紅色 ~傷~ 29

さも主人公達のように、さも正義のヒーローのように、さも敵にさらわれたお姫様を救いに来た物語の中の王子様のように──そして、ラケット・テニスボールを持った少年がいた。

不良三人組に絡まれた私、焔璃依の自分勝手でどうしようもなく他人からしたらはた迷惑な不運でしかない『不良三人組から助けてください』と言う祈りが懇願が神に通じて彼を呼んだのか──だとしたら、何て彼は不運ふうんな人間なのだろうか。

どう考えても私を助けるメリットはない。

メリットなど一切なく、デメリットばかりの人を不幸にさせる爆弾だ。

彼にはメリットがあるのか?

ほむら璃依りよを助けるメリットがもしかすると天文学的確率で彼と私には接点があって、私が忘れているだけで彼は私のことを知っている、何て希望観測よりタチが悪い願望観測をこの危機的状況で思い付く辺り、案外私は肝が据わった女なのかもしれない。

肝が据わった女(笑)の私を助けに来たのか茶化しに来たのか、それとも、こんな妄想激しい女が妄想激しい私の祈りを笑いに来た天の使いなのか。

「オイ。テニスしろよ」と意味不明な台詞を言った彼は当然、私を囲んでいる不良三人組は怒声どせいの声を上げる。

しかし、ラケット・テニスボール──テニスボーイな彼はそんな怒声は聞く耳持たず、まるで犬がワンワン吠えるが、何と言っているのか理解不能なので敢えて無視する飼い主のように平然と静然したままテニスボールをダムダムと付きを始める。


「オイ。覚悟しろよ、この発情期はつじょうきまっしぐらの変態少年団。僕は今、イライラしているだ」


明らかに高校生より年齢が上だろう相手に彼は少し垂れた目を鋭い視線へと変え、不良三人組の一人一人に焦点しょうてんを定める。

ダムダムと鳴り響く音がより大きく更に大きく、そしてより鮮明によく聞こえる。

ボールを付く音と私の心臓の音がシンクロしたかのようにドクンドクンとはちきれんばかりに膨れ上がる。

それは期待か希望か願望か──妄想か、膨張する私の感情は──彼に向いている。

ダムダムと鳴り響く音が消えた。

右手で握ったテニスボールを彼の身長より半分高くトス上げる。


くじらさん式──!!」


ラケットを握った左手を天高く上げ、手のスナップをきかせて落ちてきたテニスボールを打つ。

高速で飛んできたテニスボールはそのまま不良三人組に当たることなく、バウンドしたがその後、急激に右方向へバウンドする(私から見たら右方向)──不良三人組の一人の顔面へと吸い込まれたかのようにめり込んだ。

また一人、また一人と、最後には不良三人組は地面に仰向けに横たわっていた。

私はてっきり打ったボールをそのまま顔面へとぶつけるのかと思っていた私の常識を飛び越えて、まさかの──、


「あれは、ツイストサー」


「違う。キックサーブ(鯨さん式)だ」


「以外にも現代っ子だった!?」


てか、今の現代っ子はやっぱりツイストサーブをキックサーブって呼ぶのかしら。

私が小さい頃は、よく外でアニメの真似をしてツイストサーブの練習をしたっけ。どうしたら、あんな風に人の顔面にめり込まるのかとか、一時熱中したわね。

結局、できなくて、焔ゾーンの方に変えたけど、まさか実際にできる人がいるなんて、世界は広いわね。

危機的状況から救ってくれた彼を『世界は広いわね』と簡単に締め括った私は、何事もなかったかのように救われた私には目も向けずに通り過ぎようとする。

オイオイ……!?

そこは、私の名前を聞いたり、「大丈夫ですか、お嬢さん」みたいなご定番な台詞があるんじゃないの!?

「助けてくれてありがとう」って素直に言おうと(普段は素直になれない私にしては珍しい)準備してたのに……。

私の希望を願望を妄想を悉く裏切ったこのに一言文句言ってやろうかと(後から考えてみたら何て逆ギレ)未だ腰が抜けて産まれたばかりの小鹿のようにぷるぷるされている足にむちを打ち無理矢理立たせる。

私より身長があった彼に見上げる体となったが、そんなことは関係なく、私は怒鳴り声で私を助けてくれた彼に向かってこう言った。



「お前の名前は!」


「……僕は神無月夜空。何処にでもいるごく普通のパンティーが大好きな絶賛発情期の一般高校生だ」






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