No.13

@qwertydotnet

No.13

9月9日、晴れ。

夏の匂いがまだ、微かに残っている。




涙を拭った僕の手は、そのまま強く君へと振った。

バイクに跨る君は振り返って、僕に大きく手を振った。

小さな君の小さな背中は、大きな音の大きなバイクに運ばれて、視界の外へと消えていった。


どこへ行ったのかも知らないまま、しかし僕はあの日の光景を、決して忘れはしないだろう。


見送る僕は悔やんでいた。ほんとうは、君を此処へ、この場所へ、繋ぎ止めていたかった。どうしたら良かったのか、何がいけなかったのか。僕は座ったまま考え込んでいた。悔しさに浸る僕の頬はとても人に見せられないくらいに濡れていた。


でも、僕は諦めた。代わりに、君の行く末を見守ることにした。

僕もどうにかやっていく。しっかり1人の人間として生きていこうと、そう決意した。いつでも此処に君が帰って来れるように、たとえ君が一文無しになっても帰れる場所になるように、と。


君の旅はきっと順風満帆で、誰も邪魔することなんてない。君は強くて、旅路で失敗することなんて微塵も思っていないんだろう。それは多分君の難点なんだけど、僕はそんな君の強さが好きだった。


時々、やっぱり僕は心配になる。君は元気だろうか。君は幸せにしてるだろうか。辛くはないか、苦しくはないか。もしかするともう投げ出したいだなんて思ってるんじゃないか、そんなことを時々、考えている。


でも、きっと君はその旅路を走り続けるんだろう。どんな困難に直面しても、たとえ行き止まりにぶち当たろうとも、君はその旅路を走り続けるんだ。だって君は、強いから。




あれからずっと待っている。君の帰りを待っている。あの日見送ったこの場所で、今も此処に立ったまま。


君はきっと帰って来ない。


二度と此処へは帰って来ない。僕はそれを分かってる。戻らない、君は僕に、そう言ったから。


側から見れば馬鹿げてるって、君でもきっとそう思うのかもしれない。

でも、僕は待っている。馬鹿げてるだなんて思いもしない。


此処に立ったまま。同じ場所に立ったまま。

いつでも君に帰る場所があるように。

僕は、13番地で待っている。

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