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人形ひとがただったのか...

人形は、朋樹が使う陰陽の術だ。


「いつから... 」


朋樹が オレの方を見た。


「さっき、広間に集まった時からだ。

思考を読まれたらマズイからな。

黙ってて悪かった」


マジかよ...

そういえば泰河は、ずっと話してない。


「じゃあ、泰河は?」


背後の城内から足音がする。

振り向くと、泰河がいた。


「よう、ルカ」と、あくびしながら

オレの隣に並ぶ。


「退屈だったぜ。保管庫に缶詰だ。

青い魔法円で隠されてさ。

まあ、オレも 思考 読まれるしな」


「なんだよ、それ... 」


ふつふつと、よくわからないものが

腹の奥から湧いてくる。

でも、もし この策を聞いていれば

オレも保管庫にいただろう というのは わかる。


オレが この場にいるのは、たぶん相手に

わざと思考を読ませるためだ。

だってオレ、ほとんど役に立ってねーし。

くそ いまいち怒り切れん...


「ダンタリオンって、あいつか。

顔 変わりすぎだろ。気持ち悪ぃヤツだな」


泰河の思考に気づき、ダンタリオンが眼を止める。

「ボティス! あれは?!」と

幾重もの声で叫んで 指を差した。


「合図だ、ダンタリオン。総力戦のな」


頭には『精霊を退け』という声。

ボティスが、ハティと眼を合わせた。


「地、戻れ」と、精霊を退かせると

ハティが 呪文を唱え、長く息を吹く。


ハティの息が届く範囲にいた

黒炭色の人型の 前列のヤツらが石化し

ハティが指を鳴らすと、砂のように崩れ落ちた。


仲間が、一瞬で崩れ落ちたのをの当たりにした

黒炭の人型達は

戦意を削がれたように後退する。


「マルコシアス、ボティス」と

ハティが 名を呼んで指示を出す。


黒い狼たちが地を駆け、黒炭色の人型のヤツらに飛び掛かる。

黒雲だったものが 薄い皮膜の翼を持った悪魔たちになると、矢のように空から降り

狼と同じように ダンタリオンの軍を潰していく。


なんだ? どうなってる?


「ジェイド、シェムハザ」


ハティが また指示を出す。


狼や、皮膜の翼の悪魔から逃れようと

城門から なだれ出し、城壁を よじ登って出る

黒炭色の人型を

光の人型や青い人型たちが、消滅させていく。


「朋樹」


ハティが言うと、朋樹が 式鬼札を飛ばす。


尾が長い炎の鳥が飛び立つと

城門の前の穴に突っ込み、火柱を上げた後

その穴が閉じられた。


黒炭色の人型たち... ダンタリオンの軍は

あっという間に壊滅させられた。


「軍を戻せ」


ハティが言うと、ボティスと マルコシアスが

自分の軍を退かせ、地界へ戻した。


白い光の人型は魔法円に戻り

青い光の人型たちは、ダンタリオンを囲む。


ダンタリオンは、口も利けないようだが

オレも 呆気に取られていた。


あの黒雲の皮膜の翼の悪魔たち...

じゃあ、ボティスは...


『そういうことだ、ルカ』


ボティスが、オレに軽く手をあげる。


この頭の声って...


「鈍いな、おまえ」


声に出して言うボティスに、オレは走って

跳び蹴りしようとしたが、寸前で かわされる。


「怒るなよ ルカ。まぁ聞け。後で。

まだ残ってるだろ?」


ボティスの指差す方には、ディルに捕らえられたダンタリオンがいる。

背後から、黒柄のナイフを突き付けられていた。


「ヴィタリーニ様のナイフです」


ディルが耳元で言うと、ダンタリオンは

目まぐるしく変わる どの顔でも

ハッとした表情になる。


軍が壊滅したショックに陥っていたようだが

今、自分が置かれている状況に

再度 気づいたらしい。


「... ボティス、貴様」


「ざまぁねぇな、ダンタリオン」


怨みの眼で見るダンタリオンに、ボティスは

無表情な顔で続ける。


「うまい話とあれば、すぐに寝返る。

俺が本当に お前と手を組むとでも?

お前と組んで、何の利がある?

そもそも泰河は、すでに俺等といる。

獣云々の話の前からな。

俺は 単純に こいつ等を気に入っている」


睨み続けるダンタリオンは黙っているが

オレが口を挟んだ。


「おまえ、全てを手にする みたいなこと言ってたじゃん。天のヤツとの関係も逆転する とか」


「天との関係が、逆転する訳ないだろ。

そう造られてるんだからな。

全てを手中に収めることなど、俺には興味はない。自由でなくなるのは御免だ。

頭にきたんだよ、ダンタリオン。

お前の薄汚い手にな。

アリエルの幻影にドレスを着せたな?

あれは、アリエルが ガキ共と選んだものだ」


ボティスの言葉に、ダンタリオンが眼を剥く。


「まさか、そんな理由で私の軍を... 」


「そう。俺は お前と同じ悪魔だ。

お前は気にいらん。だから潰す。

アリエルの幻影は、今すぐに お前を潰そうという切っ掛けになった。

それがなくても潰す気だったが。

目障りなんだよ。

つまらん私欲で周りをウロウロされるとな。

俺は、シェムハザも 地上のこの城も気にいっている。面倒を起こせばどうなるか

お前が いい見せしめになることだろう。

簡単だったよ、お前は」


「済んだか? ボティス」


教会から出て来た シェムハザが言う。


「ああ、済んだ」


シェムハザが近くまで来ると

ダンタリオンは、シェムハザに言い訳を始めた。


「シェムハザ...

悪気はなかった。アリエルの魂を狙ったのは

天からの命で、私の意志では... 」


「ディル、手を離せ。

ジェイドのナイフを、こいつの血で汚すな」


シェムハザが言い、ディルが手を離すと

ダンタリオンは、様々な顔に

ホッとした色を浮かべる。


「シェムハザ... 」


「シアン」


シェムハザが呼ぶと、猟犬が城から出てきた。


こいつ、城にいたのか...


ダンタリオンは、後退りを始めたが

周囲は青い天空の霊と

魔法円の守護精霊に固められている。


「腹を満たせ」


猟犬が、ダンタリオンに飛び掛かって倒し

喉の骨を砕いた。

牙の間からの酸で溶かしながら

目まぐるしく変わる顔を食い千切っていく。


「特等席で お前の最期を見れば、もっと

感慨があるものかと 期待したんだがな」


ボティスが無表情に、それを見つめる。

「無様だな。ダンタリオン」


「霊たちよ。シアンの食事が済み次第

浄化を任せる。明日は式だからな」


シェムハザが踵を返し、教会に戻ろうとした時だった。


「離れろ、マルコシアス!」


ジェイドが叫んで、教会へ駆け込む。


教会の中から強い光が発せられた。

あの光は、見たことがある


「アリエル!」


教会に戻ろうとするシェムハザを

ボティスが止める。


「よせ シェムハザ、天使だ」

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