露ミカエルは『ルシフェルと話す』と、テーブルから ぴゃっ とジャンプしたが、空中で ルカが

はしっ と 捕まえた。


「ミカエル!」

「落ち着こうぜ! なっ?!」


『悪魔に乗るな!

バラキエルの案で、サポートかと思ってたぜ!』


「なんだよ、急にさ」

「“モレクをやる” って言ったのが ボティスなら良かったのかよ?

モレクは放っとけねーんだろ?」


露ミカエルは、ふんっ! と鼻息をついた。


『あいつは、お前達とは違うだろ?

天も しっかり人間とは見なしていない。

堕天使系悪魔で人間になって、天使に戻って

また堕天したからな!

あいつが、でかいことやるって言うから

俺は あいつに着いたんだし!』


「うん、そうだよな! 嬉しいしさ」

「もう すげぇ心強いぜ!」


おっ、ちょっと落ち着いてきた。

ルカに捕まって、両脇 支えられて 後ろ足ぷらぷらさせて暴れてたけど、テーブルに置かれてみてる。


けど、『だいたいなっ!』と、まだ 二つ尾でテーブルを叩いてるから 油断は禁物だ。

オレもルカも、浅く椅子に座って、両手はテーブルの上。


『お前等、なんで悪魔といるんだよ?!

バラキエルが悪魔の時から 一緒にいるんだろ?!』


「あれ?」

「知らねーの?」


『知ってる!!』


なんだよ...


『普段、一緒に何してんだよ ってこと!』


「仕事じゃん」

「あと 買い物とか、飯とか... 」


『仕事内容!』


「祓い屋」

「そう。迷える霊の送り とかさ。

後は、サンダルフォンの件に巻き込まれてるから、それ関連だよな」


いうかさ、エデンで 一緒にいたり

こないだもクライシの件 やったじゃねぇか。

モレク相手だけど、これも その件だしさ。


『ルシフェルは、キュべレのこと知ってんのかよ?』


「いや、まだ知らねーし」

「モレクが なんで奈落から出たか聞かれても

ハティは “ミカエルに聞いてくれ” って ゴマかしてたぜ」


『なんでルシフェルが、人間のお前等を使うんだよ? ルシフェルは チェスしてんのか?』


「いや... 使われては...

けど、モレクの話は しとかないとさ... 」


ルカが閃いたように、丸い形の黒い眼を見開いた。


「ミカエル、ジェラシィ?!

寂しかったのかよ?!」


『だって、なんで ルシフェルのこと聞くんだよ!

お前達を守護してるのは、俺等なんだぜ?!

話だって 先に俺にしろよ!

バラキエルは、俺を遊びに誘わないし!!』


露ミカエルは、パシッとテーブルを打っていて

オレからもルカからも 軽いため息が出た。


こいつ、“ミカエル” なのに

恋してみたいって言ってゴネてみたり

ボティスが遊ばん! って怒ったりさ...


「皇帝はさ、モレクを何とか出来れば

“父を超える” って思ってるんだよ。

ボティスは、浅黄が戻ってから ミカエルと遊ぶ気なんだと思うぜ」


浅黄、と 聞いて

露ミカエルの顔が、スネた顔じゃなくなった。


「そうそう。モレクだと、ベルゼがいねーと困るから、先に皇帝たちに話したんだろ?

忙しくなる前に、チェスは済ませた方がいいしさぁ。約束したし」


『うん、そっか』って 落ち着いてきたから

「アラボトには上ったのか?」って聞いてみる。

たぶん、オレらが聞いても わかんねぇけど

話ずらしてみようと思って。


『上った。

父はまだ、サンダルフォンの新曲を聞いてたから

聖子と話した』


天の曲、長...

サンダルフォンの新曲って話、だいぶ前に聞いた気するぜ。


「聖子って、イエスだろ? 何 話したんだよ?」


『もちろん、モレクのことだぜ?

キュべレの牢は調べられないかを聞いたけど

そっちは やっぱり、証拠がないからムリだった』


「何て言ってた?」


『モレクには 眉をしかめてたな。

父じゃないから、何かのめいは下せないけど

俺が地上で何かする時はフォローしてくれる』


命、下せねぇのか...  けど 考えたら

聖子も父から 命を受けたりするんだもんな。


「そうだ、聖子は降りれねぇの? 元人間だよな?

降りれば モレク やれんじゃねぇの?

たまに 聖母は降りるよな?

予言したり、メダイ造れ って言ったりさ」


『お前、何 言ってんだよ』


しらっとした顔で言ったミカエルと同じ顔で

ルカもオレを見ている。


「それ、黙示録の聖子の再降臨じゃねーか」


あっ、そうか!

聖子は気軽に降りねぇよな!


『とにかく俺、ここにいるの飽きた』


テーブルで伸びして あくびする。

機嫌は直ったみてぇだよな。


「でも、ねこと 一緒に入れるとこって少ねーしなぁ」


「カラオケも映画館もムリ、クラブもボーリングとかもな。屋内は難しいよな。

露じゃなくても、ミカエル 翼 出るしさ」


『お前ん家は?』と、ルカを前足で指す。


「うん、家でいいなら いいけどさぁ

オレらさぁ、モレク信仰の噂集めしなきゃいけねーんだよな。

まぁ、まだクライシばっかで、聞いたことないんだけどー」


『だったら、オオヤケにある訳ないだろ。

生贄だぜ? カフェで話すかよ。

対象も、それなりに権威がある奴に限るはずだ』


「なんでだよ?」


『バアルだった時から そうだろ?

“王” に “初子” を求めたんだぜ?

困ってる時に、足下あしもと 見てな。

王... つまり権威がある奴が流れれば、皆そいつに従うし、実際に利益があれば その神を信仰することが正しい と思うだろ?』


で、最初は生きるため、民とかを生かすために

必死だったのが、でかい利に欲が出て

堕落していく ってことか...


『父が キュべレを抜き出したように

人間にも、善と悪がある。

悪に傾くのは簡単なことなんだ。

それがとても 甘美に見えるから』


つい、皇帝を思い出してしまう。


もし って、考えたことがある。

皇帝にゆだねたら、誰にでもあるような

死ぬまで埋まらないような隙間も 埋まるんじゃないか、って。


『バアルは、罪悪感すら麻痺させていった。

“母の代わりに” と、自分が泣くんだ。

神であるバアルが悼んで、生贄になった子供たちの魂は、神の国へ行くと納得させる。

いつの間にか “神の子になるため” と

生贄は正当化されて、崇拝は盛んになる』


クズだ。ひどい言葉を吐きそうになる。


「誰も気付かねぇのかよ?

赤ちゃん、だろ? 小さい子を そんな... 」


イヤだ って顔で、ルカが言う。


『もう見ないんだ。何をしてるかの真実なんか。

見ないことに必死だから、堕落にも気付かない』


失敗 って言葉がよぎる。

時に 一掃されても、仕方ないのかもしれない。


日本の “口減らし” にしてもだけど、人間がすることじゃない。

弱くて小さい子を犠牲にしてまで生きるのは 間違っていると思う。


だから、盛んな信仰じゃなくなったんだよな。

それが また立ち上がることなんか、本当にあるんだろうか?


『欲には果てがない。

正当な方法で、それを晴らす奴もいるけど

“国のため” とか、大義名分を付ければ 正当化される。

“社会のため” って言えば、多少 近くに感じるかもな。

バアル... モレクは、そういう地位の奴等から狙っていく』


話を聞いていて、ネットで見た

巨大なフクロウの写真が頭に浮かんで

スマホ取り出して「これ、どう思う?」って

ミカエルに記事を見せてみた。


いや、記事のことを本気にはしてねぇけどさ

著名な人物ばかりが参加 って書いてあったし。

儀式内容は、どうも ベルゼに聞いた 魔女のサバトと混ざってるけど。


『うーん... 写真は嘘っぽいし、並んでる名前も嘘っぽい。

嘘ってバレていいように、わざと派手目に書いた感じもする』


やっぱり、そうだよな。ルカも頷いてる。

こうやって載せてたら、載せたヤツもヤバイだろうしさ。


『でも、これを載せた奴は

どこかでこれに類することをやってるって情報を

掴んだとは考えられる。

写真や記事の真偽は置いといて考えると

“モレクに注意しろ” ってことを

言いたいのかもしれないな。

“偶像崇拝”、“生贄”、“著名人”、って

しっかりとモレク崇拝の特徴は伝えてるから』


確かに、モレクって検索して出た記事だ。


『河川敷からもいなごが飛んでいって散らばっただろ?』


「そうだった... 」


『崇拝するように囁くだけなら、蝗でも出来る。

あれは モレクの 一部みたいだったし。

アバドンに貰ったんだろうな。

キュべレの魂集めのために』


「じゃあ、奈落からも?」


『有り得るかもな。

でもモレク本体は、見た通り この国にいる。

奈落と繋がってるのが ここだからな。

で、説明したように、カフェではなかなか

有用な噂は聞けないと思うぜ?

聞けるとしても、“モレク” って単語は出さないだろうし、気付くのに高度な情報収集能力が必要になるだろ?』


『なんで、お前達がカフェとかの班なんだ?』と

露ミカエルが首を傾げる。

おう、そうだよな。オレとルカじゃなくて

朋樹やジェイドに期待したんだって、今 思うぜ。


『どこか、本当に そういう内緒の話聞けそうなとこないのかよ?』


「いや、あってもオレら入れねーしー」

「そうだよな。

そういうのってさ、個室の料亭とかで話すんじゃねぇの?

人に聞かれたらマズイだろ、“生贄” とかさ」


『いきなり “生贄” って言うかよ。

“権威ある奴ばかりが集まる会合” とかだろ。

“プライバシーは護られる” とか。

場所まで聞けて、祭壇トフェトの場所と合致したら

そいつは参加者ってことだぜ』


「そーじゃん、すげー!」って

ルカと感心するけど、ミカエルって実は賢いのかなって思う。オレらに近い気してたんだけどな...


「けどさぁ、参加者見つけて どうすんの?」


『崇拝させないように働きかける。

そうすれば、生贄も出ないだろ?

崇拝されなくなった神は、力を失って堕ちてくんだぜ? 弱らせれば 封じは出来る。誰かが』


誰かって 誰だよ。


「弱らせて滅するのは?」


『出来るかもな!

ベルゼブブが、大体の魂 吸収しちまえばっ!

身体に魂の 一部が戻っても、生贄の魂を吸収しなきゃな!』


聞かなきゃ良かったぜ...


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る