夜 仕事がない限りは、オレは ジェイドと

教会で、天使召喚をしてみてる。

下級のヤツも、名前がいらない簡易召喚円で

露が来てくれる時に。

そうじゃないと、白い光の球だし。

アリエルとか、他の上級のヤツは

召喚円から出なければ、形は保てるみたいだ。


ただ、召喚に応じないヤツが多い。

地上で名前が通ってるヤツは、ほとんど来ない。名前が通ってるので降りてくれるのは

アリエルだけだ。


そりゃそうだよな。何かに困ってる訳じゃない。

質問したいだけだ。いちいち来ねーよなぁ。


ふと降りてきてくれる お人好しなヤツも

サリエルのことも知らねぇし

ボティスに関しては『悪魔だろう?』って答えた。天に昇ったことも知らない。


アリエルに聞いても

『秘されたことは わからないわ』ってことだ。


そして、一番まいったのが

『彼、なんという天使だったかしら?』と...


ボティスが天使だった頃の名の記憶を

消去されてた。

それは、アリエルだけじゃなかった。

ハティもシェムハザも、マルコシアスも。

召喚 出来ないようにしやがった。


天使は、自由に地上に降りれる訳じゃない。

何か使命があるか、召喚された時だけだ。


でも、これでハッキリしたのは

ボティスは囚われたりしてるんじゃなくて

天使として天にいる、ってことだ。


ボティスが “助力” として使っていたもの。

あれは、堕天する時に剥奪される

天使たらしめるモノだ。

シェムハザの それは、幽閉天マティってとこにある。

本人が堕天しても、それが天にあるから

本人の情報も天から消えず、存在する。


この天使たらしめるモノが、ボティスに戻されてないなら、オレらは

天使としての “ボティス” を召喚する。

ボティスの名で、悪魔のボティスの印章で。


それは出来なかった。ボティスが応じないんじゃない。ボティスって名前で天に存在していなかった。ジェイドは『からだ』と言ってた。


ボティスは、天使たらしめるモノを戻されてる。

元の天使に戻された。

名前も印章も、天使だった頃のじゃないと

召喚は出来ない。

そして誰の中からも、ボティスの天使名を消去されてる。召喚させないつもりだ。


それでも何か、と アリエル召喚したり

どうにか天と繋がらないかと

シェムハザ呼んで、話し合ったりしてるけど

今のところ、何も情報は得られていない。


今日も これから、ジェイドんとこに行く。


飯「ごちそーさま」って 終わると

ゾイが コーヒー出してくれた。慣れて来てんな。


「榊、おまえ今日 どーすんの?」


コーヒー 飲みながら聞くと

「共に参る」って答えた。


「ん、じゃあこれ飲んだら 出るか?」


そう言ったけど

オレは内心、そっか とか思っちまう。


最近、オレさぁ

うまく遮断出来ねーんだよな。思念が。

言っても しょーがねぇから

誰にも言ってねーんだけどさぁ。


たぶん、バランス崩してんだろって思う。

新しい精霊 出てきたし。


朋樹とジェイドが、オレの精霊の師の

ヒポナに聞いたところじゃ、電気信号だとか何だとか。結局思念だ。それに煙でかたちを付与する。


でさ、ボティスが消えちまってから

もうすげぇ きつい。榊の思念だけじゃない。

ジェイドも、泰河も朋樹も。浅黄まで。


誰かの思念だけじゃない。

オレ自身も ってとこに、それが乗っかってくる。


やなんだよな。あいつがいねぇのがさぁ。

オレら結局、あいつの言い方すんなら

イカれちまってんだ。下品なピアスバカに。


出来れば、ボティスを知らないヤツといたい。

あとはハティとかシェムハザ。

悪魔のって、入ってこねぇから。


榊が丸まって寝てる時とかに

二回くらい、夜中に 涙止まんなくなった。

榊が普段、抑え込んでるものが入ってきて。



ジェイドの飯、用意して

カウンターに置いてくれた沙耶さんと眼ぇ合う。

ヤバい。オレ今、普通に これ考えてたよな。

泣いたとかバレたら カッコ悪ぃし。


「よし、行こーぜ 榊!」


沙耶さんとゾイに「またなぁ」って

手ぇ振って、さっさと外に出た。




********




教会の前にバイク停めて

鉄柵の門開けて、榊と中に入る。


石畳の向こうの教会のステンドグラスは

もう真っ暗で、ジェイドは裏の家にいる。


ジェイドは、昼間 ぼんやり神父やって

後は だいたいシェムハザ呼んで、ボティス探し。


サリエル置いといて、先にボティスか... って

なるかもだけど

ハティやシェムハザは、皇帝にバレるのも危惧してるみたいだ。


二人も、いきなりボティスを天に取られて

サンダルフォンに すげぇ腹立ててた。

“何をさせるつもりだ?” って。


マルコシアスは、帰りたがっていた天なのに

“軍と乗り込む” って憤って

二人が なんとか踏み留まらせたらしい。


最近、ボティスは地上にいることが多かった。

魔人まびと... 人間になってからは

もちろん地界に戻ってない。


リリトが ハティを訪ねて来たらしい。


皇帝ルシファーが、“ボティスは どこだ?” って... 』


人間になった、ってまでは、まだいいようだ。

いや教えてはないみたいだけど。

まぁ 死んでないし、地上にいる ってことだから

地上で会えるし遊べるし。


天に取られた って 聞いたら

皇帝は怒り狂って、天に攻め入る恐れが高い。

会えねーし遊べねーから。


そうなると、キュべレ云々の前に

地上も結構なダメージをくらうし

どっちみち勝てない。

ボティスも取り戻せないし

地界のヤツらが犠牲になるだけっぽい。


けど皇帝は、そんなことは お構いなし。

『許せん、行くぞ!』って、やられに行く。


なんとか、リリトにゴマカしてもらってるけど

バレる前に何とかしないと... ってことみたいだ。


もう、大変だよなぁ。

サンダルフォンも考えりゃいいのにさぁ。



教会の裏の家に向かって歩いてて

急に、前を歩く榊に手が伸びた。


細い背中を抱き締める。小せぇよな。

頭、胸んとこだし。


「黙ってろよ」


榊が 口 開く前に言う。これも、たまにある。

たぶんボティスの分だ。

榊ん中に残していってる思念。

それが入ってくる。


で、この時だけは

手を伸ばさないでいるってことが出来ねーし。


最初は、自分でビビって

『うわ ごめんごめんごめん!!』ってなりながら

抱き締めてた。腕、離せねぇし。

榊も すげぇビックリしてた。


あいつ オレに憑依してんじゃね? とか疑って、ゾイにみてもらったけど、それは なかった。


こうなる時は、天でボティスが

榊のことを想ってる時だ。

今は、オレにも榊にも それがわかる。


だから、ふたりで じっとする。過ぎるまで。


つらい。あいつの分が 入ってくんのが。


オレもつらいけど、榊もつらい。

オレが ボティスじゃねーから。


で、ボティスも。榊に会えねーから。


見えるのは、里の広場とか

足元の砂と 白い泡沫うたかたの波とか

でかい花火。蛍。なぜか 寒天。コドモの指輪。

夕焼けと朝焼け とか。


そして どうしようもない気分になる。

このままじゃ、いつか どうかなる。


なんか、いつもなんだけど

こういう何かがあった時とか

全部、オレんとこに来んだよな。

簡単に、ルカ頼む ってさぁ。


へーきだと思ってやがる。

オレ、たぶん 人一倍 キツいんだぜ。


いっそ って、正直グラつく時もある。

揺すられるまま 流れてやろうか って


やっと 過ぎて、腕を離す。


「ふう...  長かったよなぁ 今日。

榊、肉じゃが持って 先に行っといて。

オレ、なんか飲み物 飲んだりしてから行くし。

また抱っこしちまったから、頭 冷やすぜー。

おまえが赤襦袢 着るなら 別なんだけどさぁ」


「... むう

まだ言うか。生意気 じゃのう」


で、ふたりですぐに 普通になろうとするし

一人になって、ボティスに やつあたりを考える。


ふざけんな てめー。胸ヒリヒリすんだよ。

やっちまっても知らねーからな。

さっさと帰って来いコラ! とか。


教会の門出て、近くの自販で炭酸買う。

手とか汗ばんでて腹立つぜ。

ジーパンになすりつけて、またイライラする。


缶 開けて飲みながら、また教会に戻る。

ここでオレが帰っちまったら、榊は気にする。

だから帰らねー。

榊は、ジェイドの話が聞きたくて

ここに来るんだし、オレ いらねーんだけど。


教会の石畳の途中で、ここでボティス殴ったこと

思い出して、教会の前に座る。


いてぇな とか 言いやがって。

オレが今 痛ぇし。 くそ。つらい。

オレ、たぶん ギリギリんとこにいる。


後ろが明るくなった。教会に電気ついて

カチャとか、鍵が開く。ジェイドか。


で、鍵 開けただけかよ。声 掛けろよ。


またイラつきながら、教会に入る。

もういねーし。何なんだよ。



『よう、ルカ』


... ボティスの 声だ


「ちょっ... おまえ、どこ... ?」


ふわっ と、身体が浮き立つ感じする。


けど 誰も いない。

声、したよな? 今


磔の十字架の下に 白い煙が凝る。精霊だ...


ボティスのかたちになっていく。

喉になんか詰まる。


『なんとか抜け出した。だが時間はない』


ふわふわしながら、通路を進む。


「... ボティス おまえ、天にいるのかよ?」


『そうだ。まだすることがある。

榊に言っておけ。 “必ず帰る。約束する。”

一言も間違うなよ。

お前等も もう無駄なことはやめろ。働け。

俺の服 買っとけ』


「待てよ。すること って 何だよ?

あっ! おまえ、今の名前は?!」


十字架の下に着く。ボティスだ 煙でも

やべ また 胸 痛ぇし


『言えん。許可が下りんからな。

俺らしい名を探せ。名が消えていれば、能力を。

ヒントは与えてやる。

羽振り良く遊べ。危機に陥れ』


「なんだよそれ、わかんねーよ!

おまえみてぇな ガラ悪い天使 いねーしさぁ。

そうだ、榊が裏の家にいるから... 」


『うるせぇ。今は あいつには会わん。

帰る時は開く。場所は ここだ。

その時は手を貸せ。あと おまえ、やるなよ』


「はっ? 何おまえ、知ってんの?」


『また借りる』


こいつ、やっぱりオレに降りてんのかよ?


『憑いてない。感覚だけだ。

そうでもせんとやってられん。

どれだけ苦労したと思っている?』


「でも オレ もうやだよ! つれぇもん!」


『だが借りてる時は、お前ともいる。理解わかれ。

そろそろ戻る。

いいか、“必ず帰る。約束する。” だ。

お前にも言っておいてやる。じゃあな』


『泣くな』って 笑って、ボティスは消えた。


手で まぶた擦る。マジで 涙 出てたし。くそう...












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