恋愛相談

ユウ

第1話


 咲子は、鳴海を呼び出していた。

 そこは落ち着いたシックな雰囲気の喫茶店で、おしゃれなガラスのテーブルが並び、

 アールヌーボー調の椅子が収められていた。


 また、壁はガラス張りで、外の景色をよく見渡すことができる。

 外ではサラリーマン風の男性や、風船を持った子供連れでにぎわっていた。


「咲子、それでどうしたの?」


 鳴海は心配そうに咲子に尋ねる。咲子が訪ねてきたとき、顔をぐしゃぐしゃにして泣いていたので、鳴海はそのことを心の底から心配していた。


「私、もうあの人のことを信じられない」


 鳴海はその言葉にゆっくりと頷き、それは咲子に限ったことじゃないとなだめるのだった。

 相変わらず、咲子の目には、涙が滲み、今にも泣きだしそうで、鳴海にはそのことが耐えられなかった。


「それで、何があったの?」


「私が作った食事、ちゃんと食べてくれないの」


 鳴海は、咲子のことをよく知っていたし、鳴海の手料理は、それほど悪いものではないことは知っていた。

 そればかりか、咲子は鳴海より、料理が得意だったのだ。


「きっともう冷めちゃったのね」


 咲子は、顔を両手で覆い、考え込むように俯いてしまう。鳴海にはその姿が痛々しく、もちろん鳴海にも経験がなかったわけではないので、その気持ちが痛いほど伝わってきた。

 そして、咲子は覆っていた手を離すと、話しにくそうに口を開くのだった。


「それに、あの人他に好きな人ができたみたい」


 鳴海は愕然とした。これはもう修復のしようがないかもしれないと、今の咲子を見ていると、鳴海の目まで潤んでくるようだった。


「もう、あきらめたほうがいいかもしれないね」


「無理よ!私にはもうあの人しかいないの」


 咲子のすごい剣幕に、驚くのは鳴海の方だった。わからないでもない、咲子もそろそろいい年だし、これから探すとなると苦労するだろうと思えた。

 鳴海は、咲子を抱きしめ、どれだけ慰めたいかわからなかった。


「咲子、気持ちはわからないでもないけど、可能性は薄いと思うよ」


「ごめんね、咲子、私何もできなくて」


 そして、咲子はまた顔を覆い、首を振りながら泣き出してしまうのだった。鳴海はたまらず、立ち上がり咲子の背をさすったり頭を撫でたりするのだけど、咲子が泣き止む様子はなかった。

 困り果てた鳴海は、咲子にその人のことを聞いてみることにした。


「咲子、その人何か言ってなかった?」


 咲子は、泣きすすりながら、ほんとに消え入りそうな声でこういうのだった。


「ワン」


「え?……い、ぬ……」


 鳴海は咲子に殺意すら覚えるのだった――――

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恋愛相談 ユウ @yuu_x001

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