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缶コーヒーとか買って、二人なんだよなー。

オレ、コンパクトボブと。

泰河は セミロングの子に連れられて

遊歩道 歩いて来るっぽい。オレらベンチ。


「ね、あのね...

連絡先とか、交換してほしいん だけど... 」


「ダメー。えいぎょーきんしー!」


「うん。お店では禁止されてるよ」


じゃ 本当にダメじゃね?


「ごめんね、きらい?」


「ええっ?いや... 何なんだよ、おまえはよー」


押しが強いのか弱いのか

わからんよなー。


「イヤそうだから」


うーん...

これ、マジメに オレを気に入っちまってんのか?


じゃ ちょっと、マジメに話しとくか。


「あのさぁ、オレらさ

ちょっと危ないこととかしてんだよ。

そういう仕事でさぁ。

だから、あーやって大金使って遊びもする訳。

まぁ あれも仕事なんだけどー。

オレ こないだ、死にかけたりしたしさぁ」


えっ? て 顔で見るけど、全然 頷く。

カーリに殺られかけたしよー。


「もっとさぁ

ふわーって その場限りで遊んだり

やったりとかは良くても

特別に誰かと付き合ったりとかはしねーの。

余裕ないからさぁ。今も ちょっと心配だしな。

朋樹... あの しゅっとしたヤツの女も

イタリアにいるんだよ。

危ねぇから、こっちでは会わねぇの」


泰河狙いで来るしな。

それがなくても、朋樹は なるべく自分が

イタリアまで行くだろうけどさぁ。遠いし。


「... あの、シェムハザって堕天使の人とか

天使のバラキエルが関係するの?」


あ そうか。見えてたんだよな...


「そ。悪魔とか、他にも いろいろな。

表向きは祓い屋で、社会的には無職なんだぜー。

おまえさぁ、昔から見えんの? あーいうの」


「うん...  どうかな... 」


ヤベ。気分、落ちちまってるし。


けどなぁ...  ま、仕方ねぇことだしよー。

オレ今、誰も好きになりたくねーんだよな。

シェムハザとかボティスじゃねぇから

護れねーし。自分ひとりすらって感じだしさぁ。


黙ってコーヒー飲む。

でも、こいつ仕事前だよな?

悪かったかな?

考えたら、別に好きとか言われてないんだしさぁ。オレ ちょっと恥ずかしくね?

軽くカンチガ...


「もしね、そういう お仕事じゃなかったら

私のこと、相手にした?」


「わかんねー」


... あっ! やっちまったかも。余計 落ちた。

オレ、ヘタなんだよな。こういうの。

すきだすきだって言うのはいいんだけどさぁ。


もう、正直に答えるべきだよな。

どうせフォローも出来ねーし。


「おまえ、かわいいと思うぜ。それはマジで。

カジノでも思ったしな。

けど、こういう仕事してない時に会ってないから

わかんねーし。

オレ その時じゃねぇと、わかんねーんだよな」


ちょっと見たら、コンパクトボブも こっち見る。

「あーあ。正直だよね... でも、嬉しいかも」とか言って。


「嘘言ったってバレないのに。

ちゃんと話してくれて」


「いや たぶん、オレ バレるし。

シェムハザとか見える子だから、仕事のことも

言っただけだしよー。

泰河が おまえの友達に、どう話すかわかんねーけど、あっちに合わせといて。

天使だの何だのって言えねーだろ?」


コーヒーも飲んだし、そろそろ店 行く時間じゃね?って思って、言ってみる。


そしたら「もう、会えないよね?」だしさぁ。


「バラキエルの件で、カジノには行くし。

そん時、おまえの店にも寄るよ。金あったらな」


うん... て、ボブな頭で頷く。


「ルカって、本当の名前?」


「そ。氷咲 琉加。おまえさぁ

店での名前、リンだったよな?

オレの妹も “リン” って付くから、呼びにくいんだよなー。店で コンパクトって呼ぶからな」


「やだ、やめて。

... やっぱり 胸って、大きい方がすき?」


「カタチ重視! 言わすな!」


よし。笑ったぜ。


「じゃ、行くか。公園の入り口に行けば

あいつらも来るだろ」


ベンチ立ったら、コンパクトはサンダル脱いで

ベンチの上に立った。オレを見下ろしやがる。


「おまえ、何やってんの? 行くぜ もう」


で、オレの両肩に手ぇ乗せて、キスしやがった。

おーい、マジか おまえよー...


「おい! ふざけんな!」って

ベンチから降ろして

軽くチョークスリーパー決めてやったら

きゃーきゃー言って

「だって、どうせフラれたんだもん!」だとよ。

くそう。ちょっとかわいいぜー。




********




「へえ、店の子になぁ」


「そ。チューされちゃってさぁ」


「オレ、連絡先 教えなかったら

“やだやだー” って、片手ぶんぶん振られたぜ。

“戻るぞ” って言ったら、また “やだ!” って言いやがったから、もう肩に担いでさ。

まぁ明るいよな、あの子たち」


「かわいいじゃないか。でも... 」


そ。適当なことは出来ねーし。

営業なら、すげぇうまい。


ジェイドが神父業 終わって、ジェイドの家。

ついでに ジェイドと朋樹は、店の子 何人もに

連絡先 渡されてた。バニーや猫耳にまで。

違うよなぁ、こいつら。

営業禁止って何なんだろなぁ。


「で、シェムハザとボティス見えた子

何か わかったのか?」って 朋樹が聞く。


「さぁ。見えることしか わかんねー」って

答えたら

「そうだよな。おまえといたボブの子だろ?

多少 勘があるって風にしか見えねぇんだけどな」

と、朋樹も首を傾げる。


「ゾイでも わかんねぇかな?」って

泰河が言うけど

シェムハザが わかんねーならなぁ...


「天使なら、それこそボティスに見てもらえば

いいんじゃないか?」


ジェイドが コーヒー飲みながら言う。

「あ、そうだよな」って、オレも飲んでたら

シェムハザが オーロラで出てきた。

見なくても匂いでわかるけど、絶対 眼ぇいく。


「だらけてるな、お前達」


多少 呆れてても、輝いてるぜ今日も。

見慣れても これって、すげぇよなー。


「よう、シェムハザー」って

オレが床に座るし、泰河はグラスとワイン持ってくる。慣れて来たぜー。で、注ぐのは ジェイド。

ジェイドがキッチンとかなら朋樹。


「そう だらけてもないぜー。

今日は、ボティスの買い物行ったしさぁ」

「うん、仕事してないだけだよなー」


「最低でも、上五枚、下二枚は買っておけ。

指輪やピアスもあると、尚良い」


もーう、金かかるよなー。


「指輪?! まだ仕事しねーと!」とか

泰河が焦る。

「ヒモを養う人の気持ちが 少しわかるね」って

ジェイドが言うし

「オレら、あいつの彼女だからな」って

朋樹も言う。

なんで こーなったかなぁ。やめらんねーしさぁ。


「だが ボティスは、お前達のことを愛している。

このくらいは許してやれ。喜ばせろ。

“お前を待っている” と示すことだ」


真顔だぜ シェムハザ。


「おまえは どうなんだよ、シェムハザー」


「妻を置いて、こうして毎晩 来ている」


「やったぜー!」「男冥利に尽きるね」

「獣食った甲斐があったぜ」

「オレも好きだ。脱いでくれシェムハザ」


「わかったから、もう落ち着け。

たぶん、ボティスが見ている」


うん。なんか自然におかしかったもんな、今。

指輪買え ってことだよなー。


「あのむすめのことは、何かわかったのか?」


「わかんねぇ。今日は外で会ったんだけどさ。

サリエル関連の話は?」


「まだ何もだ。ボティスが何か掴んでいても

天使でいる間は、何も口に出せない恐れもある」


そっか。管理されてる とか言ってたもんな。


「向こうが出てくるまで、わかんねぇよな。

天のどっかにいたって、何も出来ねぇしさ」


泰河が言うと

「だが、動向を掴むのは大切なことだ。

打つ手を考えるにも幅が広がる」って

ワイン飲みながら答える。


まぁなぁ。来られても、オレら

指示があれば動く ってだけなんだけどさぁ。


青い霧が凝って、マルコシアスが顕れた。

めずらしいなぁ。泰河が立って、ソファー譲る。


「マルコ、久しぶりじゃん」


「ああ。地界にいたからな。

だが今日は、山神の元を回って来た」


オレが出したグラスに朋樹がワイン注ぐし

オレら、教育されたよなー。


「一の山のおさだが、二山の柘榴ザクロが兼任する」


「あっ、決まったんだ」


「えっ。オレ今日、何も聞いてないぜ。

里で影修行したのに」って

朋樹がムッとするけど、さっき決まったらしい。


「兼任って、大変じゃないのか?

ただでさえ六山の長だろう?」って

ジェイドが聞くけど


「二山は、柘榴の親類がいるようだからな。

手は空いていると言っていた。

銀砂ぎんさという大蛇を、一の山に置くようだ。

近い内に、四山の広場で披露すると言っていた。

ボティスは間に合いそうか?」


「わからん。まだ仕事があるようだ」


シェムハザが言うと、マルコは めずらしく

残念そうな顔になって

「俺は、まだ あいつに会っていない」と

ポツリと言った。

えー、マルコも会いたいのかよ?


まぁでも、ボティスが取られた時

天に乗り込もうとしてたみたいだしな...


「ディル」と、シェムハザが言うと

また箱がバサバサ重なる。え? スーツ?


「着替えろ。召喚に行く。ハティも呼ぼう」


「またスーツ?!」


「今回は 少し軽めのものだ。だが、お前達は

“ヴィタリーニ家の者” として見られているからな。大叔父とやらに恥をかかせるな」


さすがだシェムハザ、気が利くぜー。

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