第4話 何でも屋cocoro
火星で一軒だけになってしまった何でも屋の屋号はココロ。家主のゴウ、エンジニアのガンゾ、通信士のニーナ、秘書兼パイロットのミリアが従業員だ。3ヶ月前に新人のマークがこれに加わった。宇宙艇スバルは、全長55メートル。試作の移動型コロニーネビラを牽引する。今は、しし座区画あたりの島宇宙にコロニーネビラと一緒にいる。コロニーネビラは、全長555メートル。ネビラから切り離されたスバルは、宇宙最速になるだろう。
マークたちは、このスバルを借り受けに、獅子座区画に行かねばならないが、現在、惑星ケレスは、さそり座区画あたりの島宇宙を公転している。ナオミが耐えられる慣性加速Gは、2Gぐらいだ。これでは、救出に間に合わない。そこで、マークは、ガンゾに頼み、マークのメンテナンスロボットMG2にスバルを持ってこさせることにした。MG2が火星にスバルを持ってくるのに1週間、火星も、さそり座区画辺りを公転しているので、コモドールファミリーに十分追いつける。MG2は、重力ダンパーのキューブを航宇中に仕上げることになる。
早速マークは、ガンゾに連絡を取ることにした。グラッパの3階に、キンダダの事務所があり、そこの通信施設を借りる。ここには、中性子光を利用したレーザー光通信設備がある。まだ、普及しているとはいえない設備だが、ゴウが、キンダダと、いつでも通信したいと、ガンゾに設置させたものだ。中性子光は、物質を透過するし、光より早いため、気の遠くなるような距離でも、同時通話が可能だ。ほとんど、ホットライン的なものなので、通信回線を開くと、ガニメデのオフィスに直接繋がった。
「はい、ミリアです」
モニターの向こうに、秘書のミリアが出た。ココロのオフィス、ゴウの事務所だと告げないで自分の名前を名乗る。
「なんすか、ミリアさんそのかっこう」
「あら、マークじゃない。ひどいのよ、ゴウったら、又、ふらっと居なくなって、オーロラシティーの執務を全部押し付けるのよ」
「いつものことじゃないですか。その執務をしているキャリアなファッションとは、思えませんが」
「これっ!ゴシック調ファッションって言うのよ」
ゴシック調というには、胸が強調された色っぽいものだ。こんな格好をしているが、ミリアは、凄腕のパイロットである。
その会話を聞いたナオミが、ドーンとマークを横へ押しやりモニターの前に入った。
「ミリアさんカッコイー」
「あら、ありがと! もしかして、ナオミちゃん。噂は聞いてるわよ。ふふ、本当は、マークをみんなでいじめて、ナオミちゃんのこと吐かせたんだけど、本当に火星まで来ちゃったのね」
「はい、マークがお世話になってます」
「こら、ナオミ、仕事なんだぞ」
マークは仕方なくナオミと二人でモニター前に立つことにした。どうせミリアがモニターを調整してナオミも映すだろう。ナオミが、いつものようにマークの腕をとっている姿をミリアは、ほのぼのと見ている。
「私もマークと一緒に何でも屋をすることにしました」
ナオミが、嬉しそうに話す。
「あら、いいんじゃない。良かったわね、マーク」
「今回だけですよ。アウトロー連中まで味方につけて無理やり入ってきたんです」
「そう、それじゃあ、交渉成立したのね。がんばって初仕事。彼女同伴で、初仕事やるなんて、将来楽しみ」
「がんばります」
「おまえが言うな。それで、ガンゾに通信まわせますか、スバルを借りたいんです」
「ガンゾは、ネビラよ。待って、ニーナもそっちに居るから・・・・・」ミリアがニーナを呼び出す「ねっ、ナオミちゃん。ガニメデにも来て。おいしいお店紹介するわ。行きつけのブティックも」
「本当ですか。絶対行きます」
「約束よ。じゃあ、ニーナに繋ぐわ」
ナオミは、満面の笑みでミリアに手を振った。画面は切り替わり、薄い金髪で、知的そうな女性が現れた。
「ナオミさん、ニーナです。お二人のことは、ミリアから聞きました。カップルで、お仕事されるとか」
「はい」
「だから、おまえが答えるな。幼馴染ですよ。それでニーナさん、ガンゾ居ますか」
マークは、普段クールで通している。それが効かない連中がこいつらだ。
「ガンゾならそこに」
ニーナの指差す先に、海水パンツ一丁で、ぴくぴくしているガンゾが、学習ポットの横で、うつぶせに倒れていた。そのガンゾをニーナが突付く。
つんつん
「なんやニーナもう入らんで」
「ガンゾ、学習ポット完成したんですか」
ガンゾは、ココロの古参だ。ゴウと同じ40歳。ゴウはパワーグラビトンなので、見かけが30前に見えるため、マークが一番慕っているのは、この、ガンゾだ。
「マークか、死ぬかと思ったで」
「完成ですか、学習ポット」
「完成や、ニーナの設計にしては、最高の出来と違うか、あー、かったる」
「へへ」ニーナがほめられて喜んでいる。
「大丈夫ですか。その、まったくこっち見てないですけど」
「動けんのや、口動かすのも辛い。全身にダイレクトやで、シュミュレーションモードすごすぎや。おまえさんも、入るんやでー」
ニーナは、ぶつぶつ言っているガンゾを無理やりモニターに向かせナオミを紹介した。無理やりの割には膝枕している。
「イタッ、何すんねん」
「ほら、ナオミちゃん」
「ナオミです。マークがお世話になってます」
「あんさんが・・よう来た」
「居るのは火星」
「そうなんか」
「初仕事なんすが、こいつとやることになりまして・・・」
「そうなんかー」
「わたし、艦運用はまだまだなんですか、航宇と通信は自身あります」
「あのなあ、うちの操縦スタイルは、3人一組や。パイロットが、航宇運用もするんやで。通信は、艦運用と兼務や。武器コンソールいじってるやつでも見れるけど、そいつの本職は化学分析になる。まあええ、マークが教えたれ」
「了解」
「がんばります」
「それで、スバル貸してもらいたいんですけど」
「なんやてー」
「今空いてますよ」
「そやけどニーナ、わしの可愛いスバルをどうするっちゅうねん。マーク説明せい」
「エー、たぶん荷物を受け取ったら、惑星ケレスから強行脱出して、ケレスの制宇圏ぬけるかな」
「スバルって、逃げ足だけは速いから、いいとおもいます」ニーナが感想をあっけらかんとのべる。
「何で、強行脱出や。普通に出航できんのか、アホ。いたたたたた」
「筋肉痛ね」
「わかっとるわい」
ニーナが、マークに代わって話す。
「ケレスが探しているテレパス候補が、誘拐された。ケレスに入国するタイミングじゃないと誘拐犯を補足できない。誘拐された少女をケレスに引き渡される前に、奪還、敵のコモドールファミリーが、入国できたということは、ケレスにテレパス候補の情報が把握されているということ。だから逃げるしかない」
ナオミが、そうなんだーと感心してニーナの話を聞いている。
「おまえ、なんでそんなに詳しいんや」
「アリスに聞いた。この依頼、アリスの弟のアランがしたの」
「誘拐された少女は、月の子供です。重力ダンパー室に、もう一つダンパーを内包しないと逃げ切れません」
「そりゃええけど、ちゅうことは、操縦は、アランか。分かった、貸しちゃる。そやけど、アランならあれ試せ。マスメンタル使用」
マスメンタルは、パワーグラビトンのような特殊能力者。航宇図を瞬時に読み取りファイターのようにフリーハンドに宇宙艇を操縦する。
「そんなにすごいんですか、金星人」
「ちゃう、アランがすごいんや。学習モード全開で頼む」
「分かりました。それで、MG2にスバルを火星まで、届けさせてもらえます?ナオミは、長距離慣性加速G航宇に、慣れていませんから」
横でナオミが頭を下げる。
「しゃあないな。おーいMR2、今の話聞いとったかMG2に言っといてや」
ニーナが又、無理やりガンゾの顔をポット側に向ける。ガンゾのメンテナンスロボットMR2が、学習ポットの裏から、ひょっこり顔を出した。見た目、わたしはロボットですという風体のがに股で、ガンゾとまったく同じ動きをする。メンテナンスロボットは、全部で3体ある。最初に作られたのがMR2だ。最近になって作られたのが、マークのMG2とコロニーネビラの機関士、スンボクのサポートをするMS2。3体は、メモリをたまにリンクして体験を共有している。
「わかった。せやけど今の話をシュミュレーションしたら、1週間は無理やで10日掛かる。スバルで、ケレスに乗り込んだら、みんなお尋ね者や。長距離偽装したシャトル取り付けなあかん、分かるやろ」
「そや、わし、ケレスのテンベル半壊させてしもうたがな。マーク、聞いての通りや。ちょっとまっとれ」
「よろしくお願いします」
マークが頭を下げる。
「それで、ゴウは、どこにいるんです」
「そう言えば、なんか商談有るって言ってたな。どうせアリスがらみやろ。アリス追ってるんちがうか。何回振られても懲りんやっちゃで。アランが火星におるんなら、ひょっこり火星に現れるんやないか」
「了解しました。又連絡します。ニーナさんもありがとうございました」
「いえいえです。またね、ナオミちゃん」
「はい」
ナオミが、又、満面の笑みで大きく手を振った。
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