけづらいしな... 」


泰河が髪飾りと鱗を盗み、人魚の近くを通り過ぎる時、瞳孔を細く絞った人魚が ギザギザの歯を剝いた。

止まってはいるが、こちらが近づくと

その場で攻撃はするようだ。


珍しく剣を携えていた浅黄が、咄嗟に鞘から抜き

人魚を弾き飛ばした。


「峰打ちじゃ。安心するが良い」


一度 言ってみたかったようだ。


多少かわいそうに思えたが、喰われる訳にもいかない。人魚には薬草を投げ、僕らは先に進んだ。


広間では、ゴブリンたちが遊んでいたので

宝箱だけ開けて、扉を そっと閉める。

キッチンには、ウサギ頭のコックたち。


二階と三階に繋がっている図書室の中では、

トンボ翅やアゲハ羽を生やした小さな妖精たち。

朋樹の炎の式鬼蝶と、榊の狐火で 避けながら、

術書などを手に入れた。


「やりづらいよな... 」

「モンスターが かわいいもんな」


だが、三階の廊下に出ると

中身が空の 銀の甲冑の騎士たちが、槍や剣を片手に 襲いかかってきた。


「いきなりかよ!」「とりあえず突破する」


楽隊音楽が鳴り、朋樹が白い鳥の式鬼を覚えたので、それと 泰河のブーメランで前方を崩し

僕が 聖水を振ると、ルカが風で巻いて散らす。


「... “天におられる わたしたちの父よ、

名が 聖とされますように

御国が 来ますように”... 」


主の祈りでも崩したが、アコは 青いゴーストから盗んだ青い粉で 防護円を敷いて、避難している。

残った騎士は浅黄とボティスが始末し、

榊は 露を抱いていた。


なんとか片付くと、他の部屋の宝箱も開けて

四階への階段を登る。


衣装部屋や書斎、主寝室は無人だったが

広いバルコニーには エルフたちがいて

植木鉢の木やプランターの花の世話、何かを調合したりもしていたが、僕らに気付くと

植木鉢の植物たちが 枝や蔓を伸ばして襲ってきた。

朋樹の炎の蝶を ルカが風で巻いて応戦し、

バルコニーの扉は閉める。


「残るは... 」


王座の間だ。


立派な両開きの扉の前に 近付き、扉を開く。


部屋の端に 脚付きの白い鉢に、

ミニチュアの女神像と、壷から水。親切だ。


手で掬って飲んで、全回復すると

いよいよ ボスに臨む。

何か眩しく、いい匂いがする。


「やあ、ボティス、アコ。お前達」


王の椅子で 長い脚を組んで座っていたのは、

シェムハザだった。

城門を越えた時から、なんとなく予想はしていた。城が美し過ぎた。


「シェムハザ」

「何で羅針盤を盗んだんだ?」


アコが聞くと、シェムハザは

「人聞きが悪い」と ムッとした。


「盗みなどするものか。店の踊り子から買い取った。お前が店で、三人目に寝た娘だ」


「そいつは、店を辞めて 故郷に帰ったぞ」


つまり、してやられた らしかった。

身から出たサビというやつかもしれない。


「大陸を渡るために、羅針盤がいる」


ボティスが言うと

「しかし、俺にも必要だ。

今、飛行船を開発している」と 答えた。


羅針盤は万能で、どんな乗り物の動力にもなり

正確な行く先を示すようだ。結構すごい。


「飛行船って すげー」

「だが、順番的には 船からだ」


「そう。完成には、まだ しばらく時間が掛かる」


今さらだが、王の椅子に座るシェムハザは、

王らしい衣裳を着て、小麦色の髪の頭に 王冠まで載せている。

眩しくて、格好まで気にしていなかった。


「先に貸せ」

「断る」


「やるのか?」

「それしかないのだろう?」


甘く清潔な匂いが増し、城主が王の椅子を立つ。


“シェムハザが あらわれた”


「俺の命は、シェムハザには効かない」


冒頭から アコが下がった。

一応、背中に大刀を背負ってはいるが

抜く気もないらしい。


「オレは やるぜ」


朋樹は、だいたい何でも挑戦する。


ただ、呪の蔓を伸ばしてみているが

シェムハザに巻き付いた緑の蔓は

花を咲かせて シェムハザの身体から解け、

「嘘だろ?!」朋樹に戻って 巻き付いた。


泰河とルカが前に出たが、眩しさに眼がくら

ブーメランは見当違いの場所に飛び

ルカは爪で攻撃など とても出来ず、風を出したが

シェムハザの髪を 美しくなびかせただけだった。


「むうう... 」


切れ長の眼を細めた榊が、狐火をムチで叩いて

投げ付けてみたが、

狐火は、シェムハザの周囲に浮いて揺れ

シェムハザを より神秘的に見せる道具となった。


「俺がこう」


浅黄は、精神鍛錬も成っている。

ピクっと 眉を動かしたシェムハザは

青白い人型の 天空の霊を降ろし、自分を守護させた。


「どうする?」


朋樹の蔓を解きながら、アコがボティスに聞く。

僕が 主の祈りを詠唱したところで、シェムハザは防護円を敷くだろう。


ボティスは、さっき手に入れた術書を出し

書を開いて 呪文を詠唱した。

青白い人型の 天空の霊たちが解放されていく。


「ディル」


“シェムハザは なかまを よんだ

ディルが あらわれた”


「シェムハザ様」と、隣に立ったディルは

目立つモミアゲをしている。

髪をセットし、貴族風のジャケットを着ていた。

顔の雰囲気は オシャレな鷹のようだ。


「毛糸玉」と、シェムハザが言うと

ディルが どこからか毛糸玉を取り出し、

露の前に転がした。

露が手を出すと、爪に絡んだ毛糸が引き出されて伸びる。露は夢中で遊び出した。

大きさが手頃なところが また姑息だ。


「ふふ。露さん」


榊まで 人化けを解いて遊ぶ。

霊獣召喚は、完璧に封じられた。


「卑怯だぜ、シェムハザ!」


「そうだ。俺は悪魔だからな」


ルカに そう答えた所が引っ掛かった。

ボティスも同じように感じたようで

つり上がったゴールドの眼を術書から上げる。


「ディル」


シェムハザは、ルカのバイクを取り寄せさせると

自分の前に配置して、ルカも風も封じた。


「クソッ!」と、意を決した泰河が

シェムハザから眼を背けて 再びブーメランを投げたが、当然 目測を誤り、

弧を描いて戻って来たブーメランは、僕らの背後に開いていた扉から ただ飛び出して行った。


「助力」


ボティスが、天使の助力円を敷くと

シェムハザの顔色が変わった。


「アリエル、自然の恵み」


王座の間の中に、温かな日差しが満ちた。

シェムハザの輝きが目立たなくなる。


小鳥がさえずりが聴こえる。右側の壁には 幻視の滝が流れ、その水に虹が映った。

左側には 美しい森の風景。

リスやウサギ、小鹿が たわむれている。


「ボティス... 」


シェムハザは、バイクの向こうから

ボティスに 明るいグリーンの眼を向け

「癒されたが、だから何だ?」と 聞いた。


ボティスは「ふん」と 鼻を鳴らし

ピアスをはじく。

本当に何なんだ? と、僕らも聞きかけた時

天井に何かが這っているのに気付いた。


「マダム... 」


シェムハザの城の守護霊、壁のマダムだ。

彼女は普段、外壁に張り付いているが

アリエルの恵みの美しさに惹かれ、つい這って来てしまったようだ。


「さて、どうする?」


勇者のはずのボティスは、悪役然として

大海賊のロングガウンの中のジャケットとシャツを はだけさせ、胸のクロスを見せた。


「マダム」と、ディルが天井を見ながら

バイクの向こうから前に出て来て、

敢えなく 泰河とルカに捕まり、朋樹の呪蔓に巻かれた。


「... 卑怯だぞ、ボティス」


「俺も悪魔の経歴があるからな。

今は “人間”。最も 卑怯に成り下がれる生物だ。

ジェイド、塗油」


そうか。塗油なら 防護円を敷いても無駄だ。

でも、シェムハザを傷付けることになる。


迷いながら、バイクの前に向かうと

『やめて』と、天井から マダムが僕を止める。

「そうですよ。シェムハザ様が何をしたというのです?」と、蔓に巻かれたディルも言った。

正当な意見だ。


「だが、羅針盤が必要だ」

「俺にも必要だと話しただろう?」


「けど、シェムハザは

今すぐ要るんじゃねぇんだろ?」

「オレらは、明日 使いたいんだ。新月だから」


「元々は 俺が作ったんだぞ。

幾らで買った? 買い戻す。何なら倍額出す」


アコが言うと、眉間にシワを寄せたシェムハザが

「妻が拐われたんだ... 」と

事情の説明を始めた。


「うっそ!」「アリエルが?!」

「どういうことだ?」


「城を出て、港町で買い物をしていた時

気付くと、子供達と共に消えていた... 」


「何故 話さなかった?」


ボティスが聞くと

「設定上、お前と俺は “今 初めて会った”」と

肩を竦める。そういう設定のようだ。


「俺は、妻や子供達を愛している」


シェムハザが そう言った時

僕のポケットの中で、何かが熱を持った。

取り出してみると、教会の神父にもらった

獅子のメダイだ。


『シェムハザ』


メダイから 女性の声がした。

天使アリエルの声。

そういえば アリエルは、“神のライオン” だった。


『あなたの妻、私の半身の元へは

このメダイが導くわ。彼等と共に行くのよ』


メダイの光は それで消えたが

シェムハザが僕の前に来て、羅針盤を差し出す。

メダイと交換すると

「俺も共に行こう」と 殊更に輝いた。

シェムハザが なかまに なった。






















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