23


「ルシファーという者が

儂に、くちづけなどを いたした」


「そうか。俺がまだ留守だったからな。

妬けるが、もうそんなことは 二度とない。

帰って来たからだ。安心していい」


榊、黙っとけねーんだよな...

ボティスの方は予測がついてたみたいだけど。



皇帝は、朋樹から式鬼の話を聞いて

『お前は興味深い』って

式鬼じゃなく、朋樹の感想 言ったから

『いや、式鬼の話はどうだったんだ?』と

朋樹をムッとさせた。


ハティに『地界へ戻る』って言われると

皇帝は、ジェイドを『来い』って呼んで

ジェイドに『おまえが来たらどうだ?』とか言われて、傷ついた顔になったりして。


『僕を愛しているのは おまえなんだろ?

僕は 罪は愛しても、悪魔の おまえは愛さない。

だが望むなら、また教会ここ

おまえの父の光で焼いてやるよ』


神父として 当たり前のことを言ってるんだって

わかるけど、辛辣に聞こえた。警戒してるようにも。

けど 泰河も、思わず『やめろよ』って言ったりして。


こんな風に思ってしまうのは、まだ皇帝に侵されているからだ。オレも泰河も。

わかっていても 抗うのは難しい。

信仰がないから。


碧眼の あの眼を ジェイドに向ける皇帝に

『リリトが “髪を洗って欲しい” と言っていた』と

ハティが言う。


「リリーは 何故いつも、俺に甘える?』と

まだジェイドを見つめたまま、皇帝が聞くと

『リリトは女性だからだ』と

シェムハザが答えた。


『女性にしか触れられない場所に触れる。

そういったものなんだ』


皇帝の背に ハティが手を添えて

一緒に消えると、シェムハザが ジェイドに

『口説くな』って言うし

オレも泰河も、なんか ため息出た。

もう、わかんねー。とにかく皇帝は要注意だし。



ジェイドん家のリビングのソファーに

榊を寝せて、向かいのソファーでは

シェムハザとボティスが話してたんだけど

オレらは 疲れたし、客間で仮眠した。


で、起きて、リビングに降りたら

榊も起きてて、新しいグレーのワンピース着てて

シェムハザが お取り寄せした飯 食ってた。

赤いくちびるがワンピースに似合う。


「お前達も食べろ」って言われて

床に座って つまんでたら

榊が 皇帝にキスされた って、告白したとこ。

シェムハザが笑ってるけど

オレらは「飯、相変わらず うまいな」とか

言っとくことにする。


「だが榊。話しておかなければならないことがある。皇帝は俺にも時々キスをする」


“のっ” て顔して、榊が

スモークサーモンのフォークを止める。


「お前が それを気にするなら、俺は皇帝と話し合いを持つ」


「む... 構わぬ」と、榊が

スモークサーモンを口に入れた。いいのかよ?


それを飲み込んで、水も飲むと

「驚きはしたが、それは儂が

泰河等と手を繋いだり、沙耶夏に頭を撫でられるようなことに近いものなのであろう?

儂は、あの者の碧き眼を見た。

大変に切なくあった」って答えて

「そうか」と、ボティスが頷いた。


「くちづけの許しは

碧き眼に流された故のことではなかろう。

お前は いつも、相手の欲しいものではなく

相手にとって必要なものを与える。

情などには そう流されぬ。根が優しくある故。

相手に何が必要かを見極める。

お前が、儂を理由に “もうならぬ” と言えば

あの者の、己の基礎を揺るがすことになろうよ」


オレらも無言になるけど、シェムハザまでが

榊を見つめる。


「儂は、ジェイドの話を聞き

幾らかだけではあるが、お前達の父の事も知った。あの者が 愛して止まぬ者であったと。

“まだ足りぬ、何故もっと愛さぬ” と

求める心持ちも、今は幾らか理解わかる故。

共に天を堕ちた お前に、許され続け

受け入れ続けて欲しくあるのであろう。

“良いのだ” と。

あの者は 本来、愛情深き者であろうからのう」


「ふむ」って、でかいソーセージを切らずに

そのままフォーク刺す榊に

シェムハザが

「そう。堕天は、反逆によるものだ。

愛を求めたからではない」と言うと


「ふむ。肯定の くちづけである故。構わぬ。

存分に 父を求め続ければ良い」と

女の顔をした。

なんかオレ、ため息ばっか出るぜ。




********




ボティスが『浅黄と飲む』とか言って

一度 榊と里に行って、シェムハザも城に戻った。


『なんだよ、おまえ!』

『オレら さみしいだろ?』って

文句 言ったら『夜 戻る』って言って。


オレらは、沙耶さんとこで 飯 食って 報告して

またジェイドん家 戻ったら、アコが来た。


「ボティスは?」って聞くから

「里」って答えてたら

ボティスと榊が戻って来た。

うん。良し、なかなかだ。

ただ こいつら、歩いて来たのかな?

連絡すれば 迎えに行くのにさぁ。


「ボティス、ショーパブとカジノへ行こう」


「アコ、何 考えてんだよ おまえ」

「榊いるじゃん」


とか答えながら、そういや昨日の夜から

リラに連絡してねーな って思う。

でもオレ、今日はボティスと 居てーしなぁ。

後で電話するか って考えてたら

ボティスが「行くか」って言うし。


「お前の女を見る」って、オレを見る。


「榊は?」って 朋樹が聞いたら

「別に、女も入店 出来るだろ。

行かないだけだ」とか言うしさぁ。


「じゃあ行くか」ってなって

アコがボティスのスーツ取りに行く間に

シェムハザを呼ぶ。

黙って行ったら、後で 怒られそうだしな。


「ディル。スーツとドレス」


やっぱりオレらも着替えからか。

もうショーパブにもカジノにも用事ないのに

シェムハザは “ヴィタリーニ家” と、気を抜かない。


榊も、つるんとした黒いドレスを渡されてる。


「今 着ている服も似合っていた。

きっと それも似合う」って、ボティスが言う。

榊は嬉しそうだ。

ボティスって出来るヤツだよなー。


あいつ 今日、黒下着とかじゃねーだろなー?とか考えながら、ネクタイ巻く。

着替えた後は いつも、ソファーが ジーパンとかで

がちゃがちゃしてるし。


「髪をアップしよう」と

シェムハザが指を鳴らすと、榊の髪が

トップで丸く纏められた。いきなり いい女だ。

ボティスも「おっ」とか言う。



バスに そんな乗れねーし

シェムハザとアコには、店に直接 来てもらった。


「俺が出す。キリ良く 1000」って

オレらを震えさせるシェムハザに

「全員で500だ。大叔父を誤魔化し切れない」って

ジェイドが言い切る。


榊は案の定、切れ長の眼を丸くした。


「これは... 大変に刺激的であるのう... 」


「榊。お前は、花を見るのが好きだろ?

それと同じだ。花の女」


ムリあるぜ、ボティス。


「海と同じようなもんだ」って 泰河も言うけど

やっぱりムリある。


全体的に シェムハザに ふわーってなって

アコが喋りまくって

ボティスが、運ばれたテキーラ飲みながら

「女 連れて来い」って言うし

今日も壁際にいたリラんとこに 泰河と行く。

こないだ買ってやった黄色の水着みたいなの付けてるし、うん、よし。って思いながら。


「よう。昨日 いい子にしてたんか?」


泰河は シュリちゃんと 他二人に捕まった。

リラは、会うのが 一日空くだけでも

すぐ照れやがって「うん」って赤い顔で俯く。


「おまえ、また それかよー。

あいつ、帰って来たからさぁ。

おまえを見たい って。榊も来たぜ」


「えっ?」


榊に驚いたらしく、顔上げた。

まあるい眼しやがってよー。かわいいヤツ。


「女の人、はじめて来たかも」


ん。まあ、そうだろーな。


ショータイムが始まって、テーブル振り向いてみたら、ボティスは座って飲んでんのに

榊は そろそろとステージに引き寄せられて行く。

何してんだよ...


「とにかく紹介するし、テーブル行こうぜ」って

リラの手掴んで連れて行く。


「オレも。だいたい、リラちゃん迎えに来たんだぜ」って 泰河が言うと

「冷たくない?」「あたし達も行くしー」って

ぞろぞろ付いて来た。


「ボティス、こいつー」って、リラ見せる。


「よう、リラ。やっと見れた」


あっ。リラ、ちょっと照れてやがる。


「榊は?」って、泰河が聞くと

「好奇心を満たしている」って

ボティスが、顎でステージの方を示す。


榊は、ステージに両手の指掛けて

バーを回る女の子を食い入るように見ていた。

すげぇな、おい。

隣でアコが何か説明してるみたいだ。

朋樹とジェイドは、榊の見学してやがる。


ボティスが「泣かされてないな?」とか

確認する。


「オレ、泣かしてねーし!」


「俺は リラに聞いている」って

またショットグラス空けて、ライム噛む。

こいつ、こういう店 すげぇ似合う。

もう なんか腹立つぜ。


「うん... 大丈夫 です」って

リラは、ボティス見れてねーし

「おまえ、こいつのこと カッコイイとか

思ったんじゃね?」って、鼻 摘まんでたら

アコと榊が戻ってきた。


「むうう... 」って、上気した顔でテキーラ飲んで

ちょっと噎せる。

「刺激的にある。だが 何やら楽しくある... 」

おう?! 気に入ったのかよ。


「むっ! リラ!」


榊が呼ぶと、リラは顔を上げたけど

榊が リラの身体 じっと見るから、困ってやがる。


「ふむ、美しくある。花よ」


オレより照れさすよなぁ。


「このように、ボティスが戻って参った故

もう心配せぬで良い」って笑うと

リラも小さく頷いて笑った。かわいいんだぜ。


そろそろカジノ行くか、ってなって

リラと、後はシュリちゃんとか そこら辺の子

何人か下に降ろしてもらう。


アコが 順に行く今日の子に「後で」って

片手あげて、シェムハザは相変わらず

ほやーっと見惚れられながら手を振る。


カジノでは、ポーカーやブラックジャックで

榊が泰河の後ろに立ち、異常に勝ち続けた。

カードの裏が見えるらしい。

すごいすごいって、女の子 騒いでるし。


朋樹とジェイドは 相変わらずバカラだ。

負けても 女の子 騒いでるし。

アコがルーレットに行って、バニーにモテてる。

シェムハザとボティスは、休憩テーブルでシャンパン飲んで、何か話してるけど

隅にいるのに、すげぇ目立つ。


で、オレは別に何もせず

バーカウンターの近くで、リラといる。


リラは、もう来ないと思ってたのに

オレらが来たこととか

ボティスに紹介されたことと、榊に会えたのが

嬉しかったらしい。

多少たどたどしく、その事を話してる。


最初は、このトロい話し方もイライラしてたけど

今は かわいーんだよなぁ。

オレが うるせーから、ちょうどいいし。


猫耳からシャンパン 二つ受け取って

リラに持たせて、クリップから 一枚 抜いて渡す。

このチップも異常だし。

そもそも、日本はチップいらねーし。


「もう、0時になるね」って、リラが言う。


「おっ。早いよなぁ。

オレ今日、早朝から忙しかったからよー」


うん。とか 隣から見上げやがって。

やっぱ今日、連れて帰るかな。


「あ... 」って、リラは

オレ見上げたまま、急に遠く見た。


「今日、おたんじょうび... 」


「はあ?!」


忘れてたってことか? 嘘だろ?!


「おまえさぁ、ぼんやりするにも程があるだろ?

普通、忘れねーし!

デートすんぞ。今日は 店 休め!」


でかい声 出て「ルカ、うるせぇよ!」って

泰河が機嫌 良い声で言う。勝ってんな。

ジェイドと眼が合った。


「そう。なんで、忘れてたのかな

急に 戻ってきたの... 」


「は? 戻って来た?」


またリラに眼を戻すと、今度は オレを見てた。


「あのね、ルカくん」


なんだ? なんか変だ


「私ね、あなたが大好きで

映画みたいなキスも、本当に... 」


なんで、泣くんだよ?


「“看破かんぱせよ”」


「え... ? なに... 」


「私、四年前に死んだの」


待て  やめろ


「薬 いっぱい飲んで。海に入って。

なんで そんなことしちゃったんだろう。

生きてたら、こうして... 」


「リラ... 」


嘘だ


青白くなった顔や身体。生きてる色じゃ...

白い燐光に包まれて、元の色に戻る。


「... でも」


うれしかった と、くちびるが動く。


身体の奥から光を発すると

リラは 灰になって崩れ落ちた。







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