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「榊を使っていたのは

あの胡蝶という、クソ女だった。

女は、黒蟲から指令を受けていた。

相手側は黒蟲の他に、もう 一人だが

その下には、どれだけ配下がいるかは分からん」


飯 食って、やっとボティスを

ジェイドの家に連れて来た。


マルコシアスは、沙耶さんの病院にいるけど

泰河と朋樹、シェムハザとハティがいた。


明日、六山会議で 榊からも聞くだろうけど

ずっと榊に付いてた ボティスの話を聞いてる。


「黒蟲と そいつは、普段は街にいるようだ。

榊が女といる間、会ったのは 一度だけ。

蓬と羊歯の宝珠を渡す時だ。公園だった」


詳しい場所を聞くと、普段 気にしたことのない

ベンチしかない公園で

近くには、これといって何もない場所だった。


「榊は、黒蟲の場所を掴むまで

潜入を続けるつもりだった。

だが相手側の方が、榊を扱い切れず

手離したがっていた。

月詠の加護のせいで、宝珠が抜き出せなかったこともあるが、月詠に、自分達の存在を詳しく明かしたくなかったようだ。

お前等や、天使や悪魔だけでなく

日本の神まで 敵に回すことになる。

単に、宝珠の力が でかい榊を狙っただけで

榊を捕まえるまでは、界の番人だということは

知らなかったからな」


黒蟲は、オレらに “観察は済んでいる” と

言ってたけど、動き出したのは最近だし

今、他人の能力を奪ったり

仲間を増やしたり ってことをしてるみたいだ。


榊が 界の番人だってことを 知らなかった、って

ことは

黒蟲たちは、幽世を覗いたりは出来ない って

ことだと思う。


「山神達を、自分の支配下に置くことも

目的の一つだ。

従わなければ、必要のない者は殺し

使える能力は奪う。

亥神を殺したのは、山を奪う気だったからだ。

獣が降りた山だからな。

あの山で、もう 一度 お前等に

獣を降ろさせようと考えている」


「降ろさせようと って言ってもなぁ... 」

「降りねーだろ」


ソファーは座る場所ねーし

朋樹すら、ジェイドの肘掛けに座ってる。

そりゃもう 当然 床のオレと泰河が

“なあ” って、眼ぇ合わせてると


「泰河に、危機的な状況を与えてみようと

考えているようだ」とか言う。


「危機的?」


朋樹が聞くと

「瀕死になれば、血が獣を喚ぶ と考えている。

お前等には、蟲が入れられんらしい。

山や、能力と配下が集まり次第

泰河を拐う気でいる」と、ボティスが答えた。


「オレらも 一応、月詠命と繋がってることは

知らないのか?」


朋樹が また聞くけど


「ベッタリ 一緒にいる訳じゃないだろ?

朋樹のことも警戒はしているが

まずは、目先の地上掌握における

天使や悪魔への対抗手段を 手に入れようとしている。ジェイドと泰河だ」


ふーん... それでオレは、女郎蜘蛛かよ。

使えねーから要らねー ってことか。


「奴等は教会も、中までは覗けない。

魔人まびとは、混血なら半分は悪魔だからな。

お前が教会に、月詠を降ろしたことは

知らないようだった」


なら、朋樹の実家の神社の中も覗けない ってことか。

神降ろしの間のことも知らないんだ。

知ってたら、獣を降ろすための

あのヘブライ語の呪文も知ってるはずだし。


「集落でのことも知らないのか?

榊さんが 界を開いたし

ミキさんが ルシファーの声で

獣の呪文を唱えただろう?」


ジェイドが言うと、ボティスは

香香背男カガセオの鏡だ」と 答える。


「あの時は、俺が木上で

あの神社の鏡を持っていた。

あれのせいで 覗けなかったようだな」


あれ... なんか話聞いてたら

混血って、優れて強いのかもしれないし

実際に、黒蟲に振り回されてるけど

弱点も多い気がする。


ボティスやシェムハザは、集落の神社に入れたし

月詠のことも畏れてないけど

魔人は、教会だけじゃなく 神社も覗けないし

日本の神も畏れてる感じ。


堕天使や悪魔みたいに、天のみが畏れる対象じゃなくて、他の神もダメなんだ。

半分は人間だからか...


「明日、また会議で話すことになるが

ボティス、一先ずは 御苦労だった」


ハティがソファーを立ち上がる。


「友の お前が無事に戻り、嬉しく思う」


ボティスは、ふん と鼻を鳴らし

「ざまぁねぇがな」と、自傷気味に笑ったりして

「ハティ、お前に俺の軍をやる」とか言った。


「バカを言うな。奴等は お前の命しか聞かん」


シェムハザの言葉に、ハティも頷くけど

ボティスは何も答えない。


「アコ」


ハティが呼ぶと、黒い靄が凝って

長い髪をハーフアップにした、黒いスーツの男が顕れた。


「ハーゲンティ。何だ?」


悪魔だ。ジェイドが ため息をつく。


「祓魔の元に喚ぶなんて 随分だ。

シェムハザもいるじゃないか... 」


男は順に見て、ボティスに眼を止めた。


「どうした、ボティス。顔がスッキリしてるぞ」


ボティスは「人間になった」と

両腕を軽く開いてみせる。


「ボティスが お前達を、我に任せる と言う。

副官の お前の意見を聞きたい」


こいつ、ボティスの軍のヤツか...

ハティが言うと、アコって悪魔は

「断る」と 即答した。


「アコ。俺はもう、地界にも入れんのだ」


ボティスが言うと

「なら、地上から命を出せ」と 消えた。


「そういうことだ、ボティス。

お前は、軍の司令官からは逃れられん。

我は地界の書庫へ行くが、明日 また来る」


ハティは、沙耶さんの対処方を探すみたいだ。

胡蝶の脳も調べて来るらしい。

で、「ルカ、褒美だ」と、オレに何枚かの金貨を差し出した。


「蜘蛛の時と違い、鮮やかだったようだ」


胡蝶のことかよ。


「いらねーよ。なんだよ “褒美” って」


ちょっとイラついて、金貨返そうとしたら

「ボティスに服を」と言って消えた。


うん もらっとくか...



「さて、明日は また夕刻から会議だ。

お前たちも ゆっくり休め」


シェムハザが言うけど、ジェイドん家で

こんな人数 寝れねーし。


「オレ、もう 一回

沙耶ちゃんとこ行って来るよ」って

朋樹がソファーを立つ。


「ボティス。おまえ、サボるなよ。

思考読めなくても、術は使えるはずだからな」と

ボティスに釘差すと

オレ見て「外まで送ってくれ」とか言うし。


なんでだよ って 思いながら

仕方なく駐車場まで付いて行くと

車に乗る時に「悪かった」って言った。


「沙耶ちゃんのことだ。

無神経なんだよ、オレは。

ただ、本当に心配はしてるんだぜ。

姉みたいに思ってる人だからな」


朋樹は、オレが 沙耶さんの店で言ったことを

気にしてたみたいだ。


「オレじゃなくて、沙耶さんに謝れよな。

寝顔にでも」


「そうだな」って、朋樹は頷いて

「おまえは大丈夫か?」って、オレの眼を見る。

これ、オレの心配もしてんの?


「わかんねーけど

ボティスが、“今は考えんな” って... 」


「おまえってさ、素直だよな」


いや、なんなんだよ いきなり。

話変わってんじゃねーか。


朋樹は、オレから眼ぇ背けて

「誉めたんだぜ。泰河とかジェイドに言うなよ。

あいつら笑うから。ボティスもだ」とか言う。


「おまえは 今日、ボティスと榊を助けたんだ。

あと、なんだ。また注意してくれ。

オレが 無神経な時に。

クリスマス キャロルが要らなくなるまで」


「クリスマス キャロル?

顔 赤いしさぁ なんかキモいぜ、おまえ」


「うるせぇな」って、朋樹は車の鍵を開けた。


「オレは沙耶ちゃんとこ行って

また ジェイドん家に戻るから

泰河に “そのまま居ろ” って 言っといてくれ。

教会の方が安全だ」


「おう」


「おまえは ボティスを頼む。

多分あいつ、落ち込んでるぜ」


オレが また「おう」って言ったら

朋樹は やっと車に乗って、エンジンをかけて

「じゃあ、明日な」って 車を走らせる。

ふうん... なんか めんどくさいヤツだけど

かわいくなってきた気もするよなー。


ジェイドん家戻ったら

「あいつ、なんだったんだ?」って

泰河が聞くし。


「なんかさぁ、オレのこと

素直だ って 誉めやがってさぁ。

顔、赤くしたりしてよー」


暴露してやったぜー。





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