19


「28個?!」

「一気に?!」


「そう。だいたい同時刻に 繭が見つかり出した。

これで 29個。まだあるかも」


アコ、肩 竦めてるけどよ...


「ミカエルが威嚇したんだろ? 効いてないな」


「いや、セミナーより前に 何か取り入れさせられた恐れもある。

または、捕らえられない自信があるかだ」


もう、準備されてたってことか...

何か取り入れたとしても、すぐに繭になるとは限らないもんな。

赤ちゃんに入ってたら 手は出せねーし。


「玄翁のところの狐と 真白ましらのとこの狸が神隠しかけて、軍の奴等に 一山に運ばせたぞ」


「榊は?」


「一山。ゾイが 一緒」


ゾイが 一緒、と聞いて 安心したみたいだけど

榊には 前に蟲 入ったし、心配だよな。


救急車両が来て、男の子を担架で 車両の後部に乗せて、保護者に連絡した先生が付き添って 同乗することになったようだ。


「保護者の方に お話が聞ける時と、もしまた繭が見つかったら、連絡を お願いします」


学院長に挨拶して、オレらは 一の山へ向かった。




********




一の山の、榊が結界を張った場所には

榊と浅黄、ゾイ、狸の桃太がいて、先に到着したアコとシェムハザもいた。


「よう、桃太!」

「おお、うむ」


オレが 桃太に近づくと、桃太は銀縁眼鏡を くいっと上げて笑った。


桃太は、サラリーマンのような風貌の人化けで

七三の頭に 銀縁眼鏡、紺のスーツという出で立ちの、ちょっと変わったヤツだけど、骨がある人情派狸だ。オレ、桃太すきー。


よく見ると、森の木々の影には 皮膜の翼が背についた スーツの悪魔たちがいて、ボティスの軍のヤツら らしい。


「護衛させてたんだ。

あんまり連れ出すと 皇帝に何か勘づかれるから

五の軍だけ」


「良し。なかなかだ、アコ」


「ボティス!」「ボティスだ!」って 軍のヤツらは嬉しそうにするけど、ゾイやジェイドが怖くて

近付けないみたいだ。


ボティスは「後で飲む。働け」って言って

繭が連なる木々の下にいる、榊たちの方へ行く。


オレらも行くと

「まだ見つかりそうに あるようじゃ」と

緋色の着物の袖を組んだ榊が言った。


「繭が見つかった場所は、会社などが入ったビルの中庭の木や、工場近く、公園に学校と様々であったが、人が多い場所では あるのう」と

浅黄が ため息をつく。


「どうする? これだけの数だ」

「だが、変態前に繭から出して戻した方が ダメージは少ない」

「オレらが剥いて 大丈夫なのか?」


これだけの数、アンバー だけじゃ無理だろうし、

とりあえず 繭を 一つだけ降ろしてもらって触れてみると、柔らかそうに見えた繭は意外と固く繊維質で、素手や もしかすると刃物を使っても開けるのは難しいかもしれない。


桃太の前に、大きめの木の葉が ひらひらと舞い

ふみだ」と 桃太が手に掴む。


「また繭が 三つ 見つかったようだ... 」


おい...


「多くね?」

「セミナーの動画で話題になるのと同時に始めやがったな」


まだまだ増えそうな気がするけど、ボティスは

「見つかっても、今日は あと幾つかってとこだろう」って言うし、シェムハザも頷く。


「なんで?」と 泰河が聞くと


「セミナー動画に信憑性を持たせようとしてやっているからだ。

あの動画が本当だと思えば、クライシに印を付けてもらいたくなるだろう?」と

シェムハザが答えた。


「それなら、こうして繭を人目から隠したら... 」


ジェイドが言う。

隠しちまったら、話題にならない。

被害が拡大する恐れがあるよな...


「だが、放っておく訳にもいかん。

蚕なら死ぬからな」


「早く元を叩くことだが、普段 クライシが奈落にいるのなら、それも方法を考えないとな。

とにかく、どうやって繭にしているのかを調べて

対処することだ」


「む?」と、榊が声を出した。

アンバーが 榊に向かって、何かキーキー言ってやがる。


「アンバー、ちょっと来いよ」と 呼ぶと

よれよれ飛んできた。

片手に乗せると、額に指を置いて 思念を読む。


アンバーの頭の中では、繭が円形に並べられていた。その真ん中に アンバーと榊がいる。


「繭を円にすんの?」と 聞くと

「キッ!」と、でかい琥珀の眼を 余計に でかくした。


とりあえず、アンバーの考えを実行してみることにして、ボティスの軍のヤツらに繭を降ろしてもらった。

円形に並べ、アンバーと榊が その中心へ行く。


「おまえは、思念が わかるからね」って

ジェイドが妬いてやがるし。

「食えよ」と、泰河がクッキーの袋を差し出してる。まだあったのかよ...


「アンバー、頑張ってるぜ」


朋樹がクッキーを 一枚 取って言った。

「美味いな」「うん、美味いよな」

「おばさんは ビスコッティも得意だ」

売れてるぜ、母さん。

浅黄と桃太にも勧めながら、アンバーを見守る。


アンバーは、繭の 一つ一つから糸口を見つけ出し

引き出すと、榊に 一本ずつ渡して行く。


全部の繭から伸びた糸が、放射状に集まると

「キッ!」って、オレを呼んだ。


オレも真ん中まで行って、またアンバーを読む。


... 狐火だ。

でも、普段 見るのとは 少し印象が違うやつ。


「いつものじゃない狐火 ってある?」と

榊に聞くと、すぐに思い当たったようで

「熱のないものよ」と、薄く くちびるを開いて

狐火を出した。

手に触れられるもので、アンバーと遊んだことがあるらしい。


「これを、糸の中心に置くみたいだぜ」


榊の手にある、全部の糸の中心に狐火を置くと

赤オレンジの狐火は、放射上の糸を溶かしながら

線になって走っていく。


繭に到達すると、上から包むように広がり

一気に繭を溶かした。


「すげぇ!」

「ふむ! このようになるとは!」


「早く戻せ!」と言われて、筆で文字を出していく。

アルファだったり、オメガだったりとバラバラだ。


「泰河、待て。アルファだけ残せ」


シェムハザとボティスが、繭にされていた人たちの顔を確認していく。


「この人... 」と、ジェイドが眉をしかめた。

「最初に、カフェで勧誘されてた人だ。

まだ学生の女の子。ブーツの採寸をした日に」


「こっちの人は、オレが おばさんに声を掛けた日に、断って帰ってた人だ」と

朋樹が、別の女の子の顔を見て言った。


どっちの子も、泰河がもう印を消して 人に戻してる。

オメガ、終わりの文字。

蚕になる印だった ってことだ。


「セミナーに出ていた者はいない」と

確認を終えたシェムハザが言う。


「病院を、西と東に分けて搬送する。

さっき学校から運ばれた奴の移送先を聞け」


ボティスに言われた朋樹が、リンの学校に電話をして 病院名を聞くと、街の西側に位置する大きな病院だった。


「東側に、今 戻した オメガの文字が付いていた者たちを運べ。

姿を消して行き、待合室に寝かせろ」


強引だけど、嫌でも眼につくよな...

もし治療の手が回らなかったら、その近くの病院に 移送されるはずだ。


悪魔たちが、オメガの文字が付いていた人たちを

かかえて飛び立つ。

半分以上、20人くらいが搬送される。

3分の1は、蚕だったってことか...


残ったアルファの人たちからも、泰河が文字を消すと、西側の病院に また悪魔たちが搬送されて、

新たに 三つの繭が運ばれて来た。


アンバーと榊が繭を消し、文字を出す。

三人共 蚕だ。


全員が搬送されたけど、また繭が見つかる恐れはある。

榊たちや悪魔たちは、引き続き繭を探すらしい。


「どうする?」

「アンバーと、オレと泰河が残る?」


「奈落の観察に、軍の奴等を何人か残して

榊の結界を、白尾ハクビの山に移せばいいじゃないか」と、アコが案を出す。


「他に利用者がいるかもしれんだろう?

キャンプ場なんだぞ」


シェムハザが言うけど

「平日だし、でかい予約は入ってなかった」って

もう見て来た風に言いやがるし。


「俺、バンガローでキャンプしたいんだ。

幾つかバンガロー借りたら、パイモンとか べリアルも話に喚べるじゃないか。広域に人避けもすればいい。

ボティス、いいだろ?

白尾に、山 借りるって言って来る」と

返事も聞かずに、アコは消えた。




********




「また 何かあったら喚ぶ」と ゾイを 沙耶さんの店に戻して、オレらは 結局キャンプ場に移動した。

バラで動く時もあるかもだし、バスとバイク、泰河の車も 麓のジェイドの教会駐車場から移動。


榊が 桃太と 一緒に、バンガローと広場の隅の方に

結界張りをしている。


「病院で、今日の男の子のご両親に話が聞けそうだから、オレとジェイドで行って来るぜ」と

朋樹とジェイドが出た。


ボティスが ハティ喚んで話してるけど、アンバーに ご褒美のカップケーキ食わしてるシェムハザに

「ワインだけ取り寄せてくれよ」って

アコが頼んでる。


「バーベキューとカレーの材料は、店に買いに行くから」


「カレー?」って 聞いたら

「よくカレーライスを食ってるじゃないか」って言うけど、それ、自然学習とかじゃねーの?


「材料も取り寄せるが... 」

「違うんだ。買うところからやりたいんだ」


アコ、楽しそうだよなー。


「こんにちは」って、白尾も来た。


「おう白尾」「悪いな、山 借りて」って

挨拶すると「いいえ!ようこそ」って 嬉しそうだ。


「それで、買い物にと... 」と、もじもじして言う。行きたいっぽい。

シェムハザに、腕と脚が隠れる服 もらったもんな。白髪は目立つけどさぁ。


「バス出してくれよ」って アコが言うけど

オレら、繭出たら いねーと困るだろ。


「バスじゃなくても行けるだろ?」って 聞いたら

「じゃあ、白尾は走らせるのか?」って 聞き返してきた。


「バスの鍵を。俺が連れて行こう」


シェムハザが ため息混じりに言ったけど

いやいや...


「運転なんか出来ねぇだろ?」って

泰河が言うと、フランスで免許は持っているらしかった。


「なんで黙ってたんだよ?!」


「こちらでは必要がないだろう?

アリエルや子供たちと車で出掛けるために取っただけだ」


そりゃ、シェムハザに免許があろーがなかろーが

運転もワイン係のオレらの仕事だけどさぁ。


「運転だけなら、俺やボティスも出来るぞ」


「なんでだよ、アコ」


「操作も動作も 単純じゃないか。

人間に出来るんだぞ?

実際に泰河の車で、何度か練習もしたし」


「おまえ、何つった今」


「だって、教会に置きっぱなしじゃないか。

朋樹の車は、霊符で仕掛けしてあるから乗れないんだ」


結構いろいろ やらかしてやがる。

そういや、悪魔ってこと忘れてたぜ。


「バイクは乗ってねーだろうな?」


「乗ろうとしたら、琉地に怒られた」


えっ? えらいじゃん、あいつ。

けど乗ろうとしたのかよ...


「でも、おまえさぁ。

一応 今、クライシのことで... 」


「わかってるよ。働いてるだろ?

ボティス、買い物に行って来る!」


「鯵も買って来い」


いいのか...


「多少 遊ばせんとな」って言う ボティスに

ハティも頷く。


泰河が バスの鍵をシェムハザに渡すと、アコは

「浅黄、おまえも行こう」って 浅黄も連れて行った。

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