となりのおじさん
瑛子
第1話 となりのおじさん
となりのおじさんは不思議ちゃん。
今日は「なーんなーん」と呟きながら玄関を掃除してた。
白いタンクトップと茶色い腹巻き。パンツかズボンかわからないデカパンスタイル。髪の毛はレジにかざせそう。
顔は恵比須様、耳は大黒様。箒とちりとりで念入りに埃を集めてる後ろ姿はカバっぽい。
年齢不詳職業不明。
なぜ独り暮らしをしているかも不明。
なぜここに越してきたかも不明。
謎に満ちたおじさんは、近所では不思議ちゃん系スタイルを貫いていると専らの評判。
おじさん紹介を脳内で繰り広げていたところ、どうやら掃除が終わったらしい。
デカパンスタイルをパァンと平手で打って、「なーん」と一声大きく鳴いた。
謎だ、謎過ぎる。
あまりにも謎過ぎたので、通りすぎるタイミングすら許されない聖域にきた気分に陥った。
虚空をつかみながら、ぼくはあれこれ思案していると、おじさんがぼくに気づいたのかこちらをぐるんと振り向いた。
おじさんと目があった。
どうしよう、気まずい。
おじさんがこっちに近づいてくる。
どうしよう、気まずい。
おじさんはぼくに声をかける。
「なーん」
何言ってるのかさっぱりわからない。
「なーんなーん」
びくっ!
身をちぢこませ身構える。
おじさんに対する半端ない警戒心生まれまくりである。
お、おじさんの不思議ちゃん評判は半端ないんだぞう!う、宇宙人なんだろ!し、ししし正体現せだぞう!
ぼくはおじさんとの距離を少し開けた。
おじさんはそんなぼくの様子には意も介さない。にこっと笑ってどこに隠し持っていたのかが謎のツナ缶を取り出した。
かしゃとふたを開け、ことりと通路の隅に缶を置く。
「なーんなーん、なーん」
もう数度鳴いたおじさんは、そっと部屋へと戻っていった。残されたるはツナ缶。
ぼくはびくびくしながらも、鼻腔を擽るツナのいい匂いにふらりと釣られ、缶に近付きぺろと一口、食べた。
こりゃうまい!
今まで食べたことのない味だ!
我を忘れてむさぼり食った。
無我夢中すぎて、口と周りにツナがたくさんついてしまい、慌てず騒がず掬いとる。
はあぁーおいしかった!…はっ。
すっかりおじさんに懐柔されてしまって、なんだか負けた気分である。
ぐぬぬおじさんめ…やりおる…
捨て台詞もそこそこに、ぼくは満足げな表情でその場をあとにしたのであった。
続く。
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