第08話 ささやかな悪意みたいな?
今日は幼なじみのアイツに嫌がらせをすることにしたの。フフフ、楽しい1日になりそうなの。どんなささやかな悪意で嫌がらせをしてやろうかしら? これからアイツに行う嫌がらせの数々と不幸を思うと、乙女心がドキドキわくわくしてくるの。
嫌がらせの手始め。アイツの携帯にメールを送ってみるの。
『いま何してる? 本文: 』
ビンゴ! なんて酷いメールなの? タイトルで要件を伝えるいい加減さ。返事に困っちゃう内容がないよーな内容。しかも返信を希望してるウザさとか自分が完璧すぎて怖くなるの。きっと面倒くさがってるに違いないアイツを想像すると、自然と頬が緩んできちゃう。アイツとお目覚めメールなシチュエーション。ちょっぴり赤面っ///
しばらく待つと、アイツから返事が返ってきたの。
『Re.いま何しているの? 本文:ねてる』
これはチャンス。アイツの家はあたしの家の隣。これは強襲して嫌がらせをするしかないの。ドキドキ、ドキドキ、縄文式ドキって、これはガチでヤバイ。吐息のハァハァが抑えられない。わたしマジで肉食獣っぽい。いくら嫌がらせ目的とはいえ、朝に幼なじみの男子の家にお迎えしに行くというラブコメ少女漫画でよく見る展開に、なぜかハートの高ぶりが抑えられない。たぶんこれもアイツのせい。あーイライラ、ドキドキするの。
早朝お宅訪問は想定済み。すでに着替えはバッチリなあたし。徒歩30歩でアイツの家に到着。ぴんぽーん。ドアが開いた。眠そうなアイツが出てきたの。あたしはすかさず「一緒に学校行くの」と命令してニヤリ。眠そうな目をこすって「早すぎだろ」とブツブツ文句をいうアイツを見て気分爽快。あたしのわがままに嫌々ながらも付き合うアイツ。恋は受身より振り回す方が楽しいよね?
ドアを開けたアイツ。アタマをポリポリ面倒くさそうに「いま準備する」と言うの。ドアが閉まるの。着替えとかの準備が終わるまで時間があるみたい。あたしは仕方なくアイツの家に上がって待つことにしたの。アイツの家族の熱心な勧めで、あいつの食べるはずだった朝食をパクパク食べちゃう。家が隣同士だと付き合いも家族ぐるみで助かるの。わかめと豆腐のお味噌汁サイコー。アイツのお母さん、ほんといい仕事をしている。いつかこの味……あたしが受け継ぐんだ。
食卓でアイツの家族と親睦を深める。アイツのパパ「息子と違ってしっかりものだね」アイツのママ「ほんと、うちのバカ息子ときたら」アイツの妹「死ねっ! お兄ちゃんを狙う毒婦!」アイツの妹に刺身包丁でダイレクトに首筋を狙われたので、あたしは肘で一撃カウンター。顔面から床にダイブして、ピクピク動かなくなるアイツの妹。即死ENDを切り抜けてハァハァ息を荒げるあたし。あぶない危ない。あと一歩で動脈を持っていかれるところだった。ちなみにパパとママは大爆笑……やっぱり変な家族。将来一緒にやっていけるか不安です。
やっとアイツの準備が終わったので、あたし達は学校に行くことにしたの。アイツのパパ「かわいい女の子と一緒で羨ましいなぁー」アイツのママ「うふふ、息子をよろしくね」アイツの妹「わたしのお兄ちゃんが穢れ豚の淫毒エキスで妊娠しちゃう!」妊娠させるのは生物学上ムリっぽいけど、淫毒エキスの注入はあたしに任せろ! 心のなかでひとり決意するあたし。自分でも意味不明だったり。高校生で妊娠とか……まだ早いよぉ。
玄関を出た。アイツは自転車に乗るけど、早速アクシデント発生。タイヤを指でペコペコ。あはは、どうやらパンクしているみたい。さっき釘で穴を開けといたからね。クククッ、仕込みがうまく作動して含み笑いが漏れちゃう。始めよう乙女の極秘大作戦。諸君、わたしは嫌がらせが大好きだ。もちろんアイツのことも……嫌がらせを続けましょ!
予期せぬパンク。テンパるアイツ。あたしの頬がゆるむの。極秘計画に基づいて上から目線で提案するの。「ど、どうしてもというなら、あたしの自転車使ってもいいのっ」ただし二人乗りで、運転手はアンタだけどね! しぶしぶOKをだすアイツ。男子と自転車でニケツ登校。前から憧れていたのは秘密。ニヤニヤを抑えるのが大変。顔は赤くならないで。
そんなこんなで自転車の二人乗り。学校へ向かうあたしとアイツ。ニケツは校則違反だけど、今日はいつもより1時間も早く登校してるから誰にも見られない。フッ、計画通り! クラスメイトに冷やかされる心配もないから、彼の背中にギュッと抱きつくのもオッケー。楽ちん、快適、そして……アイツの背中に顔をうずめながら、あたしは小さく舌をペロリ。楽ちん、快適、幸せ……かも?
あたしとアイツは授業が始まる一時間も前に学校へ到着したの。ぶっちゃけ、やることがない。アイツのお腹がグゥーと鳴る。アイツの朝食は全部あたしのお腹だもんね。お腹がすいて当然よね。かわいそうにお腹をすかせて。あまりに哀れだったので、あたしはささっとお弁当を取り出して、何度も練習したセリフと一緒に差し出すの。「かかかっ勘違いしないで欲しいのっ! となりの席でお腹をぐーぐー鳴らされたら困るだけなの!」なぜか言いつつ赤面。ちょっと噛んだせい。手作り朝食弁当の手渡し完了。変じゃないかな? わざとらしくない? ハートのドキドキが止まらない。なんでだろう?
二人っきりの教室で手作り弁当を食べるアイツ。そんなアイツのスクールバックにあたしは水筒の水をわざとこぼすのを忘れない。アイツはあわてて水分を拭き取るけど、中の教科書まで染みちゃったみたいで――計画通りっ! 乾くまで時間がかかると頭を抱えるアイツに、あたしは頼れるお姉さまの雰囲気で耳打ちするの。「隣の席なんだし、あたしの教科書を見せてあげてもいいの!」……よし! すこし噛んだけど合格だと思う。机を合わせて授業するイベント権ゲット。申し訳なさそうなアイツ。今日も一日一緒だね。
それからしばらく。二人っきりの教室で手作りお弁当の味を聞いて「おいしい」と言わせたり、どうでもいい無駄話をペチャペチャしたり、まるでLOVE×LOVEなカップルみたいな時間を過ごすけど、あたしは決してこの状況を楽しんではいけないの。本心を隠してただのクラスメイトを演じなければいけないの。それがあたしのミッション。乙女がこなすべき任務だから。幸せに緩んだ表情筋に喝を入れつつ、あたしは1人誓いを立てるのだ。
――あたしのささやかな恋心は、まだバラしちゃいけない。と
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