紅色 ~傷~1
僕は起きる。
僕は着替える。
僕は食べる。
僕は出る。
僕は漕ぐ。
僕は上る
──そして、僕は彼女と出逢う。
劇的的でも悲劇的でも喜劇的、そんなドラマチックな登場ではなかったけど、息を吸うように当たり前に僕は出逢った。
僕にとっては刺激的で感動的で、僕のごく普通の日常が粉砕する出逢いであり、『
ここから僕の物語は動き出す。
世界を彩る一つの色として。
*
「
活気のある声で僕を呼ぶ。
僕は振り向き、挨拶をする。
そこには茶髪に染め、如何にも高校生らしいと言えば高校生らしい僕の高校からの友人である
「おはよう」
この友人は何を朝からテンション下げ気味なんだ?葉柱は寝惚けているのかと訝しげな視線を送る。
「なんだなんだ。モチっと元気出せよ。朝からそのテンションだと午後からはもっと元気ないんじゃないか?」
「いや、そんなことないよ。僕はこの通り元気だよ。今日は寝不足でちょっと眠いんだ」
「ん〜そうか。なら仕方ないな。オレも昨日遅くまでゲーム攻略してたからな〜。わかるぞその気持ち」
葉柱はうんうんと何度も頷く。
僕は何のゲーム攻略をプレイしていたのか想像がつき、苦笑する。
葉柱がプレイするゲームは大体決まっているし、この前もそのゲームに出てくるヒロインについて熱く語っていた。
「また、エロゲか?」
葉柱が良くプレイするゲームは恋愛ゲーム。
俗に言う、エロゲである。
僕もゲームをする方だが、やるゲームはほとんどがバドル系ファンタジーばかりで、そっち方面のジャンルはまだ手を出していない。
そもそも17歳の身でありながらどうやってエロゲを買っているのかと僕は不思議に思う。
果柱はギクッと顔を引き攣らせ、目を金魚のように泳がせる。
「べ、別にエロゲじゃないし〜。恋愛ゲームだし〜。18禁じゃないし〜。健全だし〜」
口笛を吹いてキョロキョロと辺りを見回す標準が定まらないのか、何度も僕と目が合う。
ホントに嘘が下手だなと呆れる一方で葉柱らしいと僕は思った。
わかりやすい人間は好きだけど。
僕の妹もわかりやすい人間ではあるけれど、葉柱に比べればまだわかりにくい。
「でも、ほどほどにしとけよ。僕はエロゲはやった事ないから一概に言えないけど、世間ではエロゲって軽蔑される物らしいから。まぁ、僕も一度はプレイしてみたいけど」
実際、クラス内でエロゲをやっているとクラスの女子にバレた男子がその後、軽蔑された目線を送られていた。
昼休み、その男子生徒は居心地悪そうに項垂れたまま一人屋上に行った。
まぁ、そうなるわな。
僕なら家へ帰ってもことあるごとにフラッシュバックして悶えているだろう。
葉柱も「わかってるよ」と、苦笑いを浮かべて言う。
……ホントかよ。
「ま、エロゲの話は止めよう。別の面白い話をしようではないか。例えば、この間動物で生まれた馬の馬王君とか、新しく登場したお天お姉さんのあのビューテフォーな生足とか」
色々と会話に悩む話題だな。
話題を変えたくて逸らしたのに、余計におかしな話題になりつつある。
誰だよ、エロゲの話しを止めようと言ってきたのは。
……僕からか。
「……面白い話って、僕には無いけど……」
悲しい事も感動した事も、色々。
それらが僕を避けるように流れる。
まるで、僕にはその資格が無い、とそう言っているみたいに。
この街に来て大体1年半ぐらい経っただろうか?まだまだこの街に馴れてはいないけど、昔夢見た非日常は僕の前には現れてはいなかった。
朝、彼女と出逢うまでは────
「ん〜。面白い話面白い話……ぶつぶつ」
って、ないのかよ……!?
さっきの馬王とかお天お姉さんの生足の話しはどこいった!?
自分から言っておきながら中断するのか。
それとクネクネ揺らす動きがとてもキモイから止めて欲しい。
葉柱は僕と違って明るいし、活発だし、コミニュケーション能力も高い。
僕はそんな葉柱を尊敬している半分、羨ましく思っていた。
葉柱はこの街に溶け込んでいる、街の波に街の風景に定着している。
僕も、そんな風になれたら……な、と密かに思い馳せていることは内緒だが。
果柱はポンッと手を叩いて、
「……そうだ!神無月!」
果柱は僕の机を両手で押して、僕の方へと前のめりになる。
近い近い!息がかかってるかかってる!
僕は慌てて果柱に訊く。
「って、な、何……?」
果柱は笑顔で意気揚々と言う。
僕には決してできない、しようとも思わない笑顔で、
「好きな奴いるか?」
その日、『
今まで過ごしてきたごく普通の日常が崩壊させ続ける毒とも知らずに──
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