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「あの、触ったりは... 」


「あんまり うるせーこと言わねぇ方がいいんじゃね? 店が困るぜ」


うわぁ...  ルカ...

手首持ったままだ。ココって子は おびえて見える。


「... おまえも ココって子を構え」と、ジェイドが 小声でオレに言う。


あれ? オレ、シイナをクラブで見て気に入った って使われてなかったっけ?


うん、まぁでも、シイナの眼に入ってねぇしな。

気にしねぇだろ。


「やめろよ、ルカ」と、一応 かばってみる。

けど ここでルカが手を離すと、尾長 消せねぇし

オレもルカも 三秒くらい止まった。


幻惑は? と 榊を見ると、微かに首を横に振る。

何なのかは分からんが、無しでいく予定らしい。


「ステージで かわいかった」


ジェイドだ。

シイナは放ったらかして、ココに言っている。


ミカエルが出した筆をルカに渡して、ルカが ココの鳩尾みぞおちをなぞった。

「きゃっ」とか言われる。だいぶ変態だよな。筆だしさ。


「あっ、ごめん」


うっかり 謝りやがった。

キャラ違う と、自分で気付いたルカは

「イヤガラセしてやったぜー」と なんとかつくろったが、今から 文字に触れて消す という、オレのハードルが上がった気がする。


ボティスと榊は どういう訳か、二人で手を繋いで 向き合い気味に話し始めた。

外野からは立ち入れない雰囲気 をかもし出す。


「ルカ、この女が気に入ったのか?」

「んーん。全然」


ミカエルとルカも いきなり外れた。

ただ、ルカは ココの手首を離さない。

離すと、オレが消せなくなるからだが、文字が出ている場所は鳩尾でも 胸に近すぎる。

トップレスなのがな...


「あの、手を... 」


ルカは無言だ。怖いよな。

ますます触れねぇし。


「こいつ、クラブで こっちの子を見掛けて気に入ったんだけど、さっきのステージ見て、“ココちゃんの方がいい” って 言い出して」


ジェイドが言うけど、今は余計に怯えさせるだけだ。シイナがオレの方を見た。... おぉ?!

“なんで?” って眼だ。なんか怖ぇ。


でもさ、さっきのシェムハザの 一言といい、シイナの方の調子を狂わそうとしてるのか?


「ルカ、いい加減にしろよ」と 眼を背けて言うと

ルカは “早く何とかしろよ” って ツラで

「オレの勝手じゃね?」と 返してきた。

おう...  オレなんだよな。


「ココちゃんが怖がってるだろう?」


ジェイドが言って、オレの背中を押す。

あっ、そうか! 庇う感じ でいくか。

ソファーを立つと ビクッとされたが、もう立った勢いで行く。


「そうだよ、ルカ。離せよ」と ココの肩に左手を回して、何故か右手を ヘソの上から縦に宛てる。

役得的に ちゃっかり腹を触る みたいになったが

ルカを見ると、“消えた” と頷いて ココの手首を離したので、オレも 腹に宛てた右手をどける。

よし、任務完了だ。


腹に触ったくせ「大丈夫だったか? ごめんな」と

顔を見ると、ココって子は涙を拭った。

ミカエルが加護を与えながら、“あ... ” ってツラになる。


「ルカ、ふざけ過ぎだ」と、ジェイドが言うと

ルカは、ココの手首を握っていた腕を ミカエルに回して「けど、泣き顔もかわいいのな」とか言った。

ココはカッとした顔で ルカを見たが、顔を赤らめた。

これ、怒りで赤らめたんじゃない気がする...

複雑怪奇だ。オレには分からん。


「たくさん、マーク付けて来たぞ」


アコが戻って来た。


アコは最初「ん?」と、一人でたたずんでいたシイナに眼鏡の眼を止めたが、ボティスに眼を向けると、ボティスは ココに眼をやってみせた。


指先で蝋を弾いて、ココの腕に赤い花を付けると

「はい、ゴシュジンサマ」と シイナに燭台を渡し「他のテーブルにも遊びに行こう」と、オレの手から ココを誘導して連れて行った。


「泰河、座れよ」と、ジェイドに言われて ソファーに戻る。

シイナは ただ立っているが

「あの子、かわいいな」と、ココの方を見ながら

まだジェイドが言う。“同意しろ” って眼だ。


「おう。ちょっと頼りない感じがいいよな」


だが オレの返事は、ジェイドの思惑とは違ったらしい。


「“ベッドで” ってことだろ?」


ルカは すっかり、こういうヤツが板に着いた。

ボティスが “良し” ってツラでピアスをはじく。

榊は シイナには興味がない って風に、一切 見なかった。


「そう。間近で見たい。乗せて」と ジェイドが言うと、また ルカが「声 気になるよな」と へらへらして言う。今、何なんだよ?


ルカは、シイナの方に顔を向けると

「同じの持って来て」と 瓶を示し、テーブルの札束を指差した。


燭台を持ったままのシイナは、ルカの態度にイラついている。

この子、女王サマ的なヤツだもんな。

こういう扱いされることに 免疫がないようだ。


ジェイドが札束を渡すと、無言で受け取ってバーカウンターへ歩き出し、途中、他のテーブルの客から声を掛けられても無視して行った。


「これ、何なんだよ?」


ジェイドとルカに聞くと

「さっきのシェムハザの態度に合わせてみてるんだ。たぶん、後々何か使うんじゃないか?」と ジェイドすら よく分かっていず、ルカは

「あの子まだ ハタチくらいだろうしさぁ、ちょっと かわいそうだけどー」と マシュマロを食った。


「シイナは 吸血鬼本体と繋がる。

自尊心をくじき、嫌な印象を付けておけ」と

ボティスが言うと

「ちぃと 気の毒であるがのう... 」と 榊が ため息をつき、腹を鳴らして、ミカエルからマシュマロを受け取っている。


「で、おまえらは何なんだよ?」


やっと お互いに回した腕を外した ルカとミカエルに聞くと

「オレ、恋人ミカエルのみに甘い男 設定」

「俺は 頭 ぬるイシュ。すぐ妬く」らしい。


「でさぁ、これから どうすんの?」


「シェムハザと朋樹が戻ったら、店は出る。

ミカエル、店の者等には 尾長が移らんように加護を付けておけ」


ミカエルが「全部 加護」って 言っていると、一度 店を出たらしいアコが、ビニール袋から

「おにぎり買って来たぞ」と 配り出した。

食ってたら、シイナがウェイターを従えて戻って来た。


ウェイターが しゃがんで、テーブルにシャンパンを置いていくと、ジェイドが

「ここって、女の子に連絡先とか聞けないんだっけ?」と シイナに聞いて、シイナは無言で頷いた。


「泰河 おまえ、通うしかねーんじゃん」


またルカの肩に腕を回す ミカエルに、ルカは

「なあ?」と シャンパンを渡し、ミカエルは

「うん」だ。設定遵守してやがる。


「外で聞くのは 別にいいんだろうけど」

「待つぅ? オレ、聞いてみよーかぁ?」

「ルカ、あの女のこと... 」

「いやオレ、自分で聞くからさ」


アコは、ミカエルが面白いらしく

「ミカエル、かわいいじゃないか!」と おにぎり片手に指差して笑う。やめろって。


ジェイドが つい笑うと、オレにも伝染する。

ミカエルたちが「うん、俺かわいいだろ?」

「マジで かわいいしぃ」とか ふざけていると、シイナは腕を組んで 遠くに視線を向けた。


でも その視線の先から、シェムハザと朋樹が 岡田ってヤツと戻って来るのが見えた。

シェムハザ、目立つよな...

後ろで緩く括った小麦色の髪に、本人曰く作業着の白襟シャツにブラックジーンズとジョッキーブーツ。黒のロングカーディガン。

シイナの顔つきが 少し緩む。


シェムハザは、何故か “クギヅケ” したようだ。

甘く爽やかな匂いがして、遠くのテーブルの客や

フロアの女の子たちも ふわっとなって注目する。


オレらのテーブルまで来ると、シイナの真横を眼も向けずに通り「場所を空けろ」と、ジェイドとオレの間に座った。


「出資するのか?」と 聞くジェイドに頷き

「どの店にも、平日でこの位は 客が入っていたからな。回収は出来るだろう」シャンパンを取る。


「あれ? まだいたんだ」と 朋樹が シイナに言い、店中の注目を浴びる中、シイナに恥をかかせた。


「シャンパン、ありがとう。

仕事の話するから、もういいよ」と、ジェイドが

笑顔で テーブルから離れるように促す。

シイナが きびすを返してバックルームへ向かったが、シェムハザは まったく眼を向けなかった。




********




「倉庫の入口は、ステージ下だ」


まだ ボンデージバーだ。

シェムハザと朋樹の報告を聞いている。


「なら、霊視で視た地下 って... 」


「たぶんな。けど、店のヤツから視ようとしても

ステージ下しか視えねぇんだよな...

式鬼の報告じゃ、その下に降りれるはずだ。

入口を見つけた。下に空間があるらしい。

ただ、呪が掛かってる。神隠しみたいなやつだな。解いちまうか、許可がないと入れない。

シイナから視た時に 行き方まで視えなかったのは、催眠状態か何かで入ったのかもな」


「けどさ、その倉庫は最初からあった ってことだろ? この店の下に。

後で倉庫 作るの大変だろうしさ。

店のヤツが利用しねぇってことは ないんじゃねぇか?」


「そうだよな... 幻惑で倉庫を忘れさせてるとか...

しかも、この店を経由しねぇと倉庫に入れん とかになると、だいぶ不便だしな」


「ステージの裏側は バックルームだろ?

通用口と階段があるはずだ」


「入口はステージ下にもあるが、外にも入口がある とか、倉庫が他のビルの地下にあるんだとしたら?」


「この店、地下 一階だぜ?」

「なら、倉庫は 地下 二階なんだろ」


「ステージ下から階段 降りてさぁ、通路みたいの歩くとするじゃん。

で、また違う階段を登るんだったら、地下 一階になるよな。他のビルの地下の」


ルカの意見に なるほど と思ったが、そうなると間の通路が長かったりする場合、どこの地下なのかは分からない。

地下 一階か 二階か も不明。


「現実的に考えると、そう遠いということはないだろう。

ここの下か 周囲ビルのどれかだ」


「自社ビル って言ってたよな?

近くに他にもあんのかな?」

「普通、そこまで近くに建てんくね?」


「シャンパン飽きた」と ミカエルが言うと、シェムハザがコーヒーを取り寄せた。

持ち込みは禁止のはずだが、ベルグランド家だ。

おにぎりだろうが コーヒーだろうが許される。

バゲットサンドも取り寄せてくれた。

イヤな客だよな。


「もし、倉庫が周囲ビルの地下であったとしても

倉庫の名義は このビルのグループだろう。

会社名義か 関係者名か」


「調べてくる」と アコが消える。


「どこか分かっても、神隠しのような呪を解かなければ、倉庫には入れないんじゃないか?」


「解くには、掛けたヤツの情報がいるぜ。

または、月夜見キミサマを頼る」


「吸血鬼本体が掛けたんなら、情報っていってもなぁ... 」


「だが潜入するとしたら、相手の術は解かずに入った方がいい。

倉庫に 何がいるのかも不明だ。

解いた時に警戒されて、利用場所を移される恐れもあるからな」


ボティスが言うと、朋樹が

「でも、入るには許可がいるんだって」と バゲットサンド片手に言ったが

「シイナが入れるのは、体内に尾長がいるからだろ? 吸血首にしても、卵や成虫がいる」と返された。


「オレら 憑かれねぇしさ」

「憑かれたら、ちゅーとか ケンカしまくるし」


何 言ってんだよ風に、オレとルカが言うと

そんなこたぁ分かってんだよ みたいに見返されて

「体内に 尾長や成虫がいる と誤魔化せりゃあいいだろ?」って言うしさ。

だから わからねぇよ... って返そうとしたら

「うん、その通りだな」と、パイモンが立った。























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