第29話 魔法研究所での危機

 魔法特区の奥にある神殿を模した総督府の中にケエル総督の魔法研究所がある。魔法特区のシンボルの中に、研究所があるのは極当たり前に思える。しかし、ケエル総督からすると、身近なところにおいておかないと、ここで大勢の者が死んでしまう。ケエルの思惑とは別に、オースの(実際はエレン中将)指示で連れてこられた魔女魔法使い候補が無理やりアイテムで死亡させられる不幸が絶えなくなってしまうからだ。


 ナオミの名前が魔法研究所に挙がってきたのを受け、ケエル総督は、対応を迫られた。ミレニアムホースの情報は、軍内部まで流れることになっているのだからしかたない。これは、オースの指示と言うより、国であり軍の体質なのだ。元兵器開発部長だった、軍で女帝と影で囁かれているエレン・オルフ中将が大参謀長になってから、魔法を軍事に使う傾向は、ひどくなっている。


 ケエルは、ナオミたちの事を気遣った。ナオミたちが来て、ガバン家が少し明るくなったのは事実で、母親と妹などは喜んでいる、そういう立場を維持させてやりたいと個人的に思う。


 この魔法研究所は、3つの大きな枠で研究が、なされている。魔女、魔法使いの育成。アイテムの活用法。そして、遺跡探索だ。

 アイテムによるマジックウエポン開発は、兵器開発部になる。この中で気になるのは、遺跡の探索だ。土の遺跡探査は地下30階までで、もう17年も止まっている。そのため、今ここで行われている研究は、映像アイテムには、有ったが発見されていないアイテムの研究や新たな遺跡の発見が主なものになっている。

 見つかっていないオリジナルアイテムは、地下30階以後にあるとも考えられるが、全然違う観点からの報告に目が留まり気になっていた。

 ナオミの件も有る。チョッと、ナオミたちに話してみる気になったケエル総督だった。


 牧場から帰った次の日、ケエル総督に呼ばれたゴウたち4人は、魔法特区の総督府にいた。神殿には通されず、総督オフィスの別室に通された。今日は、魔法研究所を案内してくれるということだった。なぜか落ち着かないゴウに事情を聞きたかったが、もう中に入ってしまったのだから、聞ける状態にはない。ケエル総督を待つことになった。

 しかし、ケエル総督は多忙で、替わりにメインが案内することになった。メインは、ケルビム・イー・シュタット諜報部長の息子で、現在は、総督の側近である。マークたちは、一泊した牧場で会い面識がある。マークは、酔ってメインに絡んでいる。それとは別に二人は、一度けんかをした。仲が悪い二人だ。メインは、そのことを表情に出さずマークたちに対応した。


「今日行くところは、土の遺跡探索室です。土の遺跡探索は、もう、17年止まっています。30階越えが、できる冒険者がいないからです。それで、今やっている研究は、映像アイテムには有りましたが、出土しなかったアイテムの研究などが主な仕事です」


 魔法研究所は、総督府の地下にある。地下3階が遺跡探査の階だ。そこには、金星から買った映像アイテムもある。また、今まで研究された資料の、ライブラリーになっている。魔女や魔法使いの資料や研究報告、アイテムの研究開発資料などである。


「遺跡探査が行われていたときは、ここが、一番活気が有ったのです。今は、資料室のような所になっています」

 遺跡勉強中のナオミにとって一番興味があるところだ。金星の映像アイテムも気になる。

「今日、皆さんに見せる資料は、ナオミさんがミレニアムホースで見た土の遺跡の代表的アイテムであった活性石と霊魂石の資料です。それ以外のものは、総督の許可がない限り、見ることは出来ません。よろしいですね」


 メインに案内されて入った閲覧室に、客は、誰もいなかった。資料は、資料室の人が、別室から待って来てくれた。久々のお客なのだろう。魔法研究所の所長でありライブラリーの館長でもある、シラク・オットーが対応してくれた。まず、ムービーを見た。映像アイテムを見ることが出来る魔女魔法使いからの情報を基に作成されたムービーで、マークたちにとっては、嬉しいものだ。しかし、映像の内容は、あまり見たいという類のものではなかった。


 霊魂石をかざすと、人がドンドン死んでいく映像だった。唯一、活性石を持った者が生き残る。また、そのような映像が続いていく。大量虐殺しているのではなく、死期の近い人の要望でやっていた事だとシラクが、説明してくれた。永遠と続くかと思われた死の行軍だったが、あるときパッと霊魂石がはじけ、消えてしまった。これは、メインが説明してくれた。

「霊魂石の2ndは、人の記憶を記録し集めるものだと分かっています。ここでも試したのですが、試したものが死んだので、これを何に使うのかまでは、解っていません」


 次に活性石の映像になった。活性石は、植物の成長促進に使われていた映像で、KP2といわれる、ケレスで発見されたリンドウのような花を咲かせた植物の成長促進に使っている映像だった。KP2は、土の遺跡から出たもので、毒消し効果が有ることで良く知られている。この草も光鱗水の中で繁殖していた。その、茎の辺りに活性石の2ndが置かれているものだった。

「綺麗ですね」

 ナオミは、花に対する感想を言ったに過ぎない。しかしこの花は、猛毒で、茎や根がその毒消し効果を持っている。この遺跡植物は、国外持ち出し禁止植物だ。種子を育てた研究者は、まだこの花の研究をしている。目的は軍事用なのだろう事が予想された。ぜひそれを打ち消す解毒を手に入れたいと3人は思った。


 映像が一通り終わり、メインが研究員に資料を持ってこさせた。

「それでは、研究資料をお読みください。この端末でどうぞ」


 ナオミ達が使っているブックより一回り大きな端末を渡された。資料の内容を簡潔に言うと、この二つの石が、地球に有るのではないかという可能性を示したものだ。場所は日本だ。日本の神話に死人と話をした人の話がでてきた。また、見えない人の思いに助けられた話などをつづったものだった。しかし、このような話は、世界中にある。研究者は、日本が好きだったようだ。その資料の最終ページの付録には、箇条書きで同じような内容の記事を列挙していた。

 ナオミは研究員に質問していいですかと許可を貰った。資料を持ってきた研究員は、是非にという感じでナオミに質問を促した。

「この研究者はどうして、日本に興味を持ったのですか」

「神話は、日本が一番多かったからです。世界中で一番神と名が付く記事を多く残しています。しかし統計の門題だけでは有りません。霊魂石にしっくり来るのです。死んだ人の、思いの、時の長さもそうです」

「これは願望の資料になりますね。検証されました?」

「はあ――まだです。私達は、ここを動けませんから」


 ゴウは、身構えた。ここまで見せられたのだ。ケエル総督が次に何を言うか想像がつく。


 ナオミは、アランを見た。どう見ても、資料を眺めているだけだ。マークは、傍から見るとじっと資料を見ているように見える。しかし、ナオミの見立てだと、余所見をしてそわそわしている状態だ。


 二人に、次のアクションを期待するのは無理ね。でも面白そう


 ナオミは、この研究の検証依頼を受けたいと思った。何でも屋の仕事だ。地球に土のエンブレムに似た絵や紋様は多い。具体的には、ここを糸口にするのがよいだろうと考えた。土のエンブレムは、地中に根が張ったようなレリーフで、根が、生命の元と成長、闇を暗示している。


 このときアランは、実際この資料を眺めていただけだ。それと言うのも、アリスが読んでいたからだ。アリスは、声を出して読み、自分の端末に音声入力した。

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