ANDEDEND(アンデッドエンド)
風見☆渚
第1話 ”始まりの終わり”
ここはいったい・・・どこだ?
「・・・!」
声が出ない。
なんでだろう・・・体の自由も効かない。
僕はいったいどうしてしまったんだろう。
「・・・!」
なんど試しても、やっぱり声がでないし、指先一つ動かせない。
まるで自分の体じゃないみたいだ。
僕は、かろうじて開きそうな瞼を、最後の力を振り絞るような気持ちで開く事にした。
なにもわからない状態では、今何が起こってどこにいるのかの判断材料がなかったから。
重たくなった瞼を少しだけ、ほんの少しだけ開くことが出来た。
「・・・!」
うわ!眩しい!!
しかし、辛うじて開いたはずの目がすぐに閉じてしまうほどの眩しさがそこにあった。
あまりの眩しさに目を開けていられない。
本当に、ここはいったどこなのだろう。
一応、五感とされるモノの一つとして、うっすらだったが耳は聞こえていたから、まずは周りの音を聞くことにしよう。
なんとなくで聞こえてきた音は、聞き慣れたような気もするが、初めて耳にする音。
機械が何かに反応し制御しているような、ポーンポーンといった感じで少し高めの反応音。
この音は、いったいどこから聞こえてくるのだろうか。
あまりにも眩しい光景に目がうまく開けられない事と、声が出ない為に助けも呼べない状況が重なり、不安と恐怖に苛まれた。
本当に、ここはいったいどこなのだろうか。
まったく理解が出来ないし、何も思い出せない。
不安の中、いったいどのくらいの時間が経過しただろうか。
僕は情報のない中色々考えすぎて、次第に段々と考える事に疲れてしまった。
というよりも、あまりの非現実的な空間に疲れてか、急に眠くなってきた。
ひとまず考える事をやめよう。
まずはゆっくり寝て、また後で考えればいいか・・・
そう自分に言い聞かせるようにして、そのまま闇に中へ吸い込まれるよう、深い眠りについた。
次の瞬間気がつくと、朝の陽射しが僕の部屋に差し込んでいた。
僕は、朝一番の寝ぼけた頭ではうまく状況が読み込めなかったがふと思った。
さっきのは、夢だったのだろうか。
夢なら夢で構わない。
まだ眠く重たい目をゆっくりと開き、今という時を確認するために目覚まし時計に目をやった。
現在、時計では5時を少し過ぎた程度の時間を指していた。
いつもかけている目覚まし時計の時間は5時半。
変な夢を見てしまったせいか、いつもの時間より少し早く起きてしまったようだ。
まだ寝ぼけている頭が2度目の睡眠はどうかと誘ってきたので、その対応に応じる事にし、再度布団に潜り込んだ。
だがそんな理由は思いつきで、朝が来る度憂鬱になるから、そんな誘いがなくても布団にもう一度潜り込むつもりだった。
程なくして、目覚まし時計が本来の仕事に従事し、時間通り5時半にものすごい勢いで僕の目と頭を覚まそうとしてくる。
まだまだ布団の中という幸せで埋め尽くされた空間にとどまっていたいが、そうも言ってられない。
今日も学校へ行かなくては・・・
それだけが憂鬱・・・
「朝ご飯出来たけど、いつまで寝てるつもり?早く起きなさい!」
目覚まし時計の次は、母親が僕の目と頭を起こしに来た。
どうしても、僕はこの幸せで包まれた世界から出なくてはならないようだ。
寝ぼけたまま洗面所へ行き、だらだらとしょうがなく、身支度をした後、母親のいる台所へ行き朝の食事を済ます。
いつもと変わらない日常の平凡な朝。
この朝は何で毎日来るのだろう。
そんな事を考えならぼーっとしていると、
「早くしないと遅刻するわよ。」
母親が、僕の現実逃避を邪魔してきた。
その呼びかけに、やはりしょうがなくだらだらと応えながら学校へ向かう。
肩を落として、重たい玄関を開き、眩しく光る外の世界へと出かける。
そして、憂鬱な地獄の一日が始まる。
僕は、近所の公立に通うごく普通の平凡な高校一年生。
少し痩せている方だと言われるが、背丈は平均的な程度。
特に特徴という特徴もなく、どこにでもいる至って平凡で、特に趣味はなく、友達もなく、毎日なんとなく家と学校を・・・
いや、夢と現実を往復するだけの毎日をおくっている。
平凡に学校へ行き、そして平凡に授業を受ける。
そんな僕だが、ただ一つ、他とは平凡ではないところもある。
「おはよー」
「おはよ」
「おーっす」
「今日さ・・・」
「早くしろよー」
「昨日のあれってさ・・・」
何気ない普通の会話が、周りを通り過ぎていく。
でも僕には関係ない。
だって、僕には、そんな日常の平凡な会話をするような相手がいないのだから。
ボッチでいる事が当たり前の僕には・・・
そう思って、すべてを通り過ぎようとしていると、
「おう!今日もめげずに学校へ来ているな。関心関心。うんうん。」
馴れた手つきで馴れ馴れしく僕の肩を捕まれたと思ったら、聞き覚えのある声が僕の耳元で聞こえた。
こうやって、周りの色々な意味で眩しく光る光景に目を背けているにも関わらず、話しかけてきた奴がいるが、こいつは決して友達と言うわけではない。
僕より少し背が高く、制服のシャツをハダケさせ痩せた肌を無駄に見せている事がかっこいいと勘違いして、さらにいやらしいほど細い目であからさまにモテたいけど全くモテない雰囲気のこいつは、昔から僕を虐めては楽しんでいる奴の一人だ。
何が楽しいのか、一方的に朝から僕に絡んでくる。
僕を憂鬱な気分にさせる一人だ。
そして、そう。
僕は、世間ではよくある、平凡な虐められっ子です。
虐めは、小学校の時からで、現在高校生にもなっても、まだ続いている。
もちろんこの事を、親は知らない。
そして、もう一人、無駄に絡んで来る奴がいる。
「おーっす。お!今日もちゃんと登校して来てんじゃん。今日さ、体育の授業あるのすっかり忘れちゃってさ、おまえのジャージ貸してね~。よろしく~」
軽い感じで話しかけてくるこいつは、さっきの奴といつも一緒につるんでふざけた事をしてくるもう一人。背丈や体格がほぼ僕と同じくらいな割りに、性格だけがまったく違う。
貸してって、そもそも同じクラスじゃんかよ。
僕だって、体育の授業あるんだから、ジャージ貸せるわけないじゃん。
単純にバカなのかこいつ。バカなのか?!
それでも僕は、
「あ、あぁ・・・わかったよ。」
分かってはいるが、条件反射でいつものように怯えた声で、言い返せるわけもなく、ただただ了承した。
ここで、反抗して後で痛い目をみるよりよっぽどましだ。
この程度で済むなら、全然慣れたものだ。
二人に囲まれたまま教室に向かう。
足取りは重く、二人がまるで僕を逃がさないといわないばかりに肩をしっかり掴んで教室まで連れて行く。
僕は逃げも隠れもしない。
だって、逃げも隠れも出来ないのだから。
教室につくと、見慣れた光景の中、見慣れない雰囲気がそこにあると悟った。
僕の机が、教室の角に寄せられている。
寄せられているというよりも、片づけられていると言った方が正しいかもしれない。
無言のまま、自分の机を元通りの場所へ運んでいると、
「おっとごめんな~。今日学校に来ると思わなかったからさ~」
楽しそうに笑いながら僕に話しかけてくる奴がいる。
わかっているさ、おまえがやったことくらい。
わざとらしく笑って絡んでくる、この同じ歳なのにガタイだけが良く頭の悪そうな男は、僕の毎日を地獄色へと変える最後の一人。
この体だけが妙にデカいこいつは、昔から柔道をやっていたらしく、その為体育で柔道の授業がある度に、ストレス発散でもしているかのように僕と組んで、思いっきり僕投げたり締め付けたりしている。そして、頭の鍛え方が足りないせいだろうが、よくテストの点が悪く、先生に呼び出されているところを見ている。
「あ、うん。・・・ごめんね・・・」
僕はいつも通り条件反射的にそいつの迫力に負け、小さな声でなぜか謝った。
こんな自分が情けなく、嫌いだ。
実際自分でも理解出来ない行動をとっていることは分かっている。
それでも反抗出来ずにいるのは、虐められっこというキャラが、僕に定着してしまっているからなのだろうか。
机を自分の場所に戻していると、さっきまで大声で僕をバカにして笑っていたガタイのいい脳筋男が、
「・・・チッ」
と大きな舌打ちをした。
舌打ちするくらいなら、やらなきゃいいのに・・・
無駄な筋肉を使って頭を使わない。
何が楽しいのやら・・・まったく理解出来ない。
もうすぐ予鈴が鳴る。
先生が教室に入る前に、自分の席を整える事は、ほぼ僕の日課になっている。
そして、ごくごく普通の授業が、日常的に平凡に進んでいく。
体育の授業、軽い雰囲気の男が言っていた朝の無駄な挨拶は事実だったらしく、
「お!助かるよ~サンキューな。」
といって、僕のジャージを持っていった。
どうでもいいやと思いながら、僕は体操着に制服のズボンという不格好のまま体育の授業を受ける事になった。
そりゃそうだ、だって忘れたと言って強制的に借りていった相手が同じクラスなのだから。
体育の授業が始まると、予想通りな教師の反応があった。
「おいどうした?ジャージ忘れてきたのか?」
そうなるよな普通。
予想通り過ぎて、唖然とするしかなかった。
「はい。すみません。忘れてしまいました。」
僕は、事態の内容を説明する事を諦め、頭の悪い教師に謝った。
よくあるごくごく普通の反応に、その頭の悪い教師は
「しょうがないな。今日体育あるって分かっていただろ?何で忘れるんだ?気持ちがたるんでいるだ!そんなんじゃ授業にならんだろ。横で見学してろ。」
と僕に言った。
いやいや、なんで僕が怒られなきゃならないんだよ。
おかしいだろ!
言い訳というか、本当の事を言っても、どうせおまえが悪いとか、言い返せとかそんな精神論で僕を責め立てる事しか出来ない能なし教師に何を言っても意味がないから反論もしない。
「はい。すみません・・・」
と、やはり情けないが、当たり障りのない返答をし、グラウンドの横にある木陰に向かった。
僕が横に避けて座っていると、周りのみんながクスクス笑っている。
どうせ、周りのみんなは他人事だから、笑っているんだろう・・・
自分が同じ目にならない事を確信しているから笑っていられるんだ・・・
苦痛の授業が終わって、僕のジャージは予想以上に汚れて返ってきた。
返しながら、軽い感じの男は、
「いや~助かったよ~!マジサンキューな。今日は体が軽くって、いい感じに動けてたよ。また今度も、おまえのジャージ貸してくれよ。」
と言ってきたが、僕にはまったく意味が分からない。
それは、おまえの頭が軽いからだろ!
そんなに人のジャージがいいなら、僕のジャージあげるから、君のジャージを僕に貸してよ。
そしたら、あんな公開処刑みたいな笑いモノにならなくてすむんだから。
そう思っていても、
「うん・・・よかったね」
やっぱり、僕には当たり障りのない返答しか出来ない。
その場の体裁を整える事しか出来ない自分がさらに情けなく、悔しい。
母親には、このジャージを見て大活躍自分の息子とか思っているのかな・・・
それはそれで、虚しすぎるよ母親。
どれだけ僕の苦しみを分かってくれる人がいるだろうか・・・
こんな毎日が続いていくなら、今すぐ死にたい。
死んで・・・死んで楽になりたい・・・
なんて事を毎日考えてしまう。
そんな事でと思うかもしれない。
でも、こんな毎日を過ごしていたら、精神的におかしくなってくる。
そして、本当におかしいのはここからだ・・・
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