明日、イロイロ日和
黒渦ネスト
〈序〉どうにもならないこと
わたしが優柔不断な性格を自覚し始めたのは、中学生の時だったと思う。
あの頃、わたしにはミサコという親友がいた。いつでもビシバシ! って感じの彼女が何でも決めてくれてて、わたしはとても過ごしやすかったのを覚えてる。
好き嫌いがハッキリしてて、自分の思ってることを迷いなくズバッと言えるミサコに、わたしは心底憧れてた。
短大を卒業し、いわゆる大手企業の事務として就職したわたしは、出会って以来初めてミサコと離れた。
ミサコは語学が苦手だというのに、海外に事務所を持つデザイン会社に就職して、今はどの国にいるのかわからないくらいあちこち飛び回ってるらしい。
なんだかんだで7年間も一緒に過ごしてきたミサコがいなくなって、改めて突きつけられた現実。
それが……
「わたしって、本当に何にも決められないんだ」
……だった。
先々週、だったと思う。
同じ部署の社員で、短大の頃からお世話になってるレイ先輩が結婚することになり、わたしは二次会に招かれた。
眠れない夜が始まったのは、その日からだった。
どうしよう、ミサコ!
なに着ていけばいいと思う?
幸い、会費制だからご祝儀とかはお断りって言われたよ。だから、金額とか贈り物とかで周りと足並みそろえるとか、そういうことはしなくてよさそう!
でもね、服装は「平服で来て」って。
こういう場合の平服って、ちょっと、ちゃんとした服じゃなきゃダメなんだよね⁉︎
ちょっとって、どれくらいかな……
ねえ、ミサコ、どうしよう!
数日間ひとしきり動揺して、わたしは腹をくくった。
くくれた、と思った。
絶対に何か着ていかなきゃいけないんだから、服を選んで、買うしかない。体調崩したことにしてキャンセルしようかな……とか、一瞬でも思い浮かんでしまった自分が嫌になる。
雑誌を買い、ネットを見て、お呼ばれ服というカテゴリーの服を片っ端から調べた。
スーツスタイルもカッコいいな。
でも、華やかな席にはやっぱりワンピースかな?
イブニングドレスは……やりすぎだよね?
ねえミサコ、どう思う?
そして今、結局、さらに悩んでる。当然なんだけど。
見たものの数が増えれば、選択肢も増えるわけで、選択肢が増えれば、決め手が必要になるわけで。
(これいいな、カワイー! ありゃ、これはないわー。やめとけやめとけっ)
ミサコの即決する声が聞こえる気がする。
ミサコがいたら。
ミサコだったら。
わたしのバカバカ。
ぐじゃぐじゃ言ってて何かが進む訳じゃないことくらい、わかってる。
親頼みの子供じゃあるまいし、誰かに決めてもらいたいっていうんじゃない。
わたしにだって、好みがない訳じゃないんだ。
でも……キッカケみたいなものが、どこかから転がってきたらいいなって、ちょっと思ってしまう。
寝て、起きて、仕事行って、帰りに駅ビルのファッションフロア流して、帰ってきて、雑誌とネット。
日にちはどんどん迫ってきて、今日は金曜日、明日は土曜日、そして日曜日は先輩のパーティー。
どうしよう!
どうしよう‼︎
やっと通い慣れてきた、会社の最寄り駅。
立ち並ぶ背の高いビルとビルに挟まれたような、暗い隙間。
何度も目にしたことがあるガタガタの看板に、わたしは初めてかすかな希望を見いだした。
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