アナザーヒロインズ編
19話 面談
雪も降り止んだ月曜日。積もりに積もった雪は次第に解け、歩くには不便ではなくなってきていた。
今日も刀薙切に腕を引かれて学校に向かい、校門をくぐる。
この少女についても後々調べなければならないだろう。生徒会長を任じられているからには、それなりの理由がある筈だ。
しかし、今日探るべきはセンセイ及び伊草の二人だと決めている。用事があると言って駆け出していった刀薙切を見送って、帝は下駄箱へと。
「よう、九条」
「ん? ああ、桐原先輩、おはようございます」
靴を履き替えたところで名前を呼ばれて振り返る。その先にはダウンジャケットに身を包んだ桐原が手を振っていた。
小走りに桐原の隣に並び、二人揃って中央階段へと向かう。二人の教室の位置的に、その階段が一番効率のいいルートなのだ。
「今日はどうするんだ?」
「見つけた方から、でしょうね。先週は二人とも休んでいたようだし、この世界で俺と接点があったとも限らない。慎重にいきますよ」
「私も出来ることはやるつもりだが、あまり期待はしないでくれ。今日の日課的に一日体育館にいなければならなさそうだ」
「進路についての学年集会でしたっけ? まあ、俺がやると言い出した手前、先輩に頼るつもりもないですよ」
「それはそれで寂しいな。まあ、無理は禁物だぞ」
学年で階が異なるためそこで別れて帝は自身のクラスの教室に入る。嫌な注目の視線が露骨に集まり、しかしそのくらい元の世界で慣れているため平然と席につく。
そこへ、朝早く来て換気をしていた担任教師の小鳥遊がやって来た。
「九条、今日の昼休み個人面談、いいか」
「ええ、まあ構いませんが」
個人面談、そんなものもあった。確かにちょうどこの時期に行われていたことを朧気ながら覚えている。
「それと、悪いんだが今日は俺は昼から予定が入っていてな、代わりの先生にしてもらうことになるのでよろしくな」
「分かりました、で何処に行けばいいんですか?」
「職員室の隣の面談室が空いているらしいからそこに行ってくれ。悪いな」
悪戯っぽく笑っている担任教師に、それについて何か不満を抱く道理もなく帝はこれからの事に思いを巡らせる。
・・・・・・これで昼は潰れた。他の時間といえば放課後か授業合間、いずれにせよそれだけあれば十分だろう。この学校は規模こそデカいが、ひとつの学年に集約すれば捜索範囲は存外狭い。
朝のこの時間に動いてもよかったが、教室に向かう他の生徒と逆行して歩き回るのはそれはそれで悪目立ちしてしまう。
今現在、自分の学校での評価は自分でも想像し得ないくらい可笑しな方向に傾いている。あのデータベースが健在なら自分が妖精師であることもバレている可能性が高い。不用意なことをして、刀薙切を始めとする学園側の人間に警戒されては元も子もない。
制限ある状況下で、未だ未知数に満ちた世界を解き明かすことを用意と捉えられるほど、帝自身、己の世界が広いとは思っていない。
★ ☆ ★
二度目の授業を終えて、昼休みに面談室を訪れた帝はノックをして反応がなかったことに訝しげに眉根を寄せた。
指定された時間の五分前、大抵この時間にはここ、咲敷学園の教師は先んじて教室で生徒を待っている。まあ、それも例外はあるだろうと納得して、面談室に入る。
前に来た最後の記憶はかなり、昔。並行世界のようなこの世界においても、この部屋の持つ独特な冷たさは変わりがない。
それは進路という高校生の誰もが日常生活のどこかで考えている論題を具体的に扱おうとしているからかもしれないし、この殺風景な内装が冬の寒さと相成ってそう見せているのかもしれない。
部屋の中央にポツンと置かれた向かい合う二つの机、そのボロい方、必然的に生徒用とされている方に座って、教師の到着を待つ。
時計の針が秒を刻むチクタクという音が狭い空間に反響しては消えてゆく。待てど暮らせど、そう長い時間を待ったつもりもないが、流石に遅すぎやしないか。
去年も同じように進路についての面談は行われたが、その時俺はなんと答えただろう。元の世界ではそれなりに成績は優秀だった。恐らく有名どころの名門大学を答えて教師を喜ばせて終えた、気がする。
それでは今日はなんと答えるべきか。この世界での俺の成績は冗談とか言うレベルではない程不振のようだし、それを考慮して答えを変えることも求められるであろう。
一人の空間で欠伸をして、少し伸びをした時にドアノブを捻る音が聞こえた。
「あ〜、悪いな。待たせた」
その声は、俺にとって聞き覚えのありすぎる、そして俺が一度も聞いたことのないような声であった。
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