9 息吹 ジェイド (第八日)


*********




「ルカ、おまえ道着?」

「あっ、マジじゃん! 泰河なに?

ターバン巻いてるし」

「朋樹はローブだ」「おまえ、神父?」


気がつくと、僕らは草原にいた。

季節の頃は 春のように思える。平穏だ。


ルカは柔道の道着を着ていて、泰河は赤いシャツにカーキの膝丈カーゴパンツ。

頭にはカーキのターバンが巻かれている。

朋樹は、無くてもいいような黒い布のローブ。

僕は、神父服に似た何かだ。上は膝上の丈だし、

下にはスーツ下のようなパンツ。上下とも青。


「あっ」


ルカが目敏めざとく何かを見つけた。


クサだ」「やくそうか?」

「よし取っとけ。最初は多少いる」


どんな夢かは、もう充分 気付いたと思う。


「宝箱だ!」「開けろ開けろ」

「... 草?」「くっそ 期待させやがって」


“一度は通っておこう” と、僕らは やってみることにした。


「どこ行くー?」「とりあえず宿ヤドだろ」

「すぐ近くに もう見えているね」


たまにクサを拾って、いつの間にか手元にあった

麻布の袋に入れながら、小さな集落らしき場所へ移動する。


目の前に、ぷるぷるの何かが跳ねてきた。

三体もいる。黒い眼は丸くて 口が笑っているし

かわいいかもしれない。


「おっ、出たな」「結構でかくね?」

「やれよ おまえら」「かわいそうじゃないか?」


皆 僕を見たが、特に返事は返して来ない。

ルカと泰河が 掴んで投げると、バウンドして遠くまで行き、事なきを得た。小銭が落ちている。


すると突然、何かの派手な音が鳴り響いた。

トランペットやシンバル、太鼓...


「えっ? パイモンの楽隊じゃね?」

「いや、違う」「腕を見てみろ」


“じぇいど は レベルがあがった!”


左腕の袖を捲り上げると、タトゥを無視して ドットの文字が並ぶ。

表記が古い気がするけど、気にしないでおこう。


「スマホとかに通知が来るんじゃないんだ」

「スマホなんかねぇんだよ。充電 出来ねぇだろ?」


「にゃー」


「あっ」「露子!」


露も同じ夢にいたが、遊んでいたらしい。


「よく無事だったな」「ど平和じゃねぇか」

「いや、ぷるぷるはいるからな」「もう着くよ」


集落に足を踏み入れると、そこは夜だった。

外灯の代わりに、赤オレンジの丸い火が揺れている。


「里... ?」


「おお、旅の御方。よう来られた」


ダークチェリーのハンチングに、同じ色のニットベスト。ベージュのシャツ。

ブラウンのパンツを穿いた、小さい おじいさん。

玄翁だ。

150センチくらいしかないから、まっすぐ前を見ていると、傍に立たれても気付かない時がある。


「玄翁じゃん」「いいぜ、普通に喋って」


「いやいや。孫娘が戻って来ませんでのう... 」

玄翁は、役をやりたいらしい。

そして話は、するすると進むようだ。


「孫いたっけ?」「榊だろ」

「跳ねっ返りだからね」

「しょうがねぇな、あいつは... 」


「孫娘は、里の東の遺跡へ

“おうごんの狐草” を摘みに出たまま

もう 三日になろうかと... 」


「キツネグサ?」

「イネ科の雑草だな」「別名 スズメノテッポウ」

「わかった。必ず連れて戻るぜ」


僕らは、里の商店を冷やかし

他人の家に入り込んで、家捜しと情報収集をすると、玄翁の屋敷で食事をもらって休み

早速、東の遺跡へ向かうことにした。


「棒術の棒、手に入れたしー。竹だけどー」

「オレなんか、短剣 見つけたぜ」


家捜しの成果だ。

朋樹は、小さな式鬼札を手に入れて

僕は、スプーンを手に入れた。


東の遺跡までは、向こう側が見えるような小さな森などもあったけど、ぷるぷるの彼らしか出なかったので、ルカと泰河が投げて 小銭を拾って進む。

序盤は 僕も朋樹も役に立たないので、代わる代わるに露を抱いて、じゃらしたりしながら。


「おっ、あれだな」


朋樹が指差す先にあるのは、四角く切り出した

石を使って作った、苔むした 遺跡の入口だ。


「小さいよなー」「最初はね」

「裏に行ってみようぜ」「宝箱ありそうだしな」


膝の辺りまである草むらを分け入り、裏側へ行くと、思った通りに宝箱があって、中には ガラスの小さなボトルが入っていた。


「“まほうのナントカ” だろ」

「術って、何か消費するんだ」

「“用法... 集中力が途切れた時などのリフレッシュに”」

「ああ、術は精神力消費するからな」


そう。悪魔祓いや 朋樹の禊祓いは、聖子や日本神の力で為されるとしても、実際に悪魔やゴーストと向かい合う時、僕らにも相当の精神力が必要となる。絶対に揺らいではならない。


術も同じ。天空精霊や式鬼も、円や道具は 何を作用させるかと選択する物でしかない。

意志と精神のエネルギーで使役する。


「痛って!」


何かが飛んで来て、ルカに激突してよろけさせた。丸いコウモリだ。


「大丈夫か?」「草 食っとけ クサ」

「飛ぶやつは どうするんだ?」


朋樹が小さな式鬼札に息を吹くと、炎の蝶が飛び、丸いコウモリを少し焦がして撃退する。

コウモリは小銭を落として飛び去った。


「ここから式鬼まほうか」「楽隊音楽だ」

「あっ!痛いとこ治ったぜー」


“じぇいど は レベルがあがった!

しゅの いのりを おぼえた!”


「おお、すげー!」「“とくぎ” だな」

「オレも覚えたぜ!“ぬすむ”」


泰河は “とうぞく” らしい。

しかし、レベル数値の表記はないようだ。

結構 アバウトな気がする。


「ルカは “ぶとうか” だろ?

オレが “まほうつかい”、ジェイドが “しんかん”」

「“ゆうしゃ” は?」「いねぇな」

「上級職じゃないのか?」


「えー、転職システムかよ」

「何になるか迷うよなぁ」と 話しながら、遺跡入口に戻って中に入り

「まず一階からだな」「一階しかねぇじゃん」

「地下だろ、たぶん」と、探索を開始する。


古い石の遺跡は、天井がない。

迷いようのない単純な造りになっていたが

中央の広間囲む通路の右側は、遺跡の 一部が崩れ

すぐそこにある宝箱を取るにも、逆側から回り道をしなくてはならなかった。


丸いコウモリを焦がして追い払いながら進む。

ポーチを提げたコウモリには 露が飛び付き、泰河がポーチから、毒に効く草を分けてもらう。


「もう毒消し?」「いや、次の予告だろ」


地下へ降りる階段を見つけたが、階段の前には

誰かが倒れていた。

白衣に黒袴。長い黒髪に、黒い狐耳。


「浅黄?!」「えっ?! なんで?!」


駆け寄って抱き起こし、草を食べさせる。


「... かたじけない。里より妹分を追って参ったが

何者かに当て身を受け、倒された始末にあった」


「単身で乗り込んだのか... 」

「妹分って 榊だろ?」

「じゃあ、オレらと行こうぜ」

「おう。最初から人数いるしな」


また「かたじけない」と、眼を臥せて立ち上がった浅黄が 仲間入りをし、地下への階段を降りる。


地下には、中央に広間はなく

小部屋や牢を開けながら進むようになっていた。

丸いコウモリに加え、毛むくじゃらの丸いモンスターが出て来たが、浅黄が薙刀で 一気に払って

先に進む。

実は助っ人として現れた浅黄は、僕らのパーティの中で 抜きん出た強さだった。


「あっ、この部屋 開かねーし!」


鍵付きの部屋だ。


「こんな序盤に出て来ても、後で鍵 手に入れて

開けに来るの忘れるんだよな」


無視して進むと、明らかに今までの小部屋とは違う、大きな両開きの扉の前に出た。


「よし、行くか」「待てよ、回復は?」

「大して傷ねぇじゃん」

「浅黄は、もう 一度 草 食っといてくれ」


浅黄が草を食べて体力を回復し

「かたじけない」と言うと、泰河が扉を開く。


「おお!」「すげぇ!」


扉の向こうは、中庭になっていた。

所々の天井の隙間から光が射し込み、黄金の雑草が輝いている。


「榊は、これを取りに来たのか... 」

「きれいだね」「よく 一人で来れたよな」

「術は それなりである故」


「でも、誰もいねーじゃん」


そう言ったルカが、奥の壁に手を当てると

ルカが消えた。


「は?!」「落ち着け。神隠しか結界だろ」


朋樹が壁を調べても何もないようだったが

隣に行った泰河も消える。ルカも消えた位置だ。


露が その場所に走り、床にあるスイッチを発見した。踏めば開くようだ。


「マジかよ... 」

「まあ、最初は仕掛けも単純なんだろうね」


スイッチを踏んで入ると、ルカと泰河は すでに

瀕死だった。


「ああっ?!」「草だ!」


草を食べさせると回復したが、僕らは

“夢なんだし”... と ナメてかかったところがあったため、まだレベルが足りていなかったらしい。


「おー、痛ぇ... 」「強いぜ、あいつ」


奥にあるのは、たぶん榊がいる扉だろう。

その前に、二つの頭を持つライオンがいた。

背には翼を持っている。

二つの首に 首輪を付け、鎖で奥の扉に繋がれていた。扉の門番みたいだ。


立派なたてがみをしたライオンは、鼻面にシワを寄せ

太い牙を剥き出し、低い唸りを上げている。


「... よく挑んだな」「敵う気がしないね」

「うむ。喰われる恐れもあろうのう」


「バカ言うなよ! やらねーと!」

「“連れて帰る” って、約束したじゃねぇか!」


二人が熱くなっているのは、仕切り直して

この遺跡を もう 一度 攻略するのが、面倒なせいもあるのだろう。僕らの気持ちもなびいた。


「あいつ やりゃあ、一気にレベル上がるし」

「鍵を入れるまでは、もう用事ないしな。

よし、行くぜ!」


助走を付けたルカが 棒術の竹棒を立て、棒高跳びのように 反動で高く跳び、ライオンの尾の向こうに降りた。しゃがんで、後ろ足を払う。


ライオンが起き上がる前に飛び込んだ浅黄が

頭の片方を打ち、もう片方を蹴り上げた。


泰河が 無謀にも背に飛び乗って、背の両翼を掴む。


「よし、地味だが行くぜ!」と

朋樹が式鬼札を吹き、炎の蝶を飛ばして たてがみを焦がし、片方の鼻先に火傷を負わせた。

地味だ。だけど、ライオンは吠えて暴れ

泰河が振り落とされる。


「痛ってぇ... 」「大丈夫なのかよ?!」


ルカが聞くと、泰河は ニヤっとして

手のひらを開いて見せた。


鍵がある。


「えっ? 小部屋の?」

「いや、そんなはずはない。この奥の扉だろう」


またライオンを打った浅黄が

「しかし、扉に鍵穴はなかろう?」と

僕らに聞く。... 見たところでは、確かにない。


「ライオンの鎖じゃないのか?」


式鬼札から炎の蝶を飛ばして、朋樹が言った。


「鎖から解放するのか?」

「こいつ自身が鍵 ってこと?」


「たぶんそうだろ。こいつがいる限り扉は開けられねぇしな。

それよりジェイド。

こいつのカタチ見て、何なのか よく考えろよ」


翼を持つ双頭のライオン... 悪魔だ。

僕は歩を進めると、ライオンの前に立った。


「おい!」「ジェイド!」


不安げな声を背中に受けながら

“大丈夫だ” と、手のひらを向けて示したが

福音や詩編を 度忘れしている。


そうか... 僕は まだ、“しゅのいのり” しか覚えていなかった。

とりあえず それかな。


「“天におられるわたしたちの父よ、

み名が聖とされますように”... 」


祈りを口にすると、唸っていたライオンは

気持ち 大人しくなった気がする。


「“み国が来ますように。

みこころが天に行われるとおり地にも行われますように”... 」


ライオンに 手で座るように示すと、素直に お座りした。

泰河が、そっと扉の方に回る。


「“わたしたちの日ごとの糧を

今日も お与えください。

わたしたちの罪をおゆるしください。

わたしたちも人をゆるします”... 」


泰河の手元から、鍵が開く音がして

鎖が扉から外れた。


「“わたしたちを誘惑におちいらせず、

悪からお救いください” アーメン」


ライオンは、双頭を床に伏せた。

首輪にも鍵穴があったので、泰河が解錠して

鎖ごと首輪を外す。


「にゃー」


露が 僕の隣で ころりと寝転んで、ライオンに腹を見せている。

二匹で話し始め、しばらくすると、ライオンが部屋の隅に行って座った。


僕らは ライオンに「さっきは ごめんね」と謝り

ありったけの草をプレゼントすると

派手な楽隊音楽を聞きながら、奥の扉を開けた。



扉の向こうには、見慣れた背中が立ちはだかっていた。


ライトブラウンのベリーショートヘア。

耳に並んだ黒と赤のピアス。

背は 僕より少し高く、隙のない引き締まった体躯をした男だ。


首に巻き付けるタイプのマントを付けているが

下は、ブラックジーンズに赤のショートブーツで

「鍵を渡せと言っているだろ?」と

足元にいる覆面レスラーのような男を蹴りまくっている。

覆面はグリーンの布で、目の位置にだけ 二つの穴が空いていた。

あとは、レスラーパンツしか身に着けていない。


「ボティス」


名前を呼ぶと、つり上がったゴールドの眼で振り返り「お前等か。今 俺は忙しい」と、不機嫌に言った。


「ボティス おまえ、どこから入ったんだよ?!

ライオンが鍵になってただろ?!」


朋樹が聞くと、ボティスは面倒臭そうに

部屋の奥を指差した。


奥の大きな鳥籠のような牢には 榊がいて、鳥籠の縦の骨組みを両手で掴み、ムッとした表情をしている。

囚われの身が腹立たしいようだが、牢の中には ピンクや白の ひらひらしたシーツが掛かったベッドや、テーブルやソファーもある。


その鳥籠の奥に、石造りの階段があった。

上部は ぽっかりと穴が開いていて、外の陽光が 鳥籠の中の榊まで照らしている。


「ええっ?!」

「外からイキナリ、ここに降りたのかよ?」

「これ、攻略してからの出口だろ?!」

「どこに繋がってるんだ?」


「里の近く」


ボティスは短く答えると、また「鍵」と 覆面レスラーを蹴る。

たぶん、このレスラーパンツが遺跡のボスなのだろう。


とっくに決着は着いているように見えるので

僕らは、ボティスをなだめにかかった。


宥められて幾分 落ち着いたボティスは、ふん と 鼻を鳴らし「だいたい、何故 榊を捉えた?」と

レスラーパンツに聞いている。


「... かわいかったから」という 照れ気味の答えを聞くと「こいつは俺の女だ」と また蹴ったが

榊は頬をピンクに染めた。


「ボティス、もう やめるが良い」


浅黄が言うと、ボティスは ちらっと浅黄に眼をやり、大人しく下がる。

「牢の鍵を出させろ」と 僕らに命じると、浅黄を手招きして、一緒に榊の方へ行き

「すぐに出してやる」と、榊の頭を撫でた。


「おじさーん」


若いかもしれないのに、ルカは そう話し掛け

「鍵ってどこー?」と聞くと

レスラーパンツは、泰河を指差した。

ライオンの鍵が 鳥籠の鍵でもあるらしい。


「良し。なかなかだ」


あっさりと鍵を開け「ふむ。礼を申す」と言う

榊を救出すると、露が駆け寄り 榊に飛び付く。


「食っとけ」と、ボティスがレスラーパンツに

草を投げてやっていたので

安心した僕らも手を降って、楽隊音楽を聞きながら、石造りの階段を上がる。

遺跡の外はもう、夕焼けに染まってた。



里に戻ると「よう戻られた!」と 迎えられ

広場で酒宴が催された。


僕らは それぞれ、里の狐たちに感謝され

遺跡での話をせがまれながら、桜酒を飲む。


「あの悪名高いレスラーを成敗されるとは

さすが勇者様。どうか、榊を共に... 」


「ああん?!」「なにぃ?!」


どうやら “ゆうしゃ” は、ボティスのようだった。


「あたりまえだろ?」


浅黄と榊の間に胡座をかいたボティスが

耳のピアスを弾いて、桜酒の杯を口に運ぶ。


「まぁなぁ... 」「武と術のバランスもいいしね」


うなぎの白焼きを食べ終えた露が、二本足で立って 招きを始めると、まだ人化けが出来ない周りの狐たちも 一緒に招きを始め、輪になって踊り出す。


空が白むと、ひとつ ふたつと狐火が消え

里の入口から 翼を持った双頭のライオンが顔を出し、朝日が差し始めた。




********




目覚めると、外はもう暗くなっていた。

隣のベッドで 朋樹も身を起こす。

露も起きて、伸びをした。


「あれっ?!」「なんで床?!」


ルカと泰河は、床から身を起こした。


テーブルに視線を向けると

ソファーの背凭れから両翼を出したミカエルと

向かいに ボティスが座っていた。

僕らが冒険している間に 帰って来たらしい。

キッチンでは、ゾイがコーヒーを淹れている。


「よう、勇者」


泰河が ボティスに言うと、ボティスは

「何を言っている?」と 怪訝な顔をした。

寝ていた訳ではないようだ。


「ミカエル、いなかったじゃん」


床に座ったまま、ルカが聞く。


「俺は違う夢を見てた。覚えてないけど」と

答えるミカエルは、何故か機嫌が良く見えた。


「お前等は、同じ夢にいたのか?」


ボティスに聞かれて、僕らは それぞれに夢の内容を話してみたが、全く同じ夢だった。


「双頭のライオンが出てさ」

「翼もあったな」「ボスは覆面レスラーだ」

「浅黄や榊も出て来たぜ」


「ほう... 」と ボティスがゾイを見て、感心したような表情になった。

「次は俺も見てみるか」と言うと、僕らにコーヒーを配るゾイは 嬉しそうに笑っている。


「うん、楽しかったよな!」

「また頼むぜ、ゾイ」


「うん」と 答えたゾイは、いつもより余計に

やけに女性に近く見えた。


「早く珈琲 飲めよ。外に飯 食いに行くからな」


「えっ? ミカエル、絵はいいのかよ?」


「うん。バラキエルが帰って来たし、また今度にする。聖書もな。

露、俺また、お前に降りるぜ?」


ミカエルが、冬枯れしたミントの庭からエデンに戻ると、エデンのゲートは消えたが

すぐに露の眼が碧くなった。


「外の飯って、どこに行く?」


『露俺が入れるところ!

食事係に、ファシエルも連れて行くからな』


熱いコーヒーを、なるべく急いで飲んでいると

朋樹のスマホが鳴った。

沙耶さんからの電話で、仕事の依頼が入ったようだ。


『なんだよ。じゃあ付いて行ってやるよ』


「車 二台?」

「いや、なんとかバスに乗れるだろ。

一人が 後ろ座席のコーナーに収まれば」


またミカエルに急かされ

「熱っ」「舌、火傷した」と文句を言いながらも飲み干すと、ボティスもソファーを立つ。


「よし、行くか」

「おう。さっさと済まそうぜ」


上着を羽織り、バスの鍵を持って外に出ると

ゾイが空を見上げる。


『エデンは、星絵側が昼だ』と

露ミカエルが、ゾイの肩に飛び乗った。





********     「息吹」 了

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