ねじのゆめ
@hikage
ねじのゆめ
僕はネジ。
一応名前はある。
でもアルファベットと数字が並んでるだけだから、
なんだか味気なくて好きじゃない。
とある田舎の工場で作られた僕たちは、
都会へと運ばれて、色んなものを支える仕事をする。
荷車(にぐるま)に乗るまでの数日間、僕は仲間と語りあった。
都会に出たら大きな家を支えたい。
立派な家具を固定する仕事がしたい。
街灯や看板を支える仕事はやりがいがある。
お互いに色んな夢を抱えながら、僕たちは出発の時を迎えた。
荷車で都会へと向かう僕たち。
その途中、予想外な出来事が起きた。
ガタッと、荷車に大きな衝撃が走る。
その衝撃で、僕だけ外に落ちてしまった。
自分の力で歩けない僕は、どうしようもなかった。
車に轢かれたり、人に蹴られたり、
雨に打たれたりという日々が続く。
ネジだから痛くは無かったけれど、なんだか寂しかった。
そんなある日、僕の近くをおじいさんが通りかかる。
「お、こんなところに丁度いいネジがあるじゃないか。」
おじいさんは僕を拾い上げると、嬉しそうに言った。
けれど新品の仲間たちに比べると、もう、どうしようもない姿だった。
「おじいさん、僕より仲間のほうがいい仕事をすると思うよ。」
するとおじいさんはこう答えた。
「お前さんはたしかに売りもんにはならんだろうな。
でも家の椅子を直すには十分だ。どうだ?うちに来ないか?」
僕の返事は決まっていた。
レンガ作りの、小さな家。
その家の中にある、小さな椅子。
僕は、その椅子の足を支えている。
あのまま都会に運ばれていたら
大きな家を支えたり、立派な家具を固定できたかもしれない。
でも、おじいさんは、僕も椅子も大事にしてくれる。
最初の夢とは違うけど、こういうのも悪くないかな。
それに、おじいさんは僕に『フィクス』という名前をくれた。
これが一番嬉しかった。
僕はフィクス。
今日も明日もこれからも、支え続ける。
ねじのゆめ @hikage
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