第18話 見えない真相

 村中君はたどたどしくも知っていることを全て話してくれた。昼過ぎに来たはずなのに、マンションの高層階から見える景色はいつのまにか明るさを失っていて、街灯がともり始めていた。

「僕の知っていることはこれくらいだ。どう? 戎谷君、君の知りたい情報はあったかい?」

「うん。かなり収穫があったよ。話してくれてありがとう、村中君」

 村中君は小さく頷いて長話で乾いていたのであろう喉をジュースで潤していた。

「それで村中君。何個か質問していいかな?」

「答えれる範囲でなら……」

「じゃあ、安居さんと島野君だっけ? 二人は仲がよさそうだったかい?」

 有悟君は正面の村中君に問いかけながら、ちらりと私を見る。これはきっと私にも聞いているのだろう。

「ごめん。僕は二人がどういう関係かはしらない。仲がいいのかも分からないよ」

「島野君と私は接点はないはずだよ。クラス一緒になったことがないし――あっ、でも、二クラス合同の芸術選択の美術で一緒だったかも――他にも何かあったような……」

 有悟君はほぼ同時に答えた私と村中君の答えに相槌を打つ。

「他に事件と関係ないことでも構わないから、安居さんと関わりのありそうなことで、何か気になることはなかった?」

「そういえば……吉川よしかわさんだっけ? 同じクラスの」

「吉川さんがどうかしたのかい?」

「いや、大したことないんだけれど、美化委員の仕事に向かうために教室を出る際にさ、安居さんに、終わるの待ってるから一緒に帰ろう、みたいなことを言ってたような……」

 有悟君は私に視線をやる。

「それはあると思うよ。私と沙苗は通ってる予備校が一緒だったから、一緒に行こうってことだと思う」

 有悟君は私の話を聞き終えると村中君の話の続きを催促する。

「それの何が気になったんだい?」

「それがさ、吉川さんは安居さんを待たずに先に帰ったみたいなんだ」

「戻ってくるのが遅かったら先に帰るのもありえる話だよね」

「そうなんだけどさ……美化委員の仕事が終わった後の点呼で安居さんがいなかったから、教室に鞄の有無を見に行かされたときにはもういなかったんだよ」

 有悟君は腕を組んで難しい顔をする。

「それは確かに気になるね」

 村中君も俯き加減で黙り込んだ。それを見て、有悟君は質問を続ける。

「それじゃあ、村中君は安居さんのペンを拾って、ポケットに思わず入れたみたいなことを言っていたけど、その後ペンはどうしたんだい?」

 村中君は視線を逸らしながら小声で答える。

「……持って帰ってきてしまったんだ。今は僕の部屋にあるよ」

「警察か誰かに渡そうと思わなかったのかな?」

「そうすべきだったんだろうけど、あの時は僕も気が動転していたというかさ……早く家に帰りたい一心で最低限だけを話して、面倒ごとになりそうなことは黙っていたんだ……警察にどうしてあそこにいたのかと聞かれたときもなんとなくと答えてしまったし……」

「そうなんだ。でもさ、身体検査なんかはあったんじゃない?」

「なかったよ。あったらペンを持って帰るなんてしてなかったと思う」

「それじゃあ、その安居さんのペンを僕に預けてもらえないかな? 僕から彼女のご両親に返しに行くよ。君もずっと持っているのは気が引けるだろう?」

「それもそうだね。ちょっと待ってて」

 村中君は立ち上がり、リビングから出て行こうとする。その背中に有悟君は、「村中君、トイレを貸してくれない?」と、声を掛ける。村中君は「こっちだから付いて来て」と有悟君を呼び、廊下で場所を教える声が聞こえた。

 私は一人リビングに取り残され、事件のあった日について思い出そうとする。しかし、島野君と話した記憶なんてない。島野君の名前はどこかで聞いた覚えがある。それは授業中ではなく、全く別の場所でだ。


 あれは――そうだ。今年の夏休みに課題の追い込みを私と沙苗と美菜の三人で沙苗の家でやっていた時だった。

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