ベーコンエッグと葉物野菜、白米を朝食に食べた日があった
mo_modoki
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特になんということもないが最近右脇腹のすぐ下の辺りがたまにシクシクと痛む。
特になんということもないが最近やたらとひどい悪夢で目が覚める。
特になんということもないが最近やけに煙草がまずく感じる。
特になんということもないが最近少し酒の回りが早くなった。
特になんということもないが最近気が付くとiPhoneの画像欄を見るでもなくぼんやりと眺めていることが多い。
特になんということもないが、特になんということもないで過去の自分が押し込めてきた抑圧達が、声にならなかった悲鳴が、私の心が常に発していた絶叫が染み込んだ、私の部屋に存在する沢山のものたちが、私に対して少しずつよそよそしい面を見せ始めた。
部屋の時計はいつも10分ほど早い。
朝起きて、10分早いその時計から現在の時間を割り出す。それは私の朝の日課で、頭を覚醒させるためというよりかは、些細な日常のルーティンのひとつだった。
昨日の夜その振り子時計は壊れていたようだった。
今朝起きて、3時54分辺りを指し示したまま動かなくなっていたその時計を見た時、私が一番最初に思ったのは、
「大変だどうしよう」でも「時計を直そう」でも「えーっとなら今は何時だろう」でもなかった。
慌ててiPhoneを開き現在の時を確認する作業すらしなかった。
ただぼーっと、壁に掛かっていたため少し....ではなかった。かなりほこりを被ってしまったその時計を爪先立ちになって壁から外し、降ってくるホコリをそのままにして私の身体と床とで受け止めながら、意外と重さのあるその古い時計を胸に抱え、静かに撫でていた。
大きなのっぽの古時計。おじいさんの時計。
私がその歌を口ずさむ時、同時に脳内でも英語の歌詞が流れ出すため、私は気に入った箇所を所々英語で歌う。
It stopped short never to go again When the old man died.
never to go again が 「うごかない」に当たる部分で、動かない、よりかは私は never to go again のリズム感というか、音の詰め方が好きだった。
私は英語の歌が好きだった。少なくとも口語の日本語にないものがあったから。
日本語の「黙殺」にあたる英単語は存在しないらしいというのも、私にとってはただ耳から入っただけの「へぇ」で終わる情報のひとつであったが、そのフランス語が専門だという何やらすごい人らしい英語教師の落ち着いた声は、昼下がりで弛緩した教室の空気にも変わらず朗々と響いていた。
I was bone 産まれるじゃないんだよ。「産まれさせられる」んだ。
吉野弘が作者の国語の教科書に載っていた話。
神社に行った幼い息子と父は、そこで消えてしまいそうに儚く白い妊婦の女性と、腹に子供をいっぱいに溜めたウスバカゲロウのメスと出逢う。
息子は興奮して、そう受動態なんだよ。と最近学んだ英会話スクールでの知識を父に披露する。
父はすぐには何も言わないが、歩きながら、少し彼のお母さんの、妻の話をする。
彼を産んですぐに亡くなった彼の母。
彼は父の話を聞いて、母の腹いっぱいに詰まっていた自分の白い肢体を想像する。
物語は、少なくともテクストとしてテキストから切り離されたものとして記載されていた話としての『I was born』はそのあたりで終わる。
英語教師の朗々とした声と、それでいて心の深さを感じさせるような穏やかな目を少し見ていた僕は、そんなことを考えるでもなく考えて、思い出していた。
風が少し教室に入っていた。夏が近かったのだろうか。秋に差し掛かっていたのだろうか。そんな匂いの風だったと思うが、あまり記憶に鮮明ではないので自信がさほどない。
部屋でぼんやりと時計を撫でながら、私はそんな過去の記憶にしばし思いを馳せていた。
アレグロ・アジテートだった鼓動は少しずつ落ち着きを見せ、いつものリズムを刻み出していた。
全てOKさ全て上手く行く。
そんな意味合いのくだらない洋楽の歌詞が頭をふとよぎった。
もしくは少しばかりくだらないくらいの方が励ましとしての言葉は深い意味を持ち得るのかもしれない、などという自論にすら育っていない論を脳内で転がしながら、私は布団からやっとのことで抜け出し、部屋のドアを開けた。
壊れた時計は私のベットに置き去りにされたが、その時の私の意識の範疇には既になかったようだ。
朝食を食べるべく颯爽と居間へと降りる階段を降り始めた私は、階段を降りる途中にある窓から外を見ようとしたが、まぁ面倒だし別にいいやという思考に一瞬でシフトし、そのまま階段を降りた。
さて、今日の朝ごはんは何にしようか。
ベーコンエッグと葉物野菜、白米を朝食に食べた日があった mo_modoki @mo_modoki
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