大通りで 朋樹とジェイドとアンバー、ミカエルとシェムハザをバスに乗せると、今 ボティスと話していたことを話してみたけど、すでに似たようなことを 四人で話していたようだった。


帰る前に もう少し この辺りの周辺をバスで回りながら、蝗チェックと首が抜けそうな人チェックをする。


「この辺にも、首が もうひとつ彷徨いてるかも

... って ことだよな?」


朋樹が言うと、シェムハザが

「だが飛ぶからな。この辺とも ひとつとも限らんが... 」と ぐったりさせる。


「なんで首になるんだよ?」


座る場所が無くて テーブルに座り、足を運転席と助手席の間に出した ミカエルが聞くと

ボティスが「さぁな」と鼻を鳴らし

シェムハザが「潜み易くはなるが... 」と、首を傾げている。見当はつかないようだ。

しかし、車内が かなりむさ苦しく狭いぜ。

前で良かった。


「でも、この辺りと 海の近くの距離を考えると

かなり離れてるね。広範囲だ」


オレらから、“吸血鬼” という単語を聞いた時は

一瞬 明るい顔になったジェイドも

“対応策が 燃やすってことしかないな... ” と すぐに暗い顔になった。

“日中でも活動していたしね” ってさ。

そう。日光では灰にならねぇみたいなんだよな。


「一の山の奈落の隙間から吹き出して来たとしたら、なんで 六山の内側には向かわなかったんだろうな?」


朋樹が言っているのは、普段 オレらが生活している市街地ってことだ。


「アバドンが 蝗と 一緒に放ってるならさぁ、クライシサマとかが いたからじゃねーのー?

モレクとクライシって、ワンセットだったしさぁ。クライシって モレクに使われてたじゃん」


シェムハザがルカに「一理あるな」と 同意する。


「俺等の行動に合わせて移動している とも考えられるがな」


ボティス...  と、皆 似たような顔で見たけど

確かに、それも考えられるんだよな。


最初は こっち側、儀式の山に向かう方向で アンバーが灰色蝗を拾う。

海に行ったら、海で 灰色蝗びっしりだしな。


「僕らを見張っている ということか?」


「灰色蝗が出たのは、俺等がモレクの身体を取りに、奈落に入った後だからな。

アバドンが、灰色蝗を使っている奴に俺等を見張らせていることは 考えられる」


ジェイドに ボティスが答えていると

「奈落には、俺も行ったのにナメてやがるよな」と、ミカエルが眉間にシワを寄せた。


「アバドンは、キュベレという でかいカードを持っているからな。

だが、俺等自体に手出しさせてはいない」


「だって、オレらには 蝗 付かないじゃん」


ルカが言うと、シェムハザが

「いや。蝗自体に付かせるということだけでなく

“他の異教の神にも” 手は出させていない、ということだ。

奈落には、様々な異教神が繋がれているからな。

だがアバドンは、ミカエルや皇帝を恐れて直接的な手に出てきてはいない。

天に奈落の調査をされても困るだろうからな」と 説明した。


「灰色蝗を使っている吸血の奴は、アバドンに見張りに使われながら、自分のために蝗に人間の血を吸血させている可能性もある。

奈落で弱った力を取り戻すためにな」


ボティスが言うことに、シェムハザが頷き

「アバドンの目的は、キュベレの目覚めのための

人間の魂集めだ。

だが蝗に吸血され 首が抜けた者は、厳密には “仮死” だ。死んでいないから、魂が抜けていない。

アバドンのためにやっているのではないということだろう。血は、自分のために集めている」と

また説明する。


魂を取らないのは、力を取り戻していることが

アバドンにバレないようにするためなのか? と

考えていると

目眩めくらましという可能性もあるけどな」と

ボティスが あくびしながら言った。


「そうだな。俺等の眼を こうして吸血の首抜けに向けておいて、別の奴で魂集めか... 」


シェムハザもめてくれよ...


「あー、クライシとモレクもワンセットだったもんなぁ。勘弁してほしいよなー」


ぐったりし過ぎたのか、めずらしく ルカが静かな文句だ。

言葉も出ないってとこまでは まだいってねぇようだけど。


「こっちの動きを見張ってる、ってことは

吸血鬼は オレらの近くにいる ってことだよな?」


朋樹はもう、灰色蝗使ってるヤツを “吸血鬼” と呼ぶことにしたようだ。オレも そうしよう。

本当なら、バンパイアの方が それっぽいけどさ。


「そういうことになるな。

まぁ、見張っているかどうかは まだ定かじゃあないが、気を付けるべきではある」


そうか...  見張られてて、近くにいたとしても

そいつを特定するのは難しいんだよな。

悪魔ゾイも割と長い間、オレらを見張ってたみたいだけど、全然 分からなかったしさ。


悪魔や天使は 人に憑依しても、出来るヤツは 奥に潜んで気配が消せる。

術にけたヤツが得意らしい。

人霊や動物霊の憑依とは違うんだよな。


ボティスとミカエルが

「珈琲」「マシュマロ!」って言うから、コンビニに バス停めたけど

「で、どうする?」「帰るのか?」って話し合いになるなか、オレとルカがコンビニ店内に向かうと、ミカエルもついて来た。


コーヒーは シェムハザが取り寄せてくれているが

マシュマロはないらしいからな。

ミカエルが「カゴ持てよ」って言うから 持つと

マシュマロとシュークリームを入れた。

ルカとオレも、スナック菓子とかチョコを適当に選んで入れる。


ミカエルは、アイスも選ぼうとしていたので

「今日食っただろ。三つもさ」と 止めると

「じゃあ、甘い珈琲 飲んでみる」と 言う。

ルカが「おお、なら ラテにしようぜ!

リラが よく飲んでたんだぜ。泰河も飲むだろ?」と、レジでラテの紙カップを三つ買って

レジの隣のコーヒーマシーンに 注ぎに行った。


シュリもラテばっかなんだよな。

“コーヒー苦くない?” って言って。

リラの話、早く聞かせてやらねぇとな。


海 行く前に、シュリと映画 観に行った時

“何にする?” って聞いたら、絵本を実写化したような、あまりに可愛らしい映画を選ばれて

オレは軽く マジかよ... って引いちまったけど

“これ、リンと 観たいね って話してたんだー” って言ったから、それにした。

観たら全然 良かったし、喜んでたからいいんだけどさ。楽しかったしな。


海に行く前にも、一回 連絡したけど

帰ってからは まだ連絡してねぇんだよな...


レジでカゴの中身の精算して、ビニール袋と お釣りを受け取ると、ルカとミカエルは もう外に出てた。


ルカからラテ受け取ると、ミカエルに

「シュークリーム」って言われて 袋ごと渡す。


そしたら、ムッとして

「俺もカップ持ってるのに。出せよな」って拗ねやがるから

「うん、悪ぃ」って、ルカが出してやってる。


「ごめんな」って くせっ毛頭に手を置いたら

「うん、いいぜ」って 額を指ではじかれた。

割と痛てぇ。

「開けろよ。マシュマロも!」って 言うから

またルカにカップ持ってもらって、袋は素直に開けてやった。


バスの後部座席のドア開けて、朋樹とジェイドが外に出て話してるけど

ミカエルは、コンビニの入口脇でラテ飲んで、マシュマロの袋をオレに持たせたまま シュークリーム食ってやがる。


「ん? 戻らねーの?」と ルカが聞くと

「戻るけど。狭いだろ?」と

まだ戻る気がなさそうに見える。


ルカと眼を合わせ、“ちょっと待ってみるか” と

大人しくしてみると

マシュマロ 食い出したミカエルが

天使等おれら ってな」と 口を開いた。


「うん」と、ルカが相槌 打って

マシュマロ 一個 摘まむと

「父には 愛されてるんだよな。

人間や地上の次に」と、ラテを飲む。


「うん」「ミカエルは天使たちにもだろ?」


茶化したつもりじゃなく 言ってみると

「それは別に、愛じゃないだろ?

俺の役割が派手だから ってだけだし」とか言う。


いやいや、過去 遊んだ相手の方には愛があったんだろうし、今も 憧れじゃなくて愛なヤツもいるんじゃねぇの?... とは 言わねぇけどさ。

話ズレていきそうだし。


「なにー? アイの話?」と、ルカもラテ飲むと

「うん。俺等は、守護するように出来てるんだよな。天もだけど、人間も地上も。父の手足だ」と

ミカエルが話し出した。


「そうしてたら、情や慈しみが生まれる。

異教徒の殲滅もするのに、おかしく聞こえるだろうけど」と、碧い眼で ラテのカップを見ながら

どこか遠くを見てる。


「えー、何も おかしくないぜ。嬉しいしさぁ」

「人間だって、喧嘩も戦争もするからな」


ミカエルは「うん」と、ブロンドの睫毛を臥せたけど、頬とかが 少し嬉しそうだ。


「守護対象だけど、対象だからじゃなくて

“大切” だって、心が想うんだ。人間も 地上も」


「おう」「うん」だけで、返事が他に返せない。

照れるしさ。

胸に温かい何かが 広がる感じがする。


「でも たぶん、恋 っていうのは

それとは 少し違って」


おお?! なんだ? ミカエルの顔が見れねぇ...

ラテのカップを口に当てたまま、ルカも ピタっと止まった。


「自分勝手な、欲も芽生える」


え? って、ミカエルに顔ごと向ける。


「... ダメなのかよ?」


元も子もないようなことを ルカが聞くと

ミカエルは「散々 見てきたのにな」と 眼を空に向けた。 人間の ってことか...


「そういう欲が、ダメかどうかは分からない。

人間は、“ふさわしい助け手” と 結び合う。

もちろん欲が行き過ぎるとダメだし、天使が持つべきじゃない。

それに天使は、愛されるようには出来ていないしな」


「そんなこと 言うなよ... 」


ルカが、信じられん って眼で言う。


「なんだよ、“出来ていない” とか “造られてる” ってさぁ。ココロは そういうのじゃねーじゃん。

オレ、ミカエル好きなのにさぁ」


「造られているようになる とは限らねぇだろ?

人間だって、何度も聖父や天に背いてるしさ」


愛するってことが出来るのに、愛されないってことはないんじゃないか?... とは 言えねぇんだけど。


歯が浮くから ってだけじゃなく、同じ立場の人間に言うんじゃなくても、言葉にしたら 何か薄い気がした。

こういうのは 身を持って知るべきことなんだろうしさ。実があるから理解が出来る言葉だ。

中身を知らなきゃ、言葉の意味が届かない。


けど ミカエルに、そんな風に思って欲しくなかった。寂しくなる。

天使は皆、そうなのかもしれんけど

“護って愛するだけ” の存在が 自然とは思えない。

人間的な考え方なんだろうけど、オレは人間だしな。


「待てよ。誤解させたかもしれないけど、俺は悲観して言ったんじゃないぜ?

相手が望んでないことをするのは、ただ 自分の欲を通した ってだけになるだろ?

それは 違うよな。喜ばせたい」


これは、海の時に ゾイを離さなかったこと を言ってるのか?

ルカが 口を開きかけて、なんとか堪える。


「... なんだよ。そんな、聖人みたいなさ」って

言ったら「うん、天使だからな」って 返ってきて

黙っちまった。


「そういう、無償系ってさぁ

コイじゃなくて アイなんじゃねーの?」


オレと同じく 何かに納得できないルカも言うと

「そうだな。それでいいや」って 笑いやがる。

なんで 上手くいかねぇのかな? 不思議だ...


バスの方から「そろそろ行くぜ」って

朋樹が声 掛けてきて「おう... 」「わかった」と

もやもやしたまま、バスに戻った。







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