8 祝福 ゾイ (第八日)


「20章では... 」と、ミカエルは 自分の肩当てを外して、私に掛けた赤いトーガの端を

私の左の肩に 肩当てで留め付けた。


フードのある赤い聖衣を着けたようで、嬉しくて

照れてしまう。これは ミカエルのトーガ...


「アブラハムが、12章と同じことをする... 」と

差し出された手に「はい... 」と、手を重ねる。

浮かれていたけど、少し 切ない気分になった。


アブラハムは、カナンから ネゲブという地の

ゲラルという町に移るのだけど、

妻のサラのことを また

“「これはわたしの妹です」”... と 紹介した。


「ゲラルに、ソドムのような空気を感じ取った

アブラハムは、自分が殺されないようにした」と

ミカエルは 岩陰の白い花の花びらを、蝶馬に食べさせて、蝶馬を私のフードの頭に乗せた。


「この時 アブラハムは、サラの心や安全には

気を回していない」


サラは、ここでも また

ゲラルの王アビメレクに 召し入れられる。


すると父が、アビメレクの夢に出て

“「あなたは 召し入れたあの女のゆえに

死なねばならない。彼女は夫のある身である」”

... なんて言った。


アビメレクは、まだサラに触れていなかったし

“正しい民でも殺されるのですか?” と

アブラハムが サラを “妹” だと言っていて

サラ自身も “アブラハムは私の兄” と言っていたと

弁明した。


父は アビメレクの正当性を認めていて

“「わたしもあなたを守って、

わたしに対して罪を犯させず、

彼女にふれることを許さなかったのです」”... と

召し入れたサラに、アビメレクが触れさせないようにしていたのは、

父の働きかけによるものだったことを伝えた。

そして、アブラハムに妻を返すように命じる。


アビメレクが、朝早くから しもべたちに

事の次第を話すと、主とアブラハムを恐れた。


アビメレクはアブラハムを呼び

“何故 私と私の国に、大きな罪を負わせようとしたのか?” と 問うと、アブラハムは

“この町は、神を恐れない町だと思ったから

美しい妻を奪おうと、人々が私を殺すと思った”

だとか

“サラは本当に私の妹だから。母が違うけど

父は同じなんです。そして妻になったんです” と

言った。


11章の アブラハムの父、テラの系図には

... “テラはアブラム、ナホルおよびハランを生み、

ハランはロトを生んだ。


ハランは 父テラにさきだって、

その生れた地、カルデヤのウルで死んだ。


アブラムとナホルは妻をめとった。

アブラムの妻の名はサライといい、

ナホルの妻の名はミルカといってハランの娘である。

ハランはミルカの父、またイスカの父である。

サライは石女うずまめで、子がなかった”... と なっていて

アブラハムとサラが異母兄妹 という

記述はなかった。


アブラハムは、“妹っていうのも嘘じゃない” と

自分の正当性を説いているようだけど、

系図がどうであれ

今は、あなたの妻なのでしょう?... と

思ってしまう。


更にアブラハムは、自分が殺されないために

サラにも 自分のことを “兄だ” と言わせるようにしたことを話し、

“これは 妻から私への恵みです” と説明した。


アビメレクは、羊や牛、男女の奴隷と共に

サラをアブラハムに返し

自分が治めるこの地の 好きな場所に住むがいい と

許可を出して、サラにも

“兄” の アブラハムに、自分が銀を支払ったことによって、あなたは すべての人に正しかったと認められる。これは あなたに対する償いだ と話した。


つまり、アビメレクは “自分の罪の対価” を

アブラハムに支払った... と言う。

罪ではなかったのに、自分が罪を犯したことにして、アブラハムとサラの身の安全を保証した。


それで、アブラハムが父に祈ると

父が、アビメレクと その妻、及び 召し入れられている女性たちも 癒やしたので、子を産むようになった。


この時から、子を産むようになったのは

召し入れられたサラの身を案じた父が、前もって

“アビメレク家の胎を かたく閉じた”

... 子が出来ないようにしていたから だったそう。


「父は、アブラハムを責めることは なかったけど

預言者でも、人間は 人間だよな」と言った

ミカエルに頷いた。

そして父は、いつも父なのだ と思う。


「そして、“約束の子” イサクの誕生だ」


21章では

身ごもったサラが、アブラハムに 男の子を生む。

アブラハムは この子に、笑う という意味の

イサクと名付け、八日目に割礼をした。

アブラハムは百歳、サラは九十歳だった。


サラは “神は私を笑わせて下さった” と喜ぶ。

これは以前 “年寄りに子供なんて” と

鼻で笑ったこととは違って、心からの喜び。


イサクが乳離れすると、アブラハムは盛大に

お祝いした。

宴会に紛れたミカエルと私も、パンや子牛の料理をいただく。


イシマエル... サラの女召使い ハガルが産んだ男の子は 大きくなっていて、小さなイサクを からかってる。少しヤキモチもあるのかもしれない。


だけど、これを見たサラは

“イシマエルとハガルを追い出して”... と

アブラハムに言い出した。

自分が世継のイサクを産んだのだから、と。


アブラハムは、とても悩みだした。

イシマエルは、サラの案で ハガルが産んだ子なのだし、息子のイシマエルを愛していたから。


だけど 父は、“サラの言うとおりにしなさい” と

アブラハムに言った。

“イサクから生まれる子が、あなたの子孫となる。

しかし イシマエルも あなたの子。

これも 一つの国民とする”... と、約束した。

イサクとイシマエルが 争わないようにするためかもしれない。


父に背中を押されたアブラハムは、明くる朝

ハガルに、パンと 水の皮袋を渡して

イシマエルと共に去らせた。

ハガルとイシマエルは、荒野を歩く。


少しのパンと水なんて、すぐに尽きてしまう。

ハガルは、息子イシマエルを木の下に残して

“「わたしは この子の死ぬのを見るに忍びない」” と、矢の届く距離ほど離れ、息子に向いて座ると

イシマエルは 声を上げて泣いた。


無理もないと思う。

少しのパンと水で 歩いていける場所には、町はないのに、天幕やロバも持たされなかった。


生まれたのも、“用済み” のように放逐されたのも

サラやアブラハムの都合なのだし...


その時、天から御使いの声が聞こえてきた。

父が イシマエルの声を聞いたから。ハガルに

“「立って行き、わらべを取り上げて

あなたの手に抱きなさい。

わたしは彼を 大いなる国民とするであろう」” と

父の言葉を伝える。


ハガルは 哀しみに暮れていて、すぐ近くにあった井戸に 気付けなかったのだけど

父がハガルの眼を開き、水の井戸に気付かせた。

ハガルは水を汲んで、イシマエルに飲ませた。


イシマエルは、父に見守られながら成長して

荒野に住み、弓を射る者となって

ハガルは彼のために、エジプトから妻を迎えた。


その頃、アブラハムは

土地のゲラルの王アビメレクに

“「あなたが何事をなさっても、神は あなたと共におられる」”

だから、私があなたに親切にしたように

あなたは、私たちを欺かないと 神を指して誓って欲しい... という話しをされていた。


アビメレクが そういう話しをするほど

アブラハムの元には 人が集まり、力をつけていたのだろうと思う。


アブラハムは “「わたしは誓います」” と 答えたけど、“あなたの家来たちが 水の井戸を奪った” と

アビメレクを責めたりもしてる。


アビメレクが

“今 初めて聞いたし、知らなかった” と 答えると

アブラハムは、雌の小羊七頭を分けて置いた。


“「あなたは わたしの手から

これらの雌の小羊七頭を受け取って、

わたしが この井戸を掘ったことの証拠としてください」”


これを了承したアビメレクと、アブラハムは契約を結び、この場所に “ベエルシバ” と 名付けて、

アビメレクが帰ると、アブラハムは柳の木を植え

主の名を呼び、長い間 この地に寄留した。


「よし、次の22章までにするぜ?」


今いる べエルシバは、聖書表記の名前。

現在のイスラエルのべエルシェバ。

地中海と死海の間くらいに位置する。


「この章は、“息子イサクを燔祭はんさいに” と

父が アブラハムを試す章だ」


父が “「アブラハムよ」” と 呼びかけると

アブラハムは “「ここにおります」” と 答えた。

父は、愛する ひとり子のイサクを

自分が示す山に連れて行って、焼いて捧げなさい

... と、アブラハムに言った。


父が示したのは、モリヤの山。

べエルシバから歩いて三日くらいの距離。


“アブラハムは朝はやく起きて、ろばに くらを置き、ふたりの若者と、その子イサクとを連れ、 また燔祭の たきぎを割り、立って 神が示された所に出かけた”。


モリヤ山付近に着くと、ロバと 従者の二人の若者を待たせ、息子のイサクに 燔祭のたきぎを背負わせて、手に火と刃物を持って、父が示す場所へ行く。


イサクが “「父よ」”

“「火とたきぎとは ありますが、

燔祭の小羊は どこにありますか」” と

アブラハムに聞くと

“「子よ、神みずから 燔祭の小羊を

備えてくださるであろう」” と 答えた。


この時、イサクには もう

“燔祭の子羊は自分だ” という見当が

ついていたと思う。


父に示された場所に着くと、アブラハムは祭壇を築く。祭壇に薪を並べると、イサクを縛り

薪の上にイサクを載せた。


アブラハムは、もう老人だったから

イサクが力で抵抗するのは 簡単だったのだけど

イサクは そうしなかった。


アブラハムが、刃物を手に取って

イサクを殺そうした時、

“「アブラハムよ、アブラハムよ」” と

御使いが呼び掛けた。


「ザドキエルだ」と、ミカエルが示す。

海で会った 記憶の天使ザドキエルは

返事をした アブラハムに

“「わらべを手にかけてはならない。

また何も彼にしてはならない。

あなたの子、あなたのひとり子をさえ、

わたしのために 惜しまないので、

あなたが神を恐れる者であることを

わたしは今知った」”... と、父の言葉を伝えた。


これまでのことを考えると

イサクの誕生を待たずに、イシマエルを もうけてしまい、父がイシマエルを見守っていること。

アビメレクに、サラを “妹だ” と 召し入れさせ

父にサラを護ってもらったこと。


アブラハムが勝手なことをしても、始末は いつも

父が着ける。

父は、アブラハムの心を知りたかったのかもしれない。

だけど、アブラハムの

父への ひたむきな心は確かだった。


アブラハムが目を上げると、角を藪に掛けている

一頭の雄牛がいたので、それを捕えて

イサクの代わりに 燔祭として 父に捧げた。


この場所を、主の山に備えあり という意味の

アドナイ・エレ と呼んだ。


父の名をみだりに呼んではならない となった時

父への呼び掛けや、人に父の話しをする時も

アドナイ と呼んだ。


ザドキエルは再び アブラハムの名を呼んで

“「主は言われた、

『わたしは自分をさして誓う。

あなたが この事をし、あなたの子、

あなたのひとり子をも惜しまなかったので、

わたしは大いに あなたを祝福し、

大いに あなたの子孫をふやして、

天の星のように、浜べの砂のようにする。

あなたの子孫は 敵の門を打ち取り、

また地のもろもろの国民は あなたの子孫によって祝福を得るであろう。

あなたが わたしの言葉に従ったからである』」”

... と、父の言葉を伝えた。


“あなたの子孫は... ” という ところからは

聖子のことを言っていると思う。

父は、アブラハムの信仰心と、イサクの犠牲心に打たれ、聖子による贖罪を決心した。


“地のもろもろの国民”... 父が選んだ民だけでなく

すべての人の原罪が赦されるように。


イサクと、二人の若者の従者と

ベエルシバに戻ったアブラハムに、

アブラハムの兄弟のナホルにも

妻ミルカが 子供を産んだ... ということを知らせに来た人がいた。


ナホルの子供は

ウヅ、ブズ、アラムの父ケムエル、

ケセデ、ハゾ、ピルダシ、エデラフ、ベトエル。

ベトエルの子が リベカ。

更に、側妻そばめのルマも、

テバ、ガハム、タハシ、マアカを産んだという。


多産の人が多いから、系図も たくさんの名前。

まとめには割愛すると思う。22章は ここまで。

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