ジェイドが炒めた野菜に沙耶ちゃんのソースえて、香草焼きのチキンとサラダ、パン食って

朋樹とジェイドが、ゾイ連れて買い物行ってる間

オレらは 何するでもなく、だらだらする。


「サリエル、ちょっかい出して来ねぇよなー。

あいつ、復讐好きなのにさぁ」


ルカが思い出したように言うと

「そのうちまた来るだろ。ウリエルと同体になってようが、ミカエル呼びゃ 終いだ」と

ボティスが あくび混じりに言った。


悪魔にも相変わらず注意は必要だが

最近は、天使の方が より注意が必要っていう

妙なことになっている。


天使は、そうそう人間に手は出さない。

聖父が命じる 守護すべき対象だからだ。


だが、サリエルはオレらに私怨があるし

オレの獣の血のことを知って、狙い出した。


サンダルフォンは、守護天使の軍を

自分の下で動かすために

ボティスを殺害して、天に 天使として

転生させようとしているみたいだ。


ボティスの二度目の堕天は、聖父によるものだ。

なので、サンダルフォンであっても

もう正当な理由もなく、ボティスを天に上げるということは、出来なくなったからだ。


ボティスは天にいる間に、サンダルフォンの命で

地上の守護天使たちを再統率した。

地上の天使の軍とするためだ。

元々、地上にいる天使たちを動かすなら

天の天使の軍を 地上に降ろす許可を得る必要がない。つまり、サンダルフォンの私軍だ。

首領のバラキエル... ボティスを通して、好きに使える。


ボティスが堕天したことにより

天使バラキエルの 天使 足らしめる能力... 守護天使をまとめる首領としての能力や、雷を操ること、博打の加護など は、天に剥奪されて 再び保管されたが、ボティスは、なんとミカエルという天使を自分側に着けた。

このことを、サンダルフォンは

まだ知らない。


ミカエルは、最高位 熾天使クラスの大天使。

天の天使軍の最司令だ。


ミカエルが、地上の守護天使たちに

『例え天のめいが出た場合であっても

首領バラキエル... ボティスの命の方を聞け』と、

命を出している。


結果、ボティスは

天でサンダルフォンに使われながら

ミカエルと守護天使の軍を

そっくりそのまま自分に着けて戻って来た って

ことになる。


サンダルフォンにしたら、ボティスの堕天は

本当に痛いだろう。

ボティスがいなければ、再統率させた地上の私軍に命が出せない。地上掌握は難しくなる。

ボティスは、サンダルフォンの計画通りにいかない駒だ。番狂わせする トリックスター。


こいつ、すげぇよな って思うけど

ピアス弾きながら「珈琲」って言われると

そうでもない気がしてくるのが不思議だぜ。


朋樹が洗い物した後、食後すぐは ルカがコーヒー淹れたから、やっぱりオレがソファーを立つ。


「けど、あいつさぁ

ファシエルに成り代わって堕天したじゃん。

月夜見キミサマの闇靄に染まってたし

またウリエルと同体に戻れんのかな?」


「さぁな。天では見掛けなかったが

死んじゃないだろ。まだ探させてもいるが

どうせ向こうから出てくる。しつこいからな」


サリエルとサンダルフォンは

キュべレを起こそうとしている、という点では

同じ方を向いている。


ただ、繋がっているかは定かじゃない。


サリエルは、元々 ウリエルという天使と

同体だった。

このウリエルの方が、サンダルフォンに使われている恐れが高いが、それも はっきりはしていない。ウリエルごとサンダルフォンの駒にされていることも考えられる。


セットしたサイフォンのアルコールランプに火を点けながら、ルカが自分から こういう話をするのは、めずらしい と思う。

いつもは仕事の最中に、ボティスやハティ

シェムハザ、ジェイドや朋樹が話すことを

オレとルカは、ほけっと話を聞いてる感じだ。


「あっ! あとさぁ、皇帝って

キュべレの話は まだ知らなくても

泰河の獣の血のことは知ってたよな!」


「なあ、泰河ぁ!」と、相変わらず でかい声で

ルカが言う。


「おう」って答えながら、カップを三つ用意するが、それは オレも気になるところだった。


皇帝は、オレに『獣は お前か』って言ったんだよな。ハティが紹介した後だったけどさ。


「天のゲートを開くことは、地上からであれば

皇帝を頼ることになる。

実際に泰河と皇帝が会う前に、ハティが話しておいたんだろ。

皇帝は 泰河を見りゃ、何か混ざってることは分かる。

“ 獣の血を手に入れた ” って報告すりゃいい。

泰河は、俺等といるからな。

皇帝の手に落ちた、ということになる。

皇帝からすると、“よくやった” となる訳だ」


そうか...  ボティスもだけど

ハティもシェムハザも 俺の部下もの って人だし

まあ、そうなるよな...


こぽこぽと音と香りを立てるサイフォンから

アルコールランプを引いて 火を消す。


「ふうん。じゃあさぁ、オレら

天とか地界からとかの 外側から見たら

“サンダルフォン側” じゃなくて

“皇帝側” ってこと?」


おお?! オレら、祓い屋なのに?

いやオレらは まだしも

ジェイドなんか、祓魔師エクソシストなのに!


「ハティとジェイドが、サンダルフォンに利用されて動かされなきゃ そうなるだろ。

だが、ミカエルや 守護天使の軍を考慮すりゃあ

“地上側” だ。

天でも地界でもない第三勢力という訳だ」


「おまえ側ってことじゃん」と ルカが言う。

そうだ。これ、ボティス側ってことだよな。


「まあ、そうなるな。

ただ キュべレについては、皇帝は知らん話だ。

俺等は今のところ、サンダルフォン側に

利用されんようにする者等、ということだ。

特に反抗する訳ではない。

キュべレを起こすことに関しては、俺等には何も出来ん」


いや、自ら堕天したことは

反抗とは見なされんのか? ちょっと疑問だぜ...

“皇帝がボティスを取り戻した” ってことに

なってるのかもしれんけどさ。


コーヒーをカップに注いで

リビングに戻りながら

「天で それを阻止するために

ミカエルが動いたらどうなるんだよ?」と

聞いてみる。


ボティスは、指輪の指でカップを受け取りながら

「天での事はミカエルに任せるが

地上に塁が及ぶか、キュべレが目覚めれば

俺等は “ミカエル側” 」と 答えた。

そうなるよな...


「地上に累が及ぶ、とか

キュべレが目覚める とかになったらさぁ

皇帝も黙って見てねーんじゃね?

そうなったら、どうすんだよ?」と、ルカが

カップからの湯気に 息 吹いて言うと


「皇帝とミカエルが対立せんように

間に俺がいる。両者が手を組むことはないが

図式的には、サンダルフォンに対立する勢力は

皇帝側とミカエル側の二つとなる」ってよ。

いや、普通にコーヒー飲んでるけどさ...


「おまえ、すごくね?」


ルカも言うけど、オレもマジで感心する。

ボティスは “今さらかよ” って顔してるけどさ、

軍の司令官クラスのヤツって、考えることが違う。実際に それをやるし。


「だが キュべレは、堕天使側の悪魔とは

また違うものだからな。

実際に目覚めると、キュべレの血縁の悪魔等は

どう動くかは わからん。

幾らかは リリトに着くと考えられるが

サンダルフォン側に着く者も出てくる と考えられる。地上掌握を狙えるチャンスだからだ。

そのため ハティとマルコが、地界の堕天使系の

軍の司令等との結束を固めている」


すげぇ...


でもこれは、ボティスが ここにいるから っていう話だ。

ボティスが またサンダルフォンに取られれば

地上の守護天使の軍もサンダルフォン側に回るし

ミカエル側と皇帝側も対立しかねない。


ボティスが、更に悪魔まで堕ちると

ミカエルとは手を組めない。

ボティスが人間でいることが鍵になる。


「そして今のところ、俺等の有利な点は

お前だ、泰河」


へ? って、コーヒー飲みながら

ボティスのゴールドの眼ぇ見たら

「獣の血じゃん」って、ルカが言う。


「サンダルフォンが狙ってる 鍵となるものだ。

そもそも、お前を手に落とすための計略を

散々 重ねてきている。

もう手に落としたつもりだっただろうが

俺の堕天で、それは違うと気付いただろう。

お前が こちらにある限り、ある程度の抑止にもなり、派手に地上に手を出すこともないだろうからな」


あっ そうか...  なんか忘れてたぜ...

どう鍵となるかとかも

さっぱり分かんねぇんだよな。


ただ、オレは サンダルフォンにも

守護される立場なんだろうと思う。


この獣の血は、オレが死ねば失われるんじゃないかって思うからだ。

そうじゃなければ、こんな面倒なことしてないで

とっくに天に取られてるだろうしさ。


魂に付随してる訳じゃないから

死んで転生すると、これは無くなる。

肉体の血肉に 獣が混ざってるから

霊体だけではダメだ ってことだ。


「オレ、最近さぁ

なんか もやもやするんだけどー」


半分になったコーヒーのカップを

テーブルに置いて、ルカが言う。


「最近の預言者って、なんて名前だったっけ?

その前のも、顔も思い出せないしさぁ。

サンダルフォンのは、黒いリボンが

なんとなく残ってるんだけどー」


「リラだ」と、ボティスが言う。

「ショートボブ。ショーパブの女だ」


それだけ言っても、ルカはピンときていない。

この方がいいのかもしれんけど、勝手に胸が痛む。


リラと、その前の男の預言者については

ジェイドもルカも、忘れる速度が早い気がする。

この 二人の預言者を送って来たヤツは

早く記憶から無くさせたいみたいだ。

自分の存在を隠すため だろうか?


「俺が覚えている。何度でも聞け」


ボティスが言うけど、ルカは

「うーん... 」と、ぼんやりしている。

これもあって、自分から こういう話するんだろうけど、いつか 聞かなくもなるのかもな と考えると、また胸が痛んだ。


オレのスマホが鳴る。沙耶ちゃんだ。

出ると、仕事の依頼で

朋樹たちにも別の仕事が入って、向かってもらってるってことだ。

憑依系のよくある感じのヤツっぽいし

オレとルカで何とかなるだろ。


「うん、じゃあ オレらで行って来るからさ

依頼の人の連絡先と情報入れといて」


沙耶ちゃんも休みなのに大変だよな。

通話を終えると「仕事入った」って言って

コーヒーを飲み干す。


ソファー立ち上がりながら、ボティスが

テーブルに置きっぱなしのバスの鍵をオレに投げるし、オレらは バスで行くことにした。





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