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「お待たせいたしました」

 俺がどうにかこの二人に接点を作るとしても、これくらいしか出来ない訳で。

「マンハッタンでございます」

 あえてサーブせずに、こちらまで取りに来てもらう、という荒業。普通お客様を動かすなんてことはしてはいけないけれど、もしかしたら、というおじさんのお節介。

 赤いカクテルの入ったグラスを二つ並べる。ひとつは多喜さんの目の前に置いた。もう一つは女性に見えるように。

それに気づいた女性はこちらにやって来る。俺はにこやかに微笑むだけだ。

「わぁ、美味しそう」

「ありがとうございます」

「チェリーも入ってる」

「お好きなんですか?」

「はい、大好きで」

「そう、それは良かったです。多喜さんは」

 まさか自分の名前が呼ばれるとは思っていなかった多喜さんは俯いていた顔を驚いたように上げた。

「え」

「多喜さんもチェリー、お好きなんですか」

「え、あ」

 困った、と顔に書いてあるがとりあえず無視。頑張れ、多喜さん。

「はい」

「チェリー、美味しいですよね」

「は、はい。美味しいです」

「よくここでお酒飲まれるんですか?」

「は、い」

「わぁ、素敵ですね」

 おいおい、その素敵は一人でバーで飲む素敵なのか、俺の店が素敵なのかどっちだい。なんて、まぁどうでもいいか。

「ここのお酒は美味しいので」

 多喜さんが美味しいって言ってくれるなら。

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