劉裕論13 中唐 張謂 下

劉裕りゅうゆうは、何無忌かむき劉毅りゅうきを率いて共に飛躍し、徐羨之じょせんし傅亮ふりょうを指揮し栄光を得た。


東晋とうしん元帝げんていが開いた建康けんこうの都はいわば今日の殷周いんしゅうの都であろう。劉裕が封爵を受けた豫章よしょうは、いわば今日のせいであろう。


ならば劉裕が振る舞うべきは、太公望たいこうぼう周公旦しゅうこうたんがごとく、国を支え続けることではなかったか。


だと言うのに劉裕は、近日のそう氏、しん司馬しば氏に倣い、遠き昔の斉桓公せいかんこう晋文公しんぶんこうのごとく、王室を奉じるつもりはなかった。魏晋ぎしんは結局災いの中に没したし、また劉裕自身、三年間すら皇位におれなかったではないか。加えて劉宋八代のうち、四十を越えることができたのも、わずかに二人。残り六人は、みな夭折している。


かんの劉氏は寬仁であったため、多くの一族を輩出した。しかし劉裕は先帝殺害という無道を働いたため、まともに子孫が残せておれぬ。天がもたらす因果応報は、まこと、すべてを見通している、と言えるのではなかろうか。


すなわち天の予兆を得て皇位に登ることを礼や道義に基づいて為した皇帝はその子孫の断絶は難しい。しかし知恵や暴力によって皇位を奪い取った者は、滅び易い。


宋や南斉なんせいのごとき国の立ち上げを為すものは、讃えるにも足らぬ。まして国運の末路を思えば、結局は王莽おうもう董卓とうたくの敗亡がごとし。彼らの簒奪に、いかほどの道義があるというのか。


栄枯盛衰をこうして眺めれば、人の世を運営するにあたって、周がその立ち上げにあたり「殷の失敗を忘れるなかれ」と語るのも、故あることなのだ。




牽率何、劉,同為翊戴;指撝徐、傅,共致雍熙。則元皇建業之都,至今享殷周之祚;劉後豫章之地,至今為齊魯之國。而近希曹、馬,遠棄桓、文,禍徒及於兩朝,福未盈於三載。八葉傳其世嗣,六君不以壽終。漢氏寬仁,允緒成大族;劉公殘暴,子孫無遺種。天之報施,其明徵乎?則知握元符,升大寶,禮義得之者難絕,智力得之者易亡。使成如宋齊,無足稱者,況敗如莽卓,豈勝道哉!後之人運屬陵夷,業崇經濟,周爰故地,殷鑒在茲。


何、劉を牽率し、同じく翊戴を為し、徐、傅を指撝し、共に雍熙を致す。則ち元皇が建業の都、今に至れる殷周の祚を享く。劉が後の豫章の地、今に至れる齊魯の國為る。而して近きに曹、馬を希い、遠きに桓、文を棄て、禍いは徒らに兩朝に及び、福は未だ三載に盈たず。八葉は其の世嗣を傳え、六君は以て壽を終えず。漢氏は寬仁にして允と大族を緒成す。劉公は殘暴にして、子孫に種を遺せる無し。天の報施、其れ明徵なるか? 則ち元符を知握し、大寶に升れるに、禮義にて之を得るは絕ゆる難く、智力にて之を得るは亡ぶ易し。宋齊が如きを成さしむに稱うに足る無く、況んや莽卓の敗るるが如きなるをや、豈に道に勝らんか! 後の人運の陵夷せるに屬し、業の經濟を崇ぜるに、周は爰に故地にして、殷鑒茲に在り。




八葉傳其世嗣,六君不以壽終。

よくわからんけど、一応ここについて。

 1 武帝劉裕  60歳(病死)

 2 少帝劉義符 19歳(殺害)

 3 文帝劉義隆 45歳(殺害)

 4 孝武劉駿  35歳(病死)

 5 前廃劉子業 18歳(殺害)

 6 明帝劉彧  34歳(病死)

 7 後廃劉昱  16歳(殺害)

 8 順帝劉準  11歳(殺害)

こんな感じなんですよ。40を越えるのに「寿」とつけるのにはやや抵抗があったんですが、こう解釈するしか理解できなかったので。


と言うわけで全体的に霊感訳ぶち決めざるを得ない感じでしたが、ひとまず劉裕にノーを突き付ける論調であるのは間違いがないですね。


調べてみたら 763 年の吐蕃による長安陥落って、いわゆる安史あんしの乱に接続するもののようです。するとこの論には、だいぶ安禄山あんろくざんが想定されていたのではないかしら。武に頼って力をつけて簒奪をしても結局災いが起き、破滅していくって言うのは、マジで安禄山にもかぶる気がするんですよね。玄宗げんそうを都から追い出したあと皇帝を僭称するも、失明したあげく殺されてますし(安史の乱の「史」は部下の史思明ししめいを指すそーです)。


まーわからんです。あまりにも背景が見えなさすぎる。唐代の他の論と組み合わせようにも、どういった繋がりがあるかも見えづらいしなぁ。この一論だけ引っ張り出して「劉裕はクソだというのがこの当時の論調」と言い切るのも危うい。宙ぶらりんなままでいきましょう。

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