ギャンブルドクターを見極めろ

ちびまるフォイ

あなたの帰りを待っている妻がいるんだ!!

盲腸の手術が必要ということで、

異常に安いのに名医がそろっていると噂の病院にやってきた。


手術の手はずを整えると白衣を着た医者がずらりと横に並んだ。


「では手術を始めます」

「始めます」

「始めます」

「始めちゃいます」


「あの、多くないですか?」


「うちはギャンブル病院です。

 この医者の中には超腕利きのドクターもいれば

 とんだポンコツも混ざっています。料金はどちらも同じ」


「誰を選ぶかはあなたの自由です」


「ええええ!?」


白衣を着てマスクをつけていると、みんな同じ顔に見える。

きっとこの中にテレビでも話題の名医が混じっているはずだろう。

ダメ医者を選んでしまわないようにしないと。


「そうだ! 今からテストします!!

 俺がいう質問に答えていってください」


スマホを持ち出すと、医学の問題を検索して質問していった。

これに一番答えられた人間こそ執刀医にふさわしいはず。


「決めました! あなたにします!」


「お任せください」


テスト終了後、誰よりも早く回答した医者にお願いした。

これなら安心だろう。




術後、体の中の写真を撮影すると患部がバリバリ現役で残ったままだった。


「これ再手術ですね」


「なんでだよ!? ちゃんと手術したんだろう!?」


「あなたが選んだのは医学学校を卒業したばかりのぺーぺーです。

 腕利きの医者よりも医学知識は勉強したてで答えるの早かったってだけです」


「ふざけんな! こちとら帰りを待ってる美人な妻もいるのに!!」


「再手術しますか?」


「当たり前だろ!」


再び白衣を着た医者たちがずらり一列に並んだ。

派手に手術ミスをした後だというのに、もう自分の執刀医がわからない。


「今度こそちゃんとした医者を選ばないとな……。

 そうだ! みなさんの手術経歴を教えてください!!」


なんだ最初からこうしておけばよかった。

医者への質問は自由なので、それぞれの医者の手術経歴を聞いていった。


「私はかつて天皇の手術も担当したことがあります」


「て、ててて、天皇!?」


その中でも経歴がばつぐんによかった医者に目がとまる。

天皇レベルの手術を依頼されるほどの腕前なら信頼できるだろう。


「あなたに再手術をお願いします!!」


「かしこまりました」


安心して医者に身をゆだねた。





術後、患部の近くにある問題ない場所が切られていた。


「あの……どういうことなんですかね」


「簡単に言うと、手術ミスです」


「うおおおい! あんた天皇の手術まかされた腕利きだろ!?

 なんで患部見間違えるんだよ!!」


「いやぁ、天皇の手術を任されたのは今から50年前の話ですからねぇ。

 最近は老眼がますます進んで困っちゃいます」


おじいちゃん医師は恥ずかしそうに頭をかいた。

再び医者ギャンブルに負けてしまった。


1回の手術費が安いと言っても何度も手術していたらかえって損している。


「なんてことだ……俺には不相応なほど美人の妻がいるのに!」


「やたら言ってきますねそれ」


「ちょっと変わった癖がありますがそこもまた愛おしい!!」


「嫁自慢聞いてないです」


「再手術します!! 今度こそお願いします!!」


ふたたび医者たちがずらりと並ぶ。

知識だけでも、経歴だけでもダメとなるともう打つ手はない。


ありったけの金を出して医者たちの前につきつけた。


「俺を執刀した人にはこの金をやる!! さぁ誰だ!?」


医者たちはわっと目の色を変えた。

はちきれんばかりに手を上げて猛烈アピールを繰り返す。


その中で、お金にまるで関心のなかった1人を選んだ。


「あなたが俺の執刀医になってください」


「それはどうして?」


「腕利きであれば仕事はどんどん舞い込むでしょう。

 だからお金にも困ってないと思ったんです」


「わかりました、手術しましょう」


男は目の下にクマを作り、髪の毛はぼさぼさで、普通では選ばないような悪印象の医者だった。




術後、跡も残さない完璧な仕事で盲腸は根治した。


「いやぁ、先生は本物だったんですね!!

 医者とのギャンブルに勝ったんだ!」


「今はお金よりも休みが欲しいですよ……」


「先生ありがとうございました。退院してもいいですか?」


「ええ、外で奥さんがお待ちですよ」


その言葉を聞いて、病院服からすぐに着替えて外に出た。

病院の外には顔と体を隠した女たちが横一列に並んでいる。


「こ、これは……?」


「あなたの妻は誰でしょう?

 この中には本当の妻もいれば、見知らぬ他人もいます。

 あなた自慢の妻を探すくらい愛が深い夫ならできるでしょう」


「ギャンブルというわけか……!」


自分にはもったいないほどの美人な妻。それを見極める方法は1つ。

俺はふたたびありったけのお金を見せつけた。


「君が私の妻だ!!」


「大正解!! さすがね!!」



真っ先にお金にすがりついた女を俺は迷わず指名した。


「あなた愛しているわ」


妻は札束を「あなた」と呼び、俺を「財布」と呼ぶ癖がある。

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