逆撃のしんがり姫
ながやん
第1話「白紙の未来に朱を灯せ」
その日、戦線は崩壊した。
大陸の六割を支配するヴィザンツ
南方の小国は
皇帝は自らが率いる第一軍もろとも、戦場に
そして、勝者と敗者が入れ替わる中で……伝説は
「待ってくれ! 乗せてくれ、まだ乗れる
「頼む、故郷に帰りたいんだ!」
「こんな
「俺は、俺達は……ただ生きて、ふるさとに帰りたいだけなんだ!」
アルス・マグナスは
巨大な空中戦艦が
第六大隊のシンボルカラーは、白……
アルスは多くの歩兵や砲兵、馬を連れた騎兵の中で叫ぶ。
「あの、みなさん! 落ち着いて下さい! 大丈夫です、全員乗れます! 帝國兵たるもの、押さず、走らず、しゃぶらず! この『おはしの基本』を、ンゴッ!」
思いっきりライフルの
騎士に対してなんて無礼な、などとは思わないが、いささか
それでも、周囲に冷静を呼びかけるアルスに暴言が飛んだ。
「おい、近衛のお坊ちゃん! あんたんとこの白痴姫は、俺達を置いて逃げる気だぜ!」
「あの
「あっ、
ガラガラと音を立てて、巨大な錨が
徐々に、この第六軍の将兵を乗せてきた空中戦艦は浮上しつつあった。
だが、次の瞬間、轟音が響く。
グラリと揺れた空中戦艦は、カーゴハッチが内側から突き破られた。まるで
そして、何かが大地へと飛び降りた。
激震の中で誰もが、舞い上がる浄気と土煙から目を
「っ! な、何だっ!? ま、まさかあれは……!」
アルスは初めて目撃した。
そこには……全高10mの
――スチームメイデン。
騎士や貴族等、限られた人間だけが搭乗を許される
その中でも、
多くのスチームメイデンがそうであるように、
あまりに突然のことで、誰もが言葉を失い
「これは……
クロトゥピア、それが美しき
その片手が、無造作に錨のぶら下がった鎖を
上空でガクン! と、空中戦艦が停止する。
周囲は驚きの声を連鎖させた。
「かっ、かか、片手で戦艦を!?」
「なんて
「はっ、はは、初めて見る……参號騎は動かない……動かせないんじゃないのか!?」
ただ静かに、鋼の
そう、背に身の丈よりも巨大な
恐らく、先程カーゴハッチを破壊したのは、この狂刃によるものだろう。そう、狂刃……そして狂気の
アルスが駆け寄ると、首のすぐ下のハッチが開く。
中から、
「第六軍
その空気を震わす
真っ白な肌に真っ白な髪、そして純白の
何をやらせても駄目で、声は小さく頭は
だが、それが今は過去のものになろうとしている。
リフィータの目が、目だけが
彼女の瞳が
毎日一緒でも、常に
「
とても、
あの白痴
錨を鎖ごと握られ、苦しげに旗艦が巨体を
「
だが、
「わたくしが
「しかし、それでは陛下に――」
「死人は誰も
あまりに突然のことで、誰もが顔を見合わせるばかりだ。
今まで、皇室の
そのリフィータが、叫ぶ。
「
同時に、あらゆる荷が大地へと投げ捨てられる。
近衛騎士団第六大隊の者達は、
アルスもまた、父の汚名をそそぐため、敢えて先日任官したのである。
だが、絶望の敗北が英雄を生んだ。
そして、気高き英雄は第六軍の全将兵二万人のために、死を選ぶつもりである。
「殿下っ! リフィータ皇女殿下っ! 近衛騎士団第六大隊所属、第六席! アルス・マグナスですっ! 殿のお供にお連れ下さいっ!」
見下ろす表情は、不思議と
いつもおどおどとしていた、あの姫君と同一人物とは思えない。
白亜の長髪を風に遊ばせ、リフィータは静かに言葉を
「そなたは新入りの……なりません。近衛と言えども、帝國騎士……撤退し、残存兵力に合流、次の戦に備えるのです」
「……ではっ、何か
意外そうに目を丸くしたリフィータは、腕組み小さく
困らせてしまったと思ったが、そうしている間にアルスは頭上へと叫んだ。
「大隊長っ! 僕です、アルス・マグナスですっ! 僕のシルフィスを降ろして下さい! その分、多くの兵が乗れる筈です!」
シルフィスは、第六大隊に配備された旧型のスチームメイデンである。皇族を守る近衛騎士用に防御特化型へと装甲が追加され、その分トルクを太くチューンしてある。だが、他の大隊が新型へと
守るべき対象に
だが、ようやくリフィータは、ポン! と手を叩いた。
「では、そなたにわたくしの形見を
「身に余る光栄っ!
「よろしい。形見は、そなたの命そのものです。その命を、わたくしの形見と思って持ち帰りなさい。そして、真に帝國のためと思える戦いに使うのです」
それだけ言うと、リフィータはコクピットへと消えた。胸のハッチが閉まるや、身震いするクロトゥピアが動き出す。優美な曲線を描くエグゾーストから、真っ白な浄気が風に舞った。
まるで、純白の翼を広げた
そのままクロトゥピアは、敵軍迫る南へと走り去る。
それを見送り、アルスは自分の騎体が投げ捨てられるように降下する音を聴いた。
「僕の、命……この命が、形見! あの方は
初めて、守るべき第三皇女の素顔を見た。
その気高き魂、今まで
急いでアルスは、転がるようにして自分のシルフィスに駆け寄る。
彼にとって、鮮烈な印象を
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