超騎対戦アバターギア

三河怜

第1話 それぞれの立ち位置

「あなたとはつきあえない、私には付き合う時間がないの、私にとっては大事な時間があるの」

  

 春、青空に桜が舞っていた。

 中でも一際賑やかな一画、中学校があった。

 卒業式、最後のホームルームを終えて一気に慌ただしくなる。

 三年間を過ごした友達と集い校舎に残る者達、教師達にあいさつ回りに行く者達、ここぞとばかりに相手に告白を試みる者達の姿もあった。

 彼も、そんな一人だった。

 人気のない校舎裏に彼を待つ女子がいた。

 僅かに筋肉がしまった中肉中背の男が小柄な女子へと頭を下げて告白した。

 女子は少し考えるような間と戸惑いの間があって彼女も小さく頭を下げて拒否して先ほどの言葉というわけだ。

 何故、どうして、そう言いたい衝動を抑えて男は別の言葉を絞り出す。

「大事な時間?」

「ごめんね、それは言えないんだ」

 女子の返答に彼は俯いた。

 幼馴染で一緒にいて。気がつけば意識して。

 見合うように精一杯努力してきたが。彼女の言う、大切な時間には及ばなかった。

 苦い記憶、今や過去の話だ。

「……けど、ありがとう。そういう風に思ってくれてうれしいよ」

 それでも、彼女にとっては喜びになったなら。それでいいかと思って。 

 そこで男の意識が目覚めた。

 彼の名は高城恭二。

 自称、小賢しい高校一年生だ。

 

 

 

 早朝の駅前。

 平日、春先のこの時間帯に人の姿はいない。こんな時間に出歩くのは、よほどの物好きか。たまたま休みが取れた大人が旅行にいくかそれぐらいのものだろう。

 人気のないそこに少年と少女がいた。

 男は紺のボストンバック片手に整った体躯を黒のブルゾンにジーンズ姿で包み、これから旅行にでも行くような風体だ。

 女のほうはトレンチコートと整えられた黒の長髪と相まって凛とした姿を作っていた。

 男に、別れを惜しんでいることを決して悟られないように、少女は振舞っていた。

「わざわざこなくていいって言ったんだけどな」

 ばつが悪そうに男が自らの頬を掻くと、少女は笑んで。

 「好きでやっている事なので」

「……そう言われたらなんもかえせねーや」

「随分、荷物が多いようですが先に送らなかったのですか?」

「送ったよ。ま、せっかく本土にいくからその辺、見て何戦か交えようと思ってな」

「本来の目的を忘れないでくださいよ? 先輩」

「分かってるよ、子どもじゃねえんだから。そっちも。"最強"でいてくれよ?」

「言われずともやりますよ」

 笑顔で言葉を交わしてお互いに拳をぶつけ、その後は言葉を交わすことなく男は駅へと向かっていた。

 お互いに戦いつくした。

 何度も剣を交えた。

 ――だが、それらの時間はなくなるのだ。

 それを見送った後、少女は大きく息を吸って瞳に涙をためたまま、その場を後にした。

 彼女の名は日野神奈。

 他の人から”姫”と呼ばれる才ある女子だ。

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