第17話 知らなければいい真実 前編
夢幻のまち、人里には出版社が存在しており、中でも有名なのは人妖風説社である。この出版社はその名の通り、人間と妖怪が共同して本や週刊誌、新聞に広告などを作成している。
この出版社は人間と妖怪の歩み寄りの象徴でもある。難点は内容をわざと大げさにすることである。その人妖風説社にて編集長が記者に頼みごとをしようとしていた。
「オーイ恵みこっち来い仕事がある」
「なんすか、暇なんでイイですけど」
恵みと呼ばれた記者は自身の机から離れ、編集長のそばに行く。恵みは茶色の上着にベレー帽をかぶった人間の少女である。年は一五歳である。
「恵み、暗闇の森にいる吸血鬼への取材やってくれないか」
「え~、吸血鬼ですよ。しかも青月事件を起こした相手です。危険はやだなあ」
ベレー帽を外し頭をかく素振りをする。危険を感じ編集長に断ろうとするが、その考えは読まれて居た。
「安心しろ、護衛を頼んである。最近あった管理所襲撃事件の犯人を倒した人だ」
「へー怖い人なんすか」
「お前と同じ年ごろの少女だ。その人の家までの地図を渡すから合流してくれ」
「わかりましたあ」
恵みは地図を受け取り出口に向かって足を運ぶ。
私と同じ年頃だって護衛として務まるのかな。しかし私はそんな思いを抱きながらも頼みごとを受けた。
心のどこかで私は日々の幸せで退屈な日常に少しだけうんざりしていたのかも知れない。つい最近起きた、幽霊が溢れ出した事件も対して害はなかった。少しのスリリングなことは良いことだ。
―――
「ここかあ」
恵みは小さな木造建築の家の目の前にいた。
この家少しボロイな、大丈夫か?いやしかしな編集長が選んだ人だもんなあ、変な人じゃないよなあ。そんな気持ちを押し込んでノックする。
「すみませーん、もしもーし」
「…何だお前」
威圧的な声と共に中から現れたのは、青い袴をきたポニーテールをした美少女だった。少女の目にはくまが出来ていた。私は少女の威圧的な対応に怯えながらも笑顔で対応する。
「あの~護衛を頼んだ出版社の者ですけど」
「そうか、そんなの受けてたな。少し待て身支度する」
少女はそう言い家の中に戻る。一瞬だが家の中が見えた。家の中は酒びんらしきものが転がっていた。あれてるなあ。しばらくすると少女は刀を携え戻ってきた。
「待たせてすまんな」
「いえいえ大丈夫です。では行きましょう」
私は少女の持つ刀をみて恐怖で少し緊張した。
―――
暗闇の森、吸血鬼の館へ向う道中。
気まずい …
先ほどから現在に至るまで少女は、一言も発さず黙々と私の前を歩いている。私は少女との間に流れている空気を換えるため、自己紹介をした。
「えっと…私の名前は恵みと言います。新米記者をやってます。貴方のお名前とご職業は?」
緊張して丁寧な口調になってしまった。だって同い年ぽいのに怖い感じするし…少女は足を止めることなくだが、私の言葉に反応してくれた
「私の名は葉月。普段は呉服屋で働いている」
返答してくれた!意外といい人かもしれない。思い切っていくつか質問してみよっかな。記者として。
「そうですか。刀を持ち護衛を承るほどの技量はどこで習得なさったんですか」
「…封魔に居た頃に」
封魔、確か妖怪から人を守るためできた組織。でも前に解散したんだっけ。
「そうですか、大変でしたね」
「大変なのは今も変わりないよ」
葉月は沈んだ声で返答する。恵みはまずいと感じ話を逸らす。
「ええっと、普段呉服屋で働いていらっしゃるのにどうして護衛を?」
「気分を変えるため。最近辛いことがあってね」
「そうですか…」
「あんたはどうなんだ。毎日が幸せか?」
「はい特に不幸な目にも合わず幸せですね。あーでも最近は少し退屈してたかも雑用ばっかで」
「そうか、退屈でも幸せならそれに越したことはない」
「そうですかねえ?」
「そうさ。そろそろつくぞ」
私たちは大きな西洋の館に前にたどり着いた。庭は美しく、噴水まであった。私はボロイ所に住んでいると思っていたので面食らった。葉月は扉の前に行き扉を叩く。ギイイと音をたてて扉が開いた。
中から現れたのは包帯を巻いたメイドであった。
「何か御用でしょうか?」
「こいつが吸血鬼に取材したいとさ」
葉月は私を指さす。私はメイドの風体にビビりながらも前に出る。
「そ、そうです。お願いします」
メイドは私が動揺してるのに気づいたか笑みを浮かべた。何故だ。
「お嬢様にごようですね。わかりました、少しお待ちを…」
メイドは奥へ戻り、再び現れた。
「お嬢様が良いとおしゃっられました。どうぞ中にお入りください」
「ありがとうございます」
私たちは歓迎されはメイドに案内してもらう。屋敷の中は美しい装飾品や高そうな絵画らしきものあった。とても羨ましい。
「どうぞこちらにいらっしゃいます」
メイドが案内したのはベランダであった。
ベランダにはパラソルをつけたガラステーブルがあり、その椅子にステンドガラスの様な美しい翼を速し、西洋のドレスを身にまとった美女と、白いジャケットにスカートをはいた黒髪のショートカットの美少女が何やら話をしてた。
「お嬢様、お客様です」
「む来たか。私の名はブルー、吸血鬼だ。ついでにこのメイドはディナ」
「ディナでございます」
ブルーにディナと呼ばれたメイドは私たちに改まって会釈する。ブルーがここのお嬢様で吸血鬼らしい。
「私の名前は恵みといいます。本日はどうぞよろしくお願いいます」
「私は護衛の葉月だ…了何故ここにいる」
葉月の言葉に白いジャケットの少女が反応する。どうやら知り合いらしい。
「私はブルーと世間話をしてただけさ。なあブルー」
「そうなんだよこいつ私と戦った理由がなーあきれるものでなー」
ブルーががッくりと肩を落とす。了はと呼ばれた少女は別にいいじゃんと思ってそうな感じである。了 … 食事処で見かけたような気がする。了は私の顔を見てハッとする。
「おっと私の自己紹介がまだだったな。了だ。管理所で働いてる」
「管理所ですか凄いですね。お金いっぱいもらえるでしょう」
「それなりにな」
「おい、私への取材じゃあなかったのか」
ブルーは不満顔で私を見つめる。私はあせり手帳を取り出す。
「ああっすみません。今初めます」
「良かろうなんでも答えてやるぞ」
「それじゃあ、今後夢幻のまちで何かしようと考えていますか?」
私はブルーが起こした青月事件を思い出す。月がずっと青く輝いていたのは不気味だった。
「んー今何かしようとしてるかか、…大したことはないが今調べ物をしている」
「調べものですかそれはいったい?」
「かつて夢幻のまちに起きた大災害や先導師アカネについてだ」
「それは何故?」
「まあ、まとにかく座れ」
「あっはい」
私たちはブルーに促され椅子に座る。ブルーはディナに何かを持ってこさせ、テーブルに置いた。
置かれたものは新聞や本、週刊誌といった情報媒体だった。
「これはいったい?」
「これはだな大災害や先導師アカネについて書かれたものだ」
ブルーの言葉に私は置かれたものを手に持ち見る。私自身はアカネの事はよく知らないしそもそも大災害も私は人里の元になる村に住んでいたため被害をまぬがれた。
そのためあまりそれについて深く考えたこともなく対して興味もわかなかった。何処か遠いことの出来事に感じられたからだ。
大災害を起こしたとされるアカネの存在も消えたため大して調べようがない。調べたところで何か意味があるとも思わなかった。第一悲しい記事は受けが悪く会社自体も取り上げる気もない。
勿論私もだ。楽しい方が良い。
「なぜ調べようと?ブルーさんはつい最近にこの夢幻のまちに来たのでしょう?」
「まあね。だが大災害やアカネについて聞いて少し疑問がわいてね」
「疑問ですか」
「そうだ。妖怪というものは天変地異といった自然のものから生まれることが多いのは知ってるな?」
「ええ、もちろん」
「なのに、大災害が起きたことで生まれた妖怪は調べた限り居ない」
そう言えばそんな話聞いたことがなかったな。
「でもそれは先導者アカネが起こしたものだからでは?」
「そうかもしれんな。しかしアカネが起こしたとは考えづらいだよ」
「なぜこの世界は摩訶不思議なことでいっぱいですよ」
「そうだが…アカネは人間世界からやってきたと聞いたんだが」
「それの何か?」
「私はメイドのディナを使い、人間世界からやってきた者達の事を調べた。その全てが大した力を持っていなかった。なのにアカネは持っていた大災害を起こしたと考えられる力をな」
「でもアカネが特別で、それ故に人間世界から迫害されこの世界に来たのかもしれませんよ」
「そうかな、力を持つ者は迫害をされかねんが、大災害起こしたと考えられるほどの力をアカネは持っていた。それならどこかの国や組織に保護または重宝されるんじゃないか。人格に問題のない限りな」
「えっとつまり…」
「アカネはこの世界に来て力を得た。そして何者かの考えで先導者と呼ばれる存在になった」
「力が与えられるのは、稀にあるのでは?」
「そうだな、でも可能性は限りなく低いし、与えられたとしても先導師と名乗りこの世界に変化をもたらそうとふつうは考えるか」
ブルーの言葉に私は考え込む。もし私がすごい力をもったなら自分の身の回りの事しかしないだろう。
「アカネとやらが自分や誰かのためをおもって行動したにせよ、先導師何て名乗って活動なんかしないだろう。私の考えでは誰かに力を与えられ、そういう風に仕立てられたんじゃないかと思う。たとえばエルカードの様なものを与えられてな」
ブルーと葉月は了を見る。了は気まずそうになる。
「でも、じゃあなんで大災害を起こしたんですかね。そしてアカネも姿を暗ましました、し」
「そもそも大災害を起こしたのは本当にアカネだったのか。別の誰かじゃないのか」
「それは管理所がそう発表したから」
「おいおい、他人の言葉をうのみにするのか」
「だって大災害の混乱を治めた管理所のアサキシさんの発表ですよ」
アサキシさんは混乱で大変だった村を人里にして、管理所を設立し妖怪との歩み寄りへの積極的な対応や被災した者への対応、危険物などの封印などアサキシさんがいなければこの世界は現在の世相を成してないだろう。
「おまえにとってアサキシは好人物なのか知らんが実態は分からんぞ。…まあここまでの話は推測にすぎん。現在手詰まりでね。了を呼び、なんか話を聞こうと思っていたんだ」
「そうですか」
「しかしたった今、私は全てを知る方法に気づいた!」
ブルーは声高々に叫ぶ。これほどまでの自信だすごい方法なのだろう。
「それはいったい?」
「それはアサキシの屋敷に忍び込み調べる」
「…はあ?」
私は思わず言葉を滑らす。了と葉月もブルーの発言に驚いていた。
「んで、今日の夜忍び込む」
「オイオイ、何言ってんだ!?」
ブルーの言葉に了が突っ込む。私も同意見だ。
「しかしよう、了お前も大災害について知りたいとは思わないか」
「それはまあ」
了は前に戦った切花が見せたかつての夢幻のまちに起きた惨劇。その光景が大災害と似ていることが解り、考え、言い淀む。
「それに葉月だったなかな。了から話は聞いてるぞ」
「了…」
葉月は了を呆れた表情で見る。了は素直に詫びた。
「すまん」
「私が無理に聞いたことさ、責めないでやってくれ。葉月も気にならないか封魔の者として大災害について」
大災害、妖怪との争いがなくなった原因であり、アカネは争いの発端であった。葉月にとって因縁でもあり、そして今の自分を作り出した出来事でもある。知りたくない分けが無い。
「…ああ気になるな」
「クックッ、そうか、恵みお前どうだ?記者だろう。どうだ一緒にこないか」
「えっとその」
私は了と葉月を見る。了が口を開いた。
「…私は行ってみる気になるしな。ブルーが何かしない様にもな」
「私も同じだ」
了と葉月はブルーに賛同した。ブルー笑みを浮かべる。
「そうかい、ありがたいことだ。で恵みお前はどうする?」
「むむむーー…わかりました行きます」
私はこれをチャンスだと考え乗ることにした大災害やアカネの真実を知ればとんでもないネタになる。ブルー全員が賛同したことに喜び、ディナにワインを持ってこさせた。
「では夜になったら、人里のアサキシの屋敷に向かう。それまでここでゆっくりしててくれ」
続く
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