紅色 ~傷~ 30
「ねぇ、
「何や?」
「美化委員の仕事って何なのかな?」
「……何やいきなり。そんな過程をすっ飛ばして最初からクライマックスなことを言われたら可愛い可愛いうちにもわからんわ」
3限目の世界史の授業を終えた現3年生の文系のうち、
「京ちゃんは可愛いね」
「……最後の方のはツッコンでくれなあかんでミコト」
「私には大阪人のツッコミとかは良くわからないから」
「ミコト……、ツッコミをできんかったら彼氏できても彼氏の浮気にツッコまれへんままずるずると二股かけたクズ野郎と付き合ったままやで。新しい恋に出逢われへんで!」
「ツッコミはそんな大切なことでもないしそんな状態とツッコミは更に関係ないと思うけど?それに私は付き合った彼氏さんには他のfemaleなpickに目を向けるような、それも二股なんてさせるような柔な繋がりは持たせませんから♪ご安心下さい♪」
……真顔で何かヤンデレなとんでもないこと言っとるし、femaleなpickって日本語に直すと雌豚やんけ。
「あんた、ヤンデレの類なんか?親友のうちが他の男に声をかけてたら柱の後ろからこっちをhighなlightをoffして見てる、的な」
「私はヤンデレでもなければ、百合でもないよ♪100パーセント純粋のノーマルで女の子より男の子が好きな現役女子高校生──ぴっちぴっちの花のJKだよ♪」
と言って、ギャルピースをするミコト。
うちも一様、ミコトの言う花の現役女子高校生なんやけど、どうしたもんか……。このセカイってぴっちぴっちのJKっ子は自分のことをJKなんてそれもぴっちぴっちなんて無理して若く見ようとするおばさん臭いことを言っとるわ。
「おばさん臭い」と口には出さず胸の内(あんまないけど)でひっそりと閉まっておく。
うちの優しさで涙しいや。
「しないよ♪」
「あの、ミコトさん。ナチュナルに心……読まんといてな?」
「どうしようかな〜。自称可愛い可愛い京ちゃんがお小遣いくれるなら考えてあげてもいいけど?」
「ま、まさかの現金要求!?そこはお昼ご飯程度が妥当やろ!」
「知らないな〜。昼休みに屋上に行くって言ってたからそのついでによろしく」
何て子や実粥ミコト。
普通なら『〜を奢って』と実に私達高校生らしい高校生の決まり文句の一つが出るところやの。それも遠回しに言うんやなくて、直球のどストレートで要求するなんて、……うちはミコトとの関係を考え直さなあかんかもな。
「お小遣いのことは後でとして、本題に戻ってよ」
「……お小遣いは貰うつもりなんや」
無理矢理本題に戻らされた気もするけどこの話題を話し続けるよりはまだマシやな。
もう少しミコトは裏を作るべきやと思うねんけれど、本題の方が大事そうやから今は置いとこか(あげるつもりはないんやけど)。
「で、美化委員は何をするのかってことやったっけ?」
「うん。正確には『美化委員の仕事とは何なのか』ってのが本題なんだけど。あ、勘違いしてほしくないんだけど、私はとち狂った訳でもこの暑さに頭をやられた訳でもないんだよ。ホントにピンッときたんだ」
美化委員の仕事は何か……か。
こらーまた、けったいな問いがきたな。その問いに至るまでに何があったのかはミコトの言うホンの気紛れなのかはわからんけど(これまでのミコトの問いはムッとするようなものばかりだけど)、こんな奴でもこの学校での私の友達1号やからな、話し合うくらいはやってあげてもええか。
10休憩の中、『美化委員の仕事とは何か』と言う突拍子もない議題で話し合う中で、ミコトがこんなことを言ってきた。
「そういえば、あの子とは今はどうなの?」
「あの子?誰のことや?」
「そんなとぼけなくてもイイよ。あんな楽しそうに話してたら誰でも気にはなるよ」
「だ・か・ら!誰の子とやって言ってんのや!?」
特に思い浮かばないあの子に苛立ちの声を上げる私をミコトは『あの子』の名前をフルネームでご丁寧に漢字の説明まで付けて。
「あの子──
ニヤニヤと何かを嘲笑うかのようなその笑顔をぶん殴ってやりたいと思ったうちは決して間違ってないと思う。
「……夜空君は友達やない」
「へぇ、なのに名前呼びなんだ。お暑いことで」
「だから、うちと夜空君はそんな関係やないって言ってるやろ。どんだけ、うちと夜空君を恋仲にしたいんや……」
「じゃあ何なの?夜空君との関係って?」
そんなのは決まっている。
うちと夜空君との関係は最初にあった時から今も変わってへん。
「──わからん。だから夜空君は友達やない。現在進行形でな」
その一言に尽きる。
神無月夜空は時坂京の友達ではない。
その直後にまるでタイムアップを告げるタイマーのように4限目の開始のチャイムが鳴った。
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