第10回 パープルハートの憂鬱

三日前に古巣団体へ「里帰り」したばかりのまなせに再び「星の巡り会わせ」が訪れる。先輩である彩羽匠(マーベラス)との一騎打ちだ。様々な団体を流浪しガン☆プロへと辿り着いたまなせは、この試合で彩羽に対しを見せなければならない。


しかし現実は残酷だ。これまでの経験や練習量の差がそのまま試合に表れてしまっているからだ。


《ホームリング》で迎え撃つ有利な立場であるはずのまなせが、外敵エネミーの彩羽を前に成す術がないのだ。先輩後輩という立場以前に自身の気の弱さ・優しさが試合に出てしまうまなせが、己の強さに絶対的自身を持つ彩羽に勝つのは容易ではない。


序盤は力比べや蹴り合いなど、互角のようにみえていた試合だったが、彩羽が逆エビ固めでまなせの腰へ攻撃を絞ってからは、みるみるうちに動きが鈍くなり技も単発でしか決まらなくなる。一方の彩羽は武器である重い蹴りを武器に試合を組み立てていき、サソリ固めやトップロープからのスワントーンボムなど彼女自身の技のレパートリーを披露し観客を魅了していく。こうなるとリングの中のは誰か一目瞭然である。


だがまなせも、主戦場であるガン☆プロのリングで無様な姿は見せられない、少なくとも先輩・彩羽匠の前では。至近距離からの頭突きやラリアットで一矢報いるも後が続かない。エルボー攻撃にも腰に力が入らず、腕を振って当てているだけなのでまるで効果がない。ないない尽くしな彼女に今あるのは意地だけだ。だがそんなまなせの頑張りを打ち砕くかのように、彩羽が最高のフィニッシャーである師匠・長与直伝のランニングスリーで試合を決めるのであった。


はっきり言ってまなせの完敗だろう。だがそれは試合動画を通して、冷静な目で見たからであって、もし会場で生観戦していたらまた感じ方は違うかもしれない。それでも彼女は終始余裕そうだった彩羽の表情を、崩す事が出来なければ今後も勝てっこないのは間違いない。


覚醒せよ、まなせゆうな!



10.6 ガンバレ☆プロレス

BAD COMMUNICATION 2020

東京・後楽園ホール


第三試合 ガンプロで巡り合う星の宿命!(30分1本勝負)

○彩羽匠(11分56秒、片エビ固め)まなせゆうな●

※ランニングスリー

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