シェムハザが またツマミとかも取り寄せてくれて

パイモンは機嫌良く飲んでるけど

「四元素を考えると、風と地は そいつでまかなえるが

水がないな。ボティスか そこの祓魔が何らか

身に付けるとバランスがいいが... 」と

また警戒する眼をジェイドに向けてる。


「その祓魔は、俺の息子のようなものだ。

ミカエルの加護もあるが、皇帝の血の跡もあるだろう?」


シェムハザが言うと、パイモンはジェイドを じっと見て、鼻を少し動かした。


「本当だ。匂う」と、また機嫌を良くしてる。

サバサバしてるし単純っぽい。


「水なら、ガブリエルからも加護を得るといい。

天の火はミカエルだが... トモキとサカキか?

お前たちは 天から見ると、異教の悪魔だからな。

まあ、ミカエルは 火というより光に近い... 」


うん、わかんねー。

話はさくさく進むタイプだけど、下地ないと 言ってること わかんねーよなぁ。


天使も四大元素とかを司るヤツがいるらしくて

そういう話みたいだ。

風はラファエル、地はウリエルっていうけど

ウリエルって何だよ! いらねーよ!... って思うしさぁ。オレのって アメリカの先住系の精霊だしー。


だいたい、ウリエルって炎の天使って聞くのに

その辺りは無視なのかよ って気もするしよー。

オレも泰河も ハティの印 付いてるし

無信心だし、関係ねーけど。


パイモンとハティは、練金とか変成とかの話を

し始めた。すげぇイキイキしてやがる。


「... むっ?」


榊の膝の上で、アンバーが もぞもぞし出した。

マスクを取ろうとしてるみたいだ。


「ふむ、そうじゃ!

これでは何も食せぬ。すまぬ」と、榊がマスクを外すと、アンバーはテーブルに よれよれ飛んで

めずらしくセロリのマリネを掴んで食った。


「アンバー、フリットもあるぞ。ムール貝だ」


シェムハザも 不思議そうに言って

ジェイドも椅子を立つ。


セロリを食べると、次はエシャロットの生ハム巻きを食べ出した。野菜ばっか食ってる。

いや、ハムも食ったけどさぁ。


「おかしいよな」

「“食わなきゃ” って感じよな」


サラダのパプリカまで食ってやがる。


「聞いたことはあるが... 」って言う ハティに

パイモンが頷き「安心出来る寝床はあるか?」って、ジェイドに聞く。


「何なんだ?」


不安気にジェイドが聞き返して、泰河が かまくらっぽい猫ベッドを取りに行った。


「見ていれば わかる」


アンバーは、野菜ばっか食うと

レスリングコスチュームを脱ごうとし出した。

アンバーに近いボティスが脱がせてやると

テーブルの端まで、丸い腹を引き摺るように歩いて よれよれ飛んで、抱き止めたジェイドの膝に 横向きに丸まった。


「あっ!」

「何?!」


口から、糸 吐き出した。身体を取り巻いていく。

まゆだ!


「アンバー! どうしたんだ?!

どういうことだ?!」


うん、焦るよな...

オレもソファー立ちそうになったし。


「何らかの成長をする と聞く」

「変化する種だったんだな。特殊な者だ」


ハティとパイモンが言うと、ボティスが

「変化? 見てくれも変わっちまうのか?」と

残念そうに聞いた。かわいかったもんな...


「わからん。インプは城にいない」

「ドイツの悪魔なら知ってるかもな。

メフィストでも喚ぶか?」って 答えたけど

なんか怖いから止めてもらう。

ゲーテのファウストでは、ファウスト博士の最後は悲惨だったし。


「アコ」


ボティスが喚ぶと、アコが顕れて

「ダークラムじゃないか。グアテマラ産」って

オレのグラス取って飲んでるし。

「言えば グラス出すぜ」って 言ったら

「たくさんは いらない」って 肩 竦めた。


「黄緑眼の悪魔は どうした?」


「耳が消えて、魔女契約が結べなくなった。

“また修行しなおしだ” って 泣いてる。

可哀想だったから、カジノで働かせてる」


ああ、アンバーのぬしだった悪魔か。

泰河が印章 消したんだよな。


「インプのことを聞いて来い」

「わかった」


アンバーは、どんどん糸に巻かれていって

もう姿が見えなくなってきた。


「どのくらいで繭を出るんだ?」


シェムハザが繭に指で触れる。

榊が心配そうに立って、ジェイドの隣に行った。


「どうだろう?」

「聞いたことがない」


アコが戻って来たけど

「繭になったって言ったら、驚いてたぞ」って

ことらしい。ぬしも知らなかったのかよ...


「待つしかねぇんじゃねぇか?」


すっかり繭に包まれたアンバーに

ジェイドが耳を当てるけど、中で眠ってるみたいだ。


「寝床に入れてやるといい。出て来たら また呼んでくれ。美味いラムをありがとう」と

パイモンがソファーを立ち、寝かけてた駱駝まで

シェムハザが送る。


「ハーゲンティ、俺の城で

変成についての続きを話さないか?」


頷いた ハティは、駱駝に乗ったパイモンと 一緒に消えた。




********




ボティスが「ジャズバーを覗きに行く」って言うし、バスのL字シートの角に かまくら猫ベッドを設置して、ジャズバー近くの駐車場に着くと

ジェイドが繭ごと抱いて連れて行く。


「篭のようなものがあった方が良いかも知れぬのう。上に小さき毛布などを掛けるなどして... 」


紙袋 持った 榊も、ずっと心配そうだ。


「有事などの際は、里でみる故。

アンバーは里にて人気があるからのう」

「うん、ありがとう。助かるよ」


ジェイドと榊の間には、なんか友情が芽生えたよなって思う。海の時から続いてる “話の時間” によるものっぽい。

ボティスは、榊が天に対する耐性が付いてきて

かなり安心してるみたいだ。

いきなりミカエル喚ぶこともあるしなー。


「シュリちゃん、初ステージ どうだったかな?」


朋樹が オレに言う。泰河には振らねーらしい。

気ぃ使ってんだな。

シュリちゃんはコントラバスの奏者だ。

ボティスが 行き着けのジャズバーに紹介した。

シュリちゃん自体には 素っ気ないのに

“今日は初ステージです” って、店からメッセージが入ってたらしく、気にはなるようだ。


「緊張したとは思うぜ。けどまぁ、この間 あれだけ堂々とやってたし、大丈夫だろー。

今日 最後のステージには間に合うんじゃね?

なぁ、泰河」


オレは気にせず振るけどー。

シュリちゃん、泰河が好きなんだよなー。

リラの友達だった。

シュリちゃんも、リラのことを思い出してるから

オレは そっちの方が気になってる。

泰河、シュリちゃんの話聞いたりしてくんねぇかな... って思ったりするんだよな。


「ん? おう」


当の泰河は、気にはしてるかもだけど

見てる分には よくわかんねーし。

けど こーいう時って、どうせ泰河自身も自分で わかってねーんだよなぁ。


ジャズバー前には、花束 持ったシェムハザが待ってた。

一度 城に戻って、マダム・シェリーに用意してもらったみたいだ。男前って違うし。


「泰河、お前から渡せ。俺は初対面だ」

... だしさぁ。オレらのダメさが際立きわだつぜー。


店ん中入ると、角の団体席が予約席になってて

「ご来店いただけたんですね」って

そこに通された。


来るかどうかわからんボティスに、席 取っておくって すげぇよな... って 思ってたら

シュリちゃんが恙無つつがなくショーパブから こっちに

移動 出来るように、シェムハザと 一緒に話とかしに行ったらしい。カジノが目溢しされることとかも話してみたりして。


しかも、シュリちゃんは知らん話らしく

シェムハザから「彼女には話すなよ」って 口止めされてる。

もう、なんか やり切れねぇしオレら。完敗も完敗。

財力とか能力だけの話じゃねーよなぁ。

気ぃ利く。見習うぜー。


ステージに コントラバス持ったシュリちゃんが出てきた。ドレス着てるし!すっきりしたやつ。

ショーパブとか普段と全然 違って見える。

けど、すぐにオレらに気付いて 笑顔になった。


今夜は、トランペットやトロンボーン、サクソフォンの奏者はいなくて

ドラムとコントラバス、ピアノだけみたいだ。


聞いたことはある気がするけど、何だっけ?ってやつが演奏される。


「オスカー ピーターソン トリオだ」と

ボティスが言うけど、ピンとこない。

ジャズでは有名らしい。昔のバンド。


酒とバラの日々、Night Train、My One and Only Love... ってやつは聞いたことある。

題名 聞いても、題名じゃわかんねーけどさぁ。

ドラムも、シュリちゃんも上手いんだろうけど

ピアノがすげーって感じ。

シュリちゃんは、すげーピアノの人と 一緒にやれて楽しそうだった。


演奏が終わると、コントラバスを運んで行って

シュリちゃんはドレスのまま テーブルに来た。


「来てくれて嬉しいんだけどぉ」って

榊の隣に座って、シェムハザ見てビビってる。

「生きてる人?」って独特の褒め言葉だったし。


「そう、一応 生きている。ボティスの友だ」って

握手して、泰河が「これ、シェムハザから」って

台無し気味に花束を渡した。もうさぁ...

シェムハザが “何?”って顔で、泰河を睨む。

シュリちゃんは

「花束なんて初めてもらうしぃ!ありがとう」って、ニコニコしてるけどー。


「ボティスと選んだのであるが... 」って、榊も紙袋を渡してる。ドレスらしい。

オレらは完璧にカッコ悪いんだぜ。


「ありがとう! 明日 着るね!」って シュリちゃんは、ボティスに礼 言って、榊の頬を両手で包んだ。

シュリちゃん、たまにお姉さんぽく見えるんだよなー。不思議だぜー。


「それ、なぁにー?」って、アンバー 指 差して

ジェイドが「アンバーだよ。インプなんだ」って言ってるけど、わからんよなぁ。

「紙とペンとかあるー?」って借りて、オレがアンバーの絵を描くと

「こういうキャラ、映画でいるよね? 緑の」って

また繭を見てる。


「いるんだ、本当に。アンバーは黒いし、シワくちゃじゃない。もっと小さいし... 」って ジェイドが力説して

「儂も狐なのじゃ。ここでは化け解けぬが」って

榊も言うけど、普通 信じねーよ。


オレらが アンバーの話してる間に、ボティスはシェムハザに、クライシって名前 出してた おばさんの話をしてた。カフェで オレらが目撃したやつ。


「... 黒蟲は、奈落に落としたんだろう?」


「ああ、アバドンに くれてやった。

喰ってなかった恐れもあるが、単に名が同じだけということも考えられる」


難しい顔して話してるけど、気になるよな。


「朋樹が式鬼で追えるが... 」


オレも話に加わろうかとしてたら、客が入って来た。

隣の席に座ったけど、一人は高そうなスーツ着てて、一人は普通にニットとジーパン。

30代くらいの 男 二人だ。

ワインをグラスで頼んでる。


「... 良かった。話が通じる人で。

あなたは救われる」って、スーツのやつが言って

つい そっちを見た。


そいつは

「クライシ様には、三日後のセミナーで」って

話を続けた。










  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る