紅色 ~傷~ 16
カツーンカツーン。
8時35分。まだ朝と呼べる時間帯。
カツーンカツーン。
一階の廊下から見えるグラウンドには誰もいない。
誰もいない白いペンキで塗られたコンクリート製の廊下に二人の足音が鳴り響く。
片方は男。天パに近いくせっ毛のある髪質の彼。真っ白な半袖の制服の上から真っ黒なブレザーを身に纏い若干アンバランスな服装の彼。この学校では夏の制服でも冬のベストを着てもいいことになっている。
もう片方は女。『川』『海』『夜空』または『宇宙』と表現するべきか、
まるで、『
そんな彼女は
彼女の底知れない
鬼に金棒……神に神棒か。
とにかく凄い。一言で表すのは例え人気小説家にも売れっ子漫画家にも評論家にも街中で演説している政治家にも王様にも難しい難問中の難問たが、あえて、あえて他のあるだろう彼女を表す言葉をゴミ箱に捨てるという愚行した場合に出てくる言葉は──『
だが、それも仕方のないことなのかもしれない。上え上えとその価値が上がるにつれて表現する言葉は徐々に陳腐な言葉へと変わっていく。「凄い」「素晴らしい」「美味しい」「嬉しい」「楽しい」とこの言葉しか出てこないと思わせるのが極上のそれも最高質のものなのだから。
それに比べて、女神に匹敵するであろう彼女の隣を
「(だから、早く教室に行きたい。神愛さんが嫌いとか苦手とか気に入らないとかそんな感情はないけど、こっちのライフという名の精神ゲージがみるみるうちに赤ゲージまで減っているんだよな……)」
ここでため息なんて吐いたら神愛さんに気を
隣で今も笑顔で歩いている神愛さんには悪いけど本当に悪いけど早く遅刻報告書を先生から受け取って教室に行きたい。
こっちは階段での会話とか何やらで足がぷるぷると産まれたての小鹿みたいに足がならないように必死に平静を
僕なんて神愛さんに心配してもらおうだなんて
「(そうだ。僕なんて神愛さんと比べたらゴミ虫……神様とGくらいの差がある。きっとこの日が僕の人生の中で一番の幸福な日だったんだ。ハッハッハ!間違いない。神無月君は嘘をつかない)」
自虐めいたことを自分に言っていると、
「着いたよ神無月君」
可愛いらしい綺麗で耳元にスゥーと入ってくる夏風の如く天使の声が聞こえた。
「そうですね。なら、早く報告書を受け取って教室に行きましょう。流石に神愛さんがこんな時間まで遅れていると学校全体が大騒ぎになってしまいますし」
「大袈裟だよ」
……割とマジなんだけどな……いやホント。
くすくすと笑っているが、神愛さんはもうちょっと自分の評価を上げた方がいいのでは?今の1万倍くらいにまで。
それにしてもやっぱり神愛さんは可愛い。綺麗だ。昨日見たアニメに登場する
僕に活発な妹が言うときっと「えぇ〜!夜空お前二次元を超えるモノホンの美少女を見つけた?それに話した?ふざけんな!アタシでさえまだこの目でモノホンのthe 美少女に会ったことないのに!マジでfuck!夜空お前はモノホンのfuckだー!!」と八つ当たりしていたに違いない。
「……中から聞き覚えのない男性の声が聞こえませんか神愛さん?」
静まり返った廊下には生徒指導室の中の声が僅かだが漏れていた。
聞こえてくる声は僕が今までこの学校で聞き覚えのない声だった。
誰だ?新しい先生か?それとも、漫画や小説みたいな季節外れの転校生か?二次元的な思考を働かせていると、神愛さんが「あぁ~」と口に手を当てていた。
神愛さんは知っているだろうか?
「……多分、
配達員?この学校にそれも生徒指導室に直接来るのか配達員が?聞こえてくる声は言い合いのようにも聞こえるけど……。何の荷物を運んでいるだろう?
「中に入ってみたらわかるよ」
そう言って生徒指導室の扉を開けようとした時──眼鏡をかけた執事服を着た一人の男性が勢いよく扉を開けた。
「誰だ、お前ら?」
この時僕はこの人口都市の
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