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「おいコラ、そこのっちぇヤツ!」


パブは多少 混んでたけど、ショータイムでもねーし、でかい声で コンパクト呼ぶ。


朋樹とジェイドは『バカラやりてぇ』

『ちゃんと召喚しないで待ってるから』と

先に、マルコとカジノに降りてる。


オレは 泰河とシェムハザと、パブに寄る。

『まだ あと二度程は、ちゃんと顔を出せ。

カジノと同じ経営者の店だからな』っていう

シェムハザの お達しと

『あの娘をボティスに見せてみよう』ってことで

コンパクトを下に連れて行くためだ。


『200』と言ったシェムハザに

『頼む。もう脇腹 痛ぇよ』『胃が縮む』って

頼み込んで、渋々 100にしてもらって

チケットと テキーラ10杯と何本かをもらう。

そのままテーブルに置いてくけどさぁ。


シェムハザにとっては

支払いランクを落とすのは恥らしく

“ヴィタリーニ家にとっても... ” とか言うけど

最初から払い過ぎなんだぜって思うしさぁ。

彼氏ボティスの指輪代 稼がねーとって

言ってるオレらには ついてけねーよー。


で、コンパクトは、客とかについてねぇクセに

フロアの隅の方で、他の女の子と こっち見て

きゃーきゃー言ってるだけで来ねーし。


「めんどくせーな、あいつ」

『お前に照れている。かわいいじゃないか』


シェムハザは、女の子には

いつも おおらかだ。

オレ早く、イカサマ天使召喚してーんだよー。


「泰河くんだぁ」って、セミロングの子と

二人くらいが群がり出したから

「テキーラ飲んどけ」って言って

仕方なく連れに行く。


「ルカくんだー」「ルカくん」


「おう、よう」って 適当に片手上げる。


で、コンパクトに

「おまえ、呼んでるだろ。来いよ」って言ったら


「... 前髪上げてると 印象違うね。

スーツじゃない時は、ウルフだったから」って

“来い” っつったのに、なぜか髪の話 始まるし。


「あー、普段は あの頭なんだよ。

メット被ったら潰れるけどな」って 言いながら

肩ちょっと引っ張って

襟足から ガッて 手ぇ入れて

後ろ髪 かき上げてやる。


「きゃあ、何?!」


「昼間の仕返し。うなじ見てやったぜー」


周りの子まで きゃーきゃー言って

コンパクトは、恥ずかしそうに髪 直してやがる。


な。なんか堂々と やられると

何でもねーことでも、恥ずかしい気すんだよな。

高校ん時とか、何人か泣かしてやったしさぁ。


「... 触ったりとかしちゃダメなのに

出入り禁止になっちゃったら、どうするの?」


「入らねーし。カジノ入れりゃいいしよー」


「やだ、そんなの」


「なら 呼んだら来いよ」


「下 行くぜ」って、店のヤツにチケット渡して

「この胸ないヤツ、下にお願いしまーす」って

さっさと泰河とシェムハザんとこに戻る。


「もう、下 行こうぜー。

召喚しよーぜ しょーかーん」


けど、泰河は まだ「泰河くん 泰河くん」

言われてやがるしさぁ。


『ちゃんと連れて来てやれ』


振り向いたら、なんか迷いながら

まだフロアの途中くらいにいるしよー。

なんだよ、もう。


また迎え行って、手ぇ引っ張って来たけど

こいつ、よくわからん。


で、泰河からは女の子 剥がれないし

今日来てわかったんだけどさぁ

きゃーきゃー言われんのは めんどくさい。

オレ、自分が『なあなあ』って言って

口説いたりして ハシャギてーんだし。

オレ わがままだからさぁ。


「オレ、カジノに用事あってさ

ここには ちょっと挨拶に寄っただけで... 」


泰河に群がるけど

泰河の話は聞いてねーんだよなぁ。


甘く爽やかな匂い増幅させて

シェムハザが忽然と姿を顕す。


「こんばんは」


もう、女の子たちは

一気に ふわーってなってるし

やっぱ すげぇな、シェムハザ。

男前過ぎて誰も喋れねーし。


ひとりひとりにテキーラ渡してるけど

みんな受け取る時もシェムハザに見惚れてて

突然 顕れたこととかは、どうでも良さそうだ。


キュッてショットグラス空けて

ライム噛って「また来よう」って

グラスにライムの皮入れてるのにも見惚れてる。

いや、別に飲んだだけなんだけど

オレらはスムーズに、カジノへ移動 出来た。




********




バカラで ちょい勝ちしたジェイドと朋樹と

ブラックジャックで かなり勝ったマルコ呼んで

休憩テーブルんとこに、召喚円 敷く。


シェムハザが ハティ呼んだら、すぐ来て

白い召喚円見ると、ちょっと口元 緩めて

防護円 敷いて入った。


「... Domine, obsero, ne nos

Praeditus sapientia et prudentia:

lta ut posset ducere populum

Sub nomine Domini Hic nunc usque get,

Barachiel」


召喚円に、ライトブラウンの髪に 両耳ピアスだらけ、つり上がったゴールドの眼の

イカサマ天使が降りる。やったぜー!


『よう、ハティ。マルコ』


「“バラキエル”」

「元気そうだ」


ハティも嬉しそうだけど、マルコの顔が

パッと明るくなった。初めて見るよなー。

シェムハザも入って話してて

しばらくオレら無視だけど、じっと待つんだぜ。


『お前等。俺の服 買ったのか?』


よし、こっち向いたぁ!


「買った! まだちょっとだけど!」

「おまえ、スニーカーとか履く?」


『見てくれ次第だ』


「指輪もいるのか?」

「オレら、おまえの彼女だからよ」


ジェイドと朋樹が聞くと

『指輪はあれだ。牙の奴だ』って

オレを指差す。


「あれ、ツノだろ」


バイクでフラフラしてる時に見つけた指輪があって、リングに二本、ツノか牙か わからんやつがついてんのが あったんだよなー。

その時は買わなかったけど、やっぱり欲しくなったみたいだ。


「牙だよ。かどのシルバー屋のだろ?

あれ、12万するぜ」


泰河も狙ってたらしい。


『ペアになるな』って、ボティスが ニヤッとしたら、それはどうだろ って感じになるらしく

「仕方ねぇ。譲る」だってよー。

えー、オレならペアにするのにさぁ。


「なぁ、オレさぁ

最近 おまえ大好きなんだけどー。

遊ぼうぜー、早く帰って来いよー」


『指輪 買っとけ』


ちぇー。働くぜー。


「“開く” のか?」と、ハティが確認みたいに聞いて、マルコが えっ?って顔する。


『それしかない。

手放す気がなさそうだからな。頼む』


で、ハティが了承してるし

この辺りは、依然わからん。


『マルコ、残党を。

シェムハザ。苦労 掛けるが、そいつらを頼む』


オレら、まだ 頼まれるんだよなー。

守護っていうか、世話っていうかさぁ。


「残党って何だよ?」って聞いたら

『地界の話だ』って、話 切られるしよー。


『お前等は 榊と指輪だ』


よし! 女頼みやがった! 頼られてる頼られてる。

「まかせとけ」とか、口々に言ってたけど

これ、もう締めにかかってね?って思って

「おまえ、もう戻るのかよ?」ってゴネたら

『長居出来んと言ってるだろ』とか

呆れられて「なんだよ冷てぇなー」って

四人して彼女化する。


『じゃあな』って、片手上げた時に

「おい、ルカ。その娘... 」って

シェムハザに言われて


「あっ、ちょっとボティス!

この子見てくれ!」って、焦って

オレの後ろにいたコンパクトを出す。


ボティスは、は?って顔した後

ゴールドの眼で オレをじっと見て

『何をしている? パントマイムってやつか?』って 言った。




********




「見えてなかったよな」


「どういうことだ?」


ハティとマルコシアスは地界に戻ったけど

オレらはまだ カジノにいる。


ボティスには、コンパクトが見えてなかった。


「この子だって。そりゃ乳は無いけどよー」

『何を言っている?』ってなって

『本当に、そこに女がいるのか?』って

オレの胸んとこ凝視してた。


シェムハザ、ハティ、マルコには

普通に見えてたんだよな。

ボティスにだけ見えなかった。


コンパクトは、威圧ある空気出してるハティとかマルコを ちょっと怖がってて

ビクビクしながら

ボティスに「はじめまして」って言ったけど

それも聞こえてなかったし。


『原因はわからん。調べてはみる』って

帰っちまった。


「他の天使は どうだろう? 見えないのかな?

召喚してみるか?」


「アリエルしか来てくれねーけどな」


でも、アリエル召喚してみる。

アリエルは いつも、快く降りてくれるんだよな。


牝ライオン姿じゃねぇし、泰河と朋樹は

天使のアリエルを ちゃんとしっかり見るのは初めてだから、ぽーっとしてやがる。

アリエルは、プラチナブロンドのまっすぐな髪に

深く碧い眼の “天使” って感じの天使だ。


『彼のこと、わかったの?』


ボティスのことだ。


「うん、わかったぜ!」

「そうだ、報告してなかった。

ごめん、アリエル。“バラキエル” だったんだ。

それで今日はカジノなんだ」


オレとジェイドが言うと、アリエルは

『ああ』って、柔らかい顔した。


『そう、バラキエルだわ!

どうりで周りが そわそわしてるはずだわ。

私はまだ会えてないけれど』


何人気なんだよ ボティス...


「でさ、アリエル。この子、見える?」


またコンパクト出してみる。

コンパクトもアリエルに見惚れてやがるけど

アリエルは、オレとジェイドに戸惑った視線を向けた。 見えないか...


『そこに、誰かいるの?』


「そうなんだ。女の子がね」


『私に見えないなんてことは、ないはずだわ』


そうか。アリエルは人間も含めた

自然物の守護者だ。


「ボティスにも見えなかった。天使の眼に映らないようだ。何かわからないか?」と

シェムハザが聞く。


『わからないわ。だけど これまでも

そうした人間がいても、気づかなかったってことね。眼に映らないどころか、気配もないわ』


「あ、そうだよな。

見えなきゃわかんねぇもんな」


朋樹も言うと、コンパクトは不安気だ。


『情報は集めてみるけど、そろそろ戻るわね』と

アリエルはラピスラズリみてぇな色の眼で

ひとりひとりに眼を止める。


『見えないけれど、そこにいる彼女の名前を

教えてちょうだい』


オレが「コンパクト」って言ったけど

アリエルは無視だぜ。見もしねーし。


「... リラ。真島ましま リラ です」


ジェイドが アリエルに伝えると

『リラ。美しい名前ね』と、アリエルが消えた。


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