第181話 02.術者の正体
光の玉が入って行ったのは、レオンハルト王国の罪人が閉じ込められている塔だった。
上の方に向かっていく。
塔の螺旋階段を駆け上がった。
見張りの人たちがいたが、僕がレオンハルト王国で王様の隣の執務室を与えられている事や、コルネリア王国では大臣になっていたので、敬礼一つで見逃してくれた。
かなり上の方まで来たので、足音を立てないように、息を整えながら、静かに階段を上った。
光の玉は、一番上にある小部屋の中に入って行った。
ドアの前に立つと、お香の香りがする。
まちがいない、何度も嗅いだ、あの呪いのお香だ。
ドアの隙間から、中の様子をうかがった。
部屋の中心に、まがまがしい紫の光の玉が集まっている。
その周りに無数のお香がおいてあり、お香の煙がその光の玉をさらに覆っていた。
まちがいない、あの光の玉からカールさんの気配がする!
あの光の玉はカールさんなんだ!
部屋には一人の人間がいて、呪文を唱えていた。
「にっくきマリアンネ!
あいつのせいで、私は王に愛されない!
あいつよりも美しく、もっと美しくならなければ!
王に愛されるために、我に美しさと若さを与えたまえ!」
術者が呪文を唱え終わると、その光の玉は術者の体の中に吸い込まれていった。
術者は光の玉を吸収し終えると、満面の笑みを浮かべて、声を上げて笑っていた。
まるで人の魂を食べている妖怪のようだ…。
恐ろしい光景だ…。
僕は、その妖怪の顔を確認した。
確認するために来たのだから、見ないわけにはいかなかった。
その妖怪とは……、
ノーラ王妃だった。
はっきりと顔を確認した。
おかしいと思っていた。
年齢で言うと50代のはずだが、どう見ても20代にしか見えない。
どんなに美容整形しても、どんなに栄養分の高い物を摂取しても、ああはならない。
美貌を保つために、多くの人を殺してきたんだ…。
アガサやエンリコのような子供までも…。
僕はドアを蹴破って、今こそ戦いを挑みに行こうと思ったが、魔力も魔術も、到底かなう相手ではない。
今行ったところで、返り討ちに合うだけだ。
冷静になって、いったん作戦を練るしかない。
なぜノーラ王妃がこの禁忌の魔術を知ったのだろう。
マルゲリータは、アクセル王のサロンでこの術を使った。
日記によると、その時にコルネリア王宮にノーラ王妃も滞在していたはずだから、そこで何かをつかんだのだろう。
マリアンネが破り捨てた部分が、もしかしたらノーラ姫の手に渡ってしまったのかもしれないな…。
真相はわからないが、あの禁忌の魔術をノーラ王妃が使っている事は間違いなかった。
●●●フローマー●●●
ベルギウスがぐったり疲れた様子でマルゲリータ邸に帰ってきた。
カールさん、また一人、呪いにより消えて無くなってしまったけど、守れなかったショックと悔しさが顔から分かる。
消えて無くなってしまったから、現実世界でも生きている可能性が無いことが分かっているから、悔しんだと思う。
食卓のいつもご飯を食べる椅子に、どかっと腰をかけたかと思うと、肘をついてなんとなくぼーっとしている。
たぶん、私に何か話したいんだと思う。
呪いで人が亡くなって、私も最初の頃は泣いていたし、ベルギウスも相当ショックを受けていたけど、最近は悲しんでばかりもいられないので、涙は流さなくなった。
それでも、今の状態で魔術書を集中して読みふけったり、楽しい気持ちで街に買い物にいったりは、とてもできない。
寂しさを紛らわしたいのだと思う。
それは私も一緒だけど。
話すことが見つかったのか、ベルギウスは話し始めた。
「そういえば、まだ話していなかったけど、マルゲリータ様が、マリアンネさんの杖を持っていただろ?
マルゲリータ様の日記を読んでいて分かったのだけど、マルゲリータ様の本名は、マリアンネ・ヴァルプルギスさんだったんだ。」
え、えぇ!?
マ、マルゲリータ様がマリアンネお姉ちゃんだったの?!
お姿は人間だったけど、もとはエルフだったって事?
そういえば私も、元はエルフだったけど、こちらに帰ってきたときは、エルフに戻らずに人間の姿のままだった…。
ベルギウスはマルゲリータ様の日記の内容を話してくれて、マルゲリータ様も私と同じ生贄の魔術を使って、日本ですごしていたとの事だった。
そうか。マルゲリータ様もエルフだったのか…。
だから私と同じでお香を使って、何度も現実世界と異世界を行き来をしても、魔力切れを起こして死ぬことはなかったんだな…。
私ってバカだな。
ずっと一緒にいたのに、なんで気が付かなかったんだろう。
考えてみれば、背格好や特徴ある話し方も、マリアンネお姉ちゃんに似ていたな。
気が付いていたとしても、猫語は通じないだろうから、私がナターシャ・ヴァルプルギスって伝えられなかったとは思うけど…。
それでも、ニャー!でもいいから、亡くなる前に、一度でもいいから、マリアンネお姉ちゃん!って呼びたかった…。
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