エマージェンシーカップル

組長

第1難 初詣

 今、僕らは近所の神社に初詣に来ている。狙いは神社から見られる初日の出だ。

 神社にたどり着くにはとてつもなく長い階段を登らなくてはならないが、階段を登りきった先はとても拓けていて、そこから綺麗な日の出が見られる。

 しかも僕らの住む地域は電車も通っていないほど田舎なので、朝に行けば人が少なく、場所取りなどをする必要がない。

 まさに知る人ぞ知る絶景スポットってやつだ。


「いつ来ても長いねぇ〜この階段……」

 僕の後ろを歩く望が息を切らしながら言う。

「そうだな……いつ来ても長さは変わらないけどな」

「そこ良くない?これだから理屈屋は……」

 僕のツッコミに望は目を細める。たしかにどうでもいいことだが。

「静かだね。」

「そうだな。ここはド田舎だしな。」

 その時、鳥が大きな音を立てて飛びたっつ。

「ひゃいん!」

 それと同時に、望が変な声をあげながら僕の足を掴んだ。

「おいっ!馬っ……」

 そして僕たちはバランスを崩し、二人仲良く階段を転げ落ちた。




「ご……ごめん……」

 望は頭のこぶをさすりながら言う。

「別に……しょうがないだろ……」

 しかし、落ちている時に望をかばったせいかいろんなところをぶつけてしまい体が思うように動かない。無事上まで辿りつけるだろうか……


「ねえ」

 少しの沈黙の後、望が口を開く。

「ん?」

「しりとりでもしない?」

「やだ」

 即答である。

 嫌に決まってるだろう。こんな残りライフ1の状態でしりとりなんかしたら死ぬわ。

「しりとりはじめ」

 人の話聞いてた?

 やだって言ったんですけど?まあいいか。速攻で終わらせればいいだけだ。

「メロン」

「ンジャメナ」

 繋げるね!?繋げますね望さん!!ちなみにンジャメナはチャドの首都だ!

「ナン」

「ンビラ」

 まだ続けるの!?ちなみにンビラはアフリカの楽器名だ!

「ラーメン」

「ンドレ」

 もうやめて!絶のライフはもうとっくに0よ!!ちなみにンドレはカメルーンの料理名だ!

「レモン」

「んかしはべら節」

 もう良くない?俺のしりとりしたくない気持ち伝わったよね?ちなみにんかしはべら節は沖縄の民謡だ!

「ふ……絶……ん攻めとは……高度な技術を使うね……」

 いや、本来ならしりとり終わってるからねこれ。というか最後「ん」なのに返して来る方が高度な技術使ってるだろ。

「じゃあ続きを……」

「いや、もう神社着いたよ。」

 僕らはくだらない会話を交わしているうちに神社に辿りついていた。

「じゃあとりあえずお参りするか……」

 僕はそう言いながら財布を開けるが、どうやら5円玉を切らしてしまっているらしく、50円以下の小銭がない。

「あー、僕細かいのないや……望は?」

「私も大きいのしかない〜」

 まあ、毎年のことだが……

「じゃあお参りするか。」

「うん」

 50円は「ご遠縁」で縁起が悪いから……100円でいいか……

 僕は財布から100円を取り出し、投げ込む。

 そしてそれと同時に、望もお賽銭を……

「さらば諭吉!!」

「は?」

 望が投げた薄っぺらいものは、ゆっくりと宙を舞い、静かに賽銭箱の中に消えた。

「ちょちょちょちょちょちょ!なにしてんの!?」

「いや大きいのしかないって……」

「大きすぎるでしょ!そんなことしなくても僕が100円あげたのに!」

「えー、言ってよー!」

「馬っ鹿お前まじでお前馬鹿お前まじで!!いや、お金持ちなら分かるよ!?でもまさか高校生がなけなしの1万投げ込むと思わないでしょ賽銭で!!」

 すると望はドッと膝をつき、賽銭箱にしがみつく。

「ううー……私の諭吉ー」

「今更!?もう遅いよ!5分くらい遅い!」

 望はとうとうべそをかきだす。

「ううー!これ持って帰る!」

「待て待て!それ犯罪だから!俺の5000円あげるから落ち着け!」

 そう言って僕は財布から5000円を取り出して差し出す。

「うう……ありがとう。」

 そう言って望はようやく立ち上がった。

「じゃあおみくじでも引こう。」

 僕はふらふら歩く望の手を引く。

「うん、今年は何凶だろうねー」

 違和感を覚える人がいると思うが、このセリフは僕らにとっては当たり前のことだ。

 吉なんて出た日には泣いて喜ぶだろう。

 そして僕らは100円を入れ、おみくじを引く。

「僕大凶だ……望は?」

「私凶」

 結局今年も一緒か……毎年のことながらため息が出る。

「ま、初日の出を見ればきっと運もよくなるって!」

 望が僕の手を引いて日の出が見える場所まで引っ張っていく。

「おお……」

「すっごい……」

「雲だな……」

「雲だね〜」

 日の出は見事に雲で隠れて見えなかった。

 しかし、雲の向こう側から抜けてくる日の光はとても綺麗だった。

「太陽は見れなかったけど、綺麗な景色が見れてよかったね!」

 望は大きく伸びをして言った。

「帰るか」

「うん!」

 僕らは手を繋いで鳥居を潜り、階段の一段目を踏み外して二人仲良く階段を転げ落ちた。

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