木谷彩

1997/12/16

<i>そう、気付いたら、なんだかお腹に大きな穴が空いていたんだ。

恐ろしいほど真っ黒くて、なんにも見えない闇に包まれた空洞が。

まだ、穴が空いているだけならいいよ。

その穴は、まるでブラックホールのように、僕の心と、体と、そしてすべてのものを吸い込んでいくんだ。

しゅるしゅるっ、しゅるしゅるってね。

考えてもごらんよ、自分のお腹に空いた穴に、自分が吸い込まれていくんだぜ。</i>


気付いたら、そんなイメージが頭のなかいっぱいに広がっていて、ぼくはひざを抱えて、ベッドで丸くなっていた。


辿り着いたさきは、小さな空間だった。

なんとなく、そこが「井戸の底」だと感じる。

暗く寒い井戸の底から、かすかに見える足下だけを見つめながら、一歩一歩階段を登る。地上は、果てしなく遠い。


たまには踊り場もあるだろう。でも、今は進むしかない。この階段は一本道なのだから。

ある日、よく晴れた青空に、にょっきりとぼくの首が地上に出ると思う。

その日はたぶん、自分にはわからないのだろう。

歩いていくあいだ、いろいろじたばたしたり、悔し涙を流したり、しきりに昔を懐かしがったり、自暴自棄になるかもしれない。そうやって、心をいじめて、いじめて、強くしていかなければならないんだろう。


<i>あなたを好きになりはじめているの。</i>


闇の中で、そんな声がかすかに聞こえた。

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木谷彩 @centaurus

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