髑髏 8


「言っておくが、シェミー。

あれは、俺が貰う」


「何?」


シェムハザが、ボティスに鋭き眼を向ける。

やはり 狙っておったようじゃ。


「考え直せ、ビリー。

お前には、地軍も守護天使軍もいるじゃないか。

俺には家族がいる。護らねばならんのだ」


「お前には天空霊がいるだろ。

天使にも悪魔にも、多少作用する。

それにだ。ただ “欲しい” だけでは、いかん。

シアンは お前のめいを聞くが

あいつは お前の命など聞かん」


シェムハザは、ちぃと表情を止めた。


「この国なら、心経を唱えられる者も多く

ドクロの制御も可能だが

もし城で、間違いが起こったらどうする?

城の者が喰われちまう」


「... わかった。譲ろう」


「良し」


「で、どうするんだよ?」と

珈琲など飲みながら、朋樹が言う。


「眼だ。眼に何かあるはずだ」


ボティスは そう言うたが

何があるかは、誰も解らぬ。


「では、とりあえず

眼に届かねばならぬであろうのう」


浅黄が言うと

「まず、動きを止めよう。

ルカ、地で止めてみて」と、ジェイドが言うた。


「いけるかなぁ?」と、ルカが地を呼ぶと

なんと難なく動きは止まった。


「で?」「届かんぜ。登るのか?」


「いや、やはり座らせた方がいい。

ルカ。一度 精霊を解き、座らせたら また拘束だ」


ルカが拘束を解くと

シェムハザが指を鳴らし、大量の小石弾で撃ち

腰骨を着いたところを またルカが拘束する。


「だが、まだ高さがあるのう」


桃太が何の気なしにといった具合に

心経を唱え始めた。


「むっ」「多少、大人しくなるよな」


「オレ、中から言ってみようかな」と

泰河が言うたが

「いや、やめよ」「バカか お前」

「崩れちまったら どうする?」と 皆で止めた。


アンバーに、ぱふぇのクリームを

スプーンで与えておったジェイドを見ながら

「蔓で眼を引っ張ってみるか... 」と

朋樹が言い出す。


「えっ... 」「おまえ... 」


朋樹の発言に、皆 ちぃと引くが

「良し。ブルー、やれ」と ボティスが言うた。


しかし、蔓は

ちぃと 眼を飛び出させただけにとどまった。


「どうするんだよ?」「後頭部から叩く?」

「落ちそうではあるよな」

「けど、どうやってだよ?」


「俺が、刃の上から跳ぶ故」


「は?」「何言ってんだ、浅黄」

「刃って、黒刃か?」


髑髏の黒刃は、髑髏の骨の指に握られておるが

刃先は地面に着いており

登って 頭蓋に向かいて跳べば、眼に届くやも知れぬであるが...


「こうしておっても、じきにまた明けよう。

出来ることは してみるべきであろうよ」


「よせ、浅黄」


「大丈夫じゃ。俺は人間ではない故

喰われることはなかろう。

眼が落ちるまで、皆ここに居れ」


薙刀を携えた浅黄が行くと、泰河も心経を始め

ボティスが儂を降ろした。


浅黄の近くに行こうとしたので

「ならぬ。邪魔になる故」と 止める。


ボティスは、口を開きかけたが 黙って

指笛の形にしておった指も降ろし

その場に立ち止まった。


「もう、浅黄が危なかったら祓いやるぜ」と

朋樹が言う。


ボティスが頷くと、ジェイドもロザリオを

手に取った。


「浅黄が跳ぶ瞬間に、地の拘束は解け」と

シェムハザに言われ、ルカが頷く。


浅黄は、髑髏の黒刃に近付くと 迷わず飛び乗り

一気に駆けた。

髑髏の肘の手前から跳ぶと、ルカが地を退く。


両手に握った薙刀を縦にし

髑髏の 一つ眼に突き入れた。

髑髏が抵抗し、浅黄を振り払おうとしておる。

朋樹が炎の尾長鳥を飛ばす。


「シェムハザ」と

ジェイドが 手に乗せたロザリオを示すと

シェムハザが指を鳴らした。


ロザリオが飛び、炎の尾長鳥の中に入ると

鳥はカッと辺りを照らす程の光を帯び

髑髏の頭蓋の額を撃ち抜いた。


薙刀に貫いた眼球ごと浅黄が跳び

髑髏の足元に腰を着いた。


「浅黄!」


すぐにルカが、髑髏を拘束し

姿を消したアコとシェムハザが

浅黄の前に姿を顕し、浅黄と 薙刀と眼を運ぶ。


「良くやった、お前は最高だ」と

ボティスが浅黄を抱き締めるが

「うむ、わかった。もう良い」と 照れて

ボティスの背を叩いて離し、腰を擦っておる。


「浅黄、すげーじゃん!」

「マジでかっこよかったぜ!」

「クールだ、ゾクゾクした」と

皆に羨望の眼差しで見られ、また照れておるが

ふむ。儂も浅黄を、改めて見直した。


「良し、この眼だ」


ボティスが薙刀を抜き、アコに渡し

なんとそこに、自分の腕を突っ込んでおる。


「強制的に使役契約をする」


儂の知らぬ言葉で呪を唱えると

眼球の内部が光り出し、グラグラと眼球が揺れる。


「あっ!」と、ルカが眼球を見て声を出す。

眼球は急速に縮み出した。


またシェムハザに言われ、ルカが拘束を解く。

解いても、髑髏は動かぬであり

泰河と桃太にも心経を止めさせてみた。


眼球は、みるみると縮まり

ついには、ボティスの手のひらに乗せられた時に

ボティスの呪も終了した。


ボティスが眼球を握ると、髑髏が音を立てて崩れ

空中に解けるように消えた。


手を開き「戻れ」と 命じると

空中に粉のようなものがこごり出し

また巨大な髑髏となり

ボティスの前に、片膝を着いた。




********




「上々だ」


ルカ宅のソファーで、瓶から葡萄酒を飲みながら

ボティスが言うておる。


グラスに注ぐ者がおらぬ時は、これで良いらしく

儂にも「飲め」と、それを渡す。

儂が注ごうとすると『酌などするな』と

眉間に皺を寄せる故、受け取って飲む。


眼球は、普段はアコに預けるようじゃ。

ジインズに入れると、その分 膨れる故。


あれから、朝

皆で食事を取り、浅黄の活躍を散々に語り

シェムハザに

『スーツは各自保管すること』と言われ

解散となった。


相談所に寄り、葉桜に報告し

浅黄が腰に湿布などを貼られるのを見ながら

珈琲を飲み、相談所を出ると

ボティスと共に ルカ宅へ戻った。


『そろそろ、あいつ等が うるさくなる』と

言うておった矢先

『おまえ、またオレら放ったらかしかよ?』と

ルカが着替えやシャワーに戻り

『わかったわかった』と宥めておった。

大変であるのう...


しかし 儂も、今夜はそろそろ

里に戻ろうと思うておる。

あまり空けると、里の者等も心配する故。


「榊。お前は、アコと何を話していた?」


むっ...  唐突であるのう...


「ふむ... “他の女子おなごと、自らを比べるでない” と」


「なんだ。何か気にしているのか?

そういや 朱緒を見て、胸に手を当ててたな。

身体の形は、そう重要じゃあないが

俺は身体も お前が好みだ。

平坦ではあるが、品があり、俺が望む女の形をしている。肌の質感や体温もいい」


「... ぶ ... む、ふむ」


「俺は、お前が在って 世界を見ている。

この事については、長い時間を掛けて話していくつもりでいるが。

まあ、今回はだ。お前が気に掛かることを

解消する話に限定する」


向かいに顔を見るのが、何か照れ臭くなり

頷きし後は、手の葡萄酒に視線を落とす。

もう充分、嬉しくあった故。


「まず理解しなければならんポイントだが

俺は今まで、お前に出会っていなかったということだ。

それまでの過去はある。長く生きてるからな。

海ではクソ女が追って来たが、それは俺が

全く相手にしていなかったからだ。

俺は ああいった女は、遊びでも好まん。

主張してくる女は、知りたいという興味を初めから喪わせる。つまらんからな。

駆け引きを仕掛ける女などは もっと要らんが。

よって 、ああいった女などと自分を比べる必要はない。ここまではいいか?」


「む ふむ... 」


「次にだ。お前は美しい。

これは、女としてだけの意味合いではないが

女と見方を限定したとしてもだ。

こうして向かいにいる今も美しいが

飾った時で言うなら、番人の時のお前だ。

艶やかで品があり、手を取るのも躊躇う程だ。

シェムハザやハティだけでなく

皇帝の眼すら奪う。

どの女も、お前の相手じゃあない」


「む...  もう 良い故... 」


顔が上げられぬ。

顔のみでなく、宝珠まで大変に熱くあった。


「寝る」と、ソファーを立ち上がり

シャツを脱ぎ捨て、すたすたとベッドに歩く。


葡萄酒を一口飲み、瓶をテーブルに置き

まだもぞもぞした様子でベッドに寄ると

するりと引き寄せられ、腕に抱かれる。


整った形の指を、儂の髪に差し入れ

くちづけながら

うなじから背筋に その指が降りる。

そのような間に、儂の衣類も床に落ちる。


「今日 俺は お前の肌越しに

全ての骨に 触れるつもりでいる」


どう答えたものかと、戸惑う言葉にも

ただ くらりとする。


「だが、寝起きには髪を洗ってやる。

お前はイシャーだからな」


わからぬままに頷くが

このような眼を見ると、それで良いと思う。


肩に指を添え、鎖骨に触れると

お前は ボティスの探してた骨だ という

言葉がよぎった。






********        「髑髏」了









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