料理人と整体師でサポート無双

マウヨシ

第1話

二人いれば会話ができる、3人寄れば派閥ができる

クラスがあれば転移がある。


遅刻寸前、ホームルームが始まろうとしている時、教室が光に包まれ気がついたら王国の一室というパターンだ。


「おお!秘伝の優秀戦闘員召喚の儀が成功した!」


変なおっさんが担任の先生の隣に立っている。うちの担任は今年初めて担任に任命されたらしく、授業は面白いが威厳がないちょっと頼りない先生だ。先生があわあわと慌てている間にクラスの中でもカーストトップ、野球部の石井が前に立つ老人に話しかける。


「あの、ここはなんですか?」


そりゃそうだ。なんだこの石造りの部屋は。ヨーロッパでも見ないぞ。誘拐にしては拘束してないし不思議な点が多いから石井はきっと混乱しているのだろう。女子の多くはもっと混乱している。図太そうな奴はこんな状況でも図太いが。

そしてオタク戦士たちはきっと気がついているのだろう。これは王による召喚のタイプでいい王様か悪い王様で使い潰そうとしているのかを。日常的に錯乱している奴らはこういう状況に強いのだろうか。

周りを観察していると老人が襟を正し、そして話し始めた。


「いきなり召喚して申し訳ない。我が国は種族間戦争に巻き込まれている。つい先日まで隣国であるオレ帝国との戦争があり、疲弊している中での話だった。なので君たちに協力してもらいたい。」

「なんで戦争に巻き込まれなきゃいけないんだ!私たちは帰ることはできるんですか!」


すぐに返事をしないのはグッドだ。そりゃ適当に全員の意思を勝手に決められてはたまらない。


「次の星間移動術を行うには星の並びが同じでなくてはならない。同じ座標に送還するにはおよそ3年かかるでしょう。」

「さ、3年………」


皆黙ってしまった。いや、オタク戦士たちはワイワイステータスだの錬金術など話している。お気楽な奴らだ。


「自己紹介が遅れた。私はミルク王国の王、メージだ。君たちにはこの国の軍に所属して働いてもらいたい。働いてもらえるものには三年間の生活を完全に保障させてもらう。働いてもらえなければ、周りからの批判も強いが最低限の生活はできるよう支援しよう。」

「僕らは先生を除いてまだ学生の身分です。仕事と言っても一人前に働くことができないと思うのですが。」


クラスの秀才、坂田くんが話し始めた。先生の選択肢をしれっとブチ切りしているあたり酷いような気もするが、全く対応せずにオロオロしている姿はちょっと頼りないを通り過ぎて情けなく感じる。坂田はなかなかやるな。


「優秀戦闘員召喚を使ったから君たちにはスキルが付いているはずだ。ステータスを確認して欲しい。ステータスよ現われろと心で念ずれば出てくるはずだ。他人には見れないから後で全員教えて欲しい。」


そう言われて自分もステータスを確認する。なるほど、ゲームとかのようなステータススキル社会であるわけだ。



飯田泰然

16歳 男


《役割》

料理人、整体師、


《スキル》

料理効果付与1

料理技能アップ1

自然治癒力アップ1

マッサージ技能アップ1

隠密1

地獄耳1

遠見1

格闘1



レベルとステータスなしのようだ。そりゃパワーは計れないものな、納得納得。


「皆確認してもらえただろうか。戦闘員召喚を使ったので戦闘系技能を身につけていると思う。皆役割ごとに分かれてもらえるだろうか。」


役割、役割ねえ。戦闘技能が付いているって言っていたが俺にあるのは料理人と整体師の役割。使えそうなのは格闘だけ。格闘のみの虚偽報告をするより素直に料理人ですって言ったほうがいいだろうか。


「では纏まってもらえたかな?それぞれ係りのものについて行ってもらいたい。」


皆出て行った。幸い気にかけるような知人も友人もいないので別に気にすることない。部屋に残ったのは俺と上がり眉で目の細い筋肉質の文官だ。残っているのを不思議に思ったのか、声をかけてきた。


「なんだ、君は皆と一緒に行かないのか?」

「おれ戦闘技能なくて料理人だったんですよ。どうすればいいですかね?」

「とりあえず部屋に案内する。君だけ戦闘系じゃないのか。少し面倒だが上に掛け合ってみるよ。おれの名前はグリスだ。よろしく。」

「おれは泰然だ。」

「テーズン、ツェーズン、ヴヴン、テーズン」

「言いにくいならズンでいい。」

「ああ、ごめんなズン。そこの部屋だな。飯までにはどうするか決定を出してくるよ。」

「わざわざありがとな。」


グリスは部屋の前で別れた。部屋に入ると待合室のようでそこそこの身分の人が使う部屋のようだ。綺麗なツボが置かれている。おっかないのでソファーに座ってじっとして、能力について考え始める。

うちの家庭は両親が共働きでよく家にいない。小学生低学年の頃は祖父母の家に行ってご飯をを食べていたが、二人の具合が悪くなってからは料理を習って自分で作っていた。爺ちゃんは若い頃板前さんで修行していたらしく、料理がうまかった。ばあちゃんも給食を作る人だったようで、大量に作る時のコツとかを懐かしそうに話していた。ずっと料理をしてきて、最近は安い材料費で凝ったものを作ろうと試行錯誤するまでになった。そしてレシピ投稿サイトで1000レビューついたときは驚きだった。きっと料理人が付いていたのはこれが理由だろう。

整体師はじいちゃんばあちゃんをよくマッサージしていたからだろうか。そこはわからない。

格闘はじいちゃんに会いに来ていたおじいちゃんの兄によく稽古をつけてもらっていたからだろう。

隠密は………



………おれが度を超えたぼっちだからなのかもしれない。

そんなことはどうでもいいのだ。使い方をこの世界の人に教わらないとな。そんなこんな自問自答しているとドアがノックされ、グリスが眉間にしわを寄せ入ってくる。


「どうかしたのか?」

「ああ、君の件が王まで報告が上がることになってな。王曰く『わしが欲しいのは戦闘員。料理人など城にいるので満足だからこれ以上雇う気はない。なるべくことを荒立てずに追い出して欲しい』ってさ。酷い話だよな。」


身の振り方を考えるも何もほぼ決まっていたのか。少し残念ではあるが国の駒としてずっと働くのもちょっと嫌だ。異世界なら自由に冒険とかしたいもの。料理人だけど。


「ああ、わかりました。在野で頑張りますよ。ですから初期準備費用ぐらいはくれますよね?」

「ああ、王から言われてもらっている。10万ポティだ。安い装備買って冒険者登録したら吹き飛んでしまうだろう。」

「ええー端た金しかもらえないのか。」

「だから心優しい貴族の文官財務大臣補佐のグリス様が三倍まで増やしておいてあげたぞ。」


そう言ってグリスはすでに渡していた金額の二倍の重さの銀貨袋をおれの手に乗っけた。


「お前の境遇は少しばかりかわいそうだからな。みんな50万とかもらってんのにな。おれもあまり目立たないタイプだから同情しちゃってよ。大臣に掛け合って出してもらった。」

「グリス様〜!」

「そして、さらにかわいそうな君に3万ポティをプレゼント。これはおれのポケットマネーだ。」

「グリス様かっこよすぎる!」

「うちは嫁の飯がまずいからな。たまにうち来てうまい飯食わせに来てくれや。」


グリスから家の場所が書かれた簡易地図をもらった。家の場所だけでなく、王都内にある武器屋や冒険者ギルド、商業ギルドの場所が書かれていた。優しくしてくれたのは祖父母以来なので少し泣きそう。


「わかった。一ヶ月でこっちの人の舌に合う美味い飯を作るからな、待っててくれ。」

「ああ、楽しみにしているよ。メイドさん、こいつを送ってくれ。」


メイドに連れられ王城の外に出る。案内してくれたメイドさんと話すと同情してくれたらしく、おやつの豆を一袋くれた。気のいいおばちゃんである。


「放逐系は主人公って決まってるからな。期待していこう。冒険者ギルドに行ってみたいけど、まずは武器屋かな。」

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