第19話 ケエル総督
中央通りの突き当たりに白い神殿を模した建物がある。ゴウは、ここを目指していた。マークは、魔法時代で勉強した見覚えのある白い建物を眺めた。ゴウが向かっている先だ。魔法特区って言うぐらいだからな。と、思ったが、ここに入ると分かってからナオミは、青ざめた顔をしている。もう、衛士が目の前にいた。
ゴウが衛士に声を掛けると、入る事が許された。建物に入ってからゴウが打ち明けた。
「これからケエル総督に会いに行く。オレのところに、助手ができたら会わせる約束なんだ。お前らに言うと、もめそうだから・ナ」
ゴウさん、肝が座りすぎだ
そう思ったが、もう、建物の中に入った後だ。行くしかない。
衛士の先導で、建物の中に入ると、入り口近くの半透明な壁が目に飛び込んできた。壁の中は光っている。光鱗水だ、それも大量の。マークとナオミは、圧倒的な金色の輝きに息を呑んだ。神殿は、光鱗水のプールのようになっていた。この神殿にケエル総督が居た。
この神殿の中に入るには、まず5階まで上がり、そこから階段で降りていくことになる。メインの柱がスロープのようになっていて、ケエル総督の玉座を見下ろす格好になる。総督はそういうことにこだわらない人のようだ。
「お前ら、この国の明主だ。ひれ伏すぞ」
4人は、片膝をつきケエル総督に謁見した。
「また、総督の前に参上できることを嬉しく思います」ゴウが、また会えたことの喜びを語った。
ケエル総督は「ゴウさん来ましたね。楽にして下さい」と、挨拶を返した。
一同が顔を上げ、ケエル総督を見た。総督は、紫衣を着ていた。
「女性がいるでは有りませんか。皆さんに椅子を出して差し上げなさい」
侍従の者が、椅子を出してくれたので、ナオミ達は、楽な形で謁見を許された。
ケエル総督は、52歳だと聞いていたが、40歳ぐらいにしか見えない。にこにことゴウに会えたことを喜んでいた。
「また、新しい助手さんですね。前の方は、どうされました」
「仕事のトラブルで、宇宙パトロールに捕まってから、しばらくして辞めました」
「そうですか、なかなか新しい人が育ちませんね。この方たちはどうです」
「希望の子達です」
「それは期待が持てますね」
ケエル総督とゴウが、形式っぽい挨拶をしている中。アランは、一人落ち着かなかった。神殿に入ってから、クリスタルソードが騒ぐのだ。この光鱗水のプールのせいだろうか、以前、姉との特訓で入った神殿では感じられなかったものだ。
「皆さん、お名前を聞かせてください」
ナオミは、マークとアランに目配せした。こういう時、ケレスでは、目上の者に呼んで貰いたい略式の名前だけを言えばいい。
「ナオミです」
マークは、ナオミの目配せを察した。
「マークです」
しかしアランは、厳しい祖父の教えのせいか、剣が騒いでいるのに気を取られたせいなのか、ナオミとマークの目配せが、効かなかった。
「アラン・バークマンです」
「そうですか、勇次郎は、元気にしていますか」
「祖父は、2年前に他界しました」
「残念です。アリスは、どうです。元気ですか」
このときアランは、自分が大失敗をしたことに気がついた。マークは、武器の一つも持っていない自分を悔やんだ。ナオミにいたっては、しばらく、ケレスに滞在することになるだろうと、覚悟を決めた。黙っているアランを まずいと思ったのか、代わりにゴウが、答弁した。
「元気にしています。最近は、姉弟で、宇宙を飛び回っています」
ケエル総督は、ニコニコした。
「それは、うらやましい。私は、なかなか遊行できないでいます」
「エゴラスとサテに玉行を仰がすよう、進言しましょうか?」
「それには及びません、私が出て行けばよいだけですから」
「差し出がましいことを申し上げました」
アランは、心臓をバクバクさせている。顔も下を向いたままだ。そんなアランにケエル総督が声を掛けた。
「アランさんは、どこまでいきました?」
アランは驚き、姉の居場所だと勘違いして話せないでいる。
「宮本流の段位ですよ」
「アラン!」と、隣のゴウがつつく。アランは、正気を取り戻した。
「今は、私が師範です」
「そうなりましたか、私も宮本流です。勇次郎が、ここに滞在していたときに、少し教えてもらいました。どうです、一度手合わせ願えませんか」
アランは、宮本流と聞いて、避ける事が出きなくなった。
「ケエル総督がお望みなら」
「それは楽しみです。私のは、我流になっています。ずっと気にしていましたから。手合わせは、一度、私の部屋で休んでからでいいでしょう。もう一つ気になることもありますし」
やっと謁見が終わり別室に通されることになった。どうやら、捕まることはなさそうだ。マークとナオミは、ホッと胸をなでおろした。
一行は、5階にある総督のオフィスに入った。その中でも、広い別室に通された。ケエル総督の部屋は、古の映像アイテムに出てくる神官の部屋のようにシンプルだ。総督には、弱いがテレパス能力もあり、周りにそれを感じることができる付き人を多く従えている。
今日の総督は、とても機嫌がよい。普段は誰にも飲ませない総督が愛飲している紅茶が出された。
「覚醒のバラを紅茶にしたものです。気に入りましたか」
「お気に召されてたんですね光栄です」
三人はゴウを睨んだ。
「オレが、届けたんだ」と、自慢顔だ。
ここにFP3は、有るじゃない。じゃあ何で、コロニー船ジョカはケレスに襲われたのよ。後で、問いただしてやる。と、ナオミは思った。ゴウは、ジョカのクルーを保護する仕事を、ナオミたちの仕事と平行させていた。
「アランさん、先ほどから、私のテンペスト(嵐の剣)が、騒がしいのです。もしかして、クリスタルソードを携帯していませんか」
今日のアランは、ドキドキし通しだ。
「おいアラン」ゴウが声を掛ける。
そこにいきなりアリスがテレパシーで割り込んできた。
見せるのよアラン
姉貴!
アランは、姉の声を聞き、クリスタルソードを出してケエル総督に見せた。
「これには、実弾が有りませんね」
ケエル総督は、慣れた手つきで剣を触っている。
「まだ発見されていません。光の遺跡にあるそうです。発掘の許可が下りれば、探しに行くつもりです」
「それでは、時間が掛かりすぎる。あそこは、遺跡の中でも難所中の難所ですから。この溝にあった実弾を作って差し上げましょう」
そう言うと、侍従の者が、ケエル総督のところに来て、クリスタルソードを持って行ってしまった。
「ここで、寸法を測って行きなさい。後で、実弾を差し上げます。ところで、光刃は、発動しましたか」
「水のクリスタルだけです。風と火のクリスタルはついていませんから」
「それは凄い、後で見せてください。私のテンペストも見せます。風のクリスタルのことは、少し調べさせましょう」
こう言うと、また、侍従のものが、席を離れて行った。マークとナオミは、不思議そうにそれを見送る。アランは、姉の事がばれ、剣まで取られたことに動揺した。
「ゴウさんが、女の人を連れてくるのは珍しい。この人は魔女ですか?」
「残念ながら。彼女は、映像アイテムが見られますし、情報処理能力にも優れていますが、魔女の傾向はありません」と、アイテム屋でも言うことにしていた話を打ち合わせ通りに答える。
「残念です。私には、パートナーがいません。ゴウさんが、見つけてくれないからです」
「こればっかりは・・・」
「ハハ、冗談ですよ。最近知り合った人に、気になる人がいます。そのうち紹介しましょう」
侍従が、クリスタルソードの3Dスキャンを終えて戻ってきた。アランは、侍従からクリスタルソードを受け取った。クリスタルソードが戻ったので一安心した。
「では、神殿に戻りましょう」
アランが良く見ると、柄の端の部分が、少し削れていた。
アランは、総督を見た。
「貴方のアイテムのサンプルを取らせていただきました。光剣のレプリカは、今の技術では作れません。しかしチャンスがある時も来るでしょう。代わりに、風のクリスタルを差し上げます。その柄の傷は、光鱗水に一週間程つけると治りますよ。滞在したければ、許可しましょう」
ケエル総督は、抜け目のない方だ。三人は、ホテルではなく、総督の居城に滞在することになる。アランは、二人の顔を見て許可を貰い、総督に滞在することをお願いした。
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