第178話 14.20年ぶりの日記
ベルギウスは久しぶりにシルヴィオの事を思い出していた。
マルゲリータの日記に名前が出てきたからだ。
あいつめ、レオンハルト王国の王子だったんだな!
ビーバーモンスター退治のときに、ディートリッヒ3世が、迷わずシルヴィオを隊長に選んだのは、自分の息子だったからなんだ。
そうか…、そうだんだな…。
あの王様の息子なのか…。
すげーな、シルヴィオ…。やっぱり只者ではなかった…。
そして、今日もマルゲリータの日記を開く。
◆◆◆
この日記を書くのは20年ぶりになる。
私はあの日、アクセルと協力しお香を作り、禁忌の魔術をアクセルに施してもらった。
嫌がるアクセルを説得するのは大変だったけど、あの時は、あの手段しか思い浮かばなかった。
アクセルの術は完ぺきで、私は日本という国で、シルヴィオを産んで育てている。
シルヴィオは、レオンハルト王国の事は知らずに、日本という国で立派に育った。
レオンハルトの事も、ディートの事も、何も知らずにこのまま幸せに生きてくれたらと思う。
20年ぶりに帰ってきたのには理由がある。
私はあの日、恐ろしい術をアクセルに使わせてしまって、その後、迷惑がかかっていなか、それからあの禁忌の魔術書はアクセルがちゃんと保管しているかどうか、ずっと不安だったからだ。
こちらの世界に来た時に、偶然にも、ゲールノートとすぐ会う事ができて助かった。
私の見た目は、日本に行った時に、自然と人間の姿になった。
日本にはエルフがいないため、そうなるのかもしれない。
そして人間の姿が長かったせいか、レオンハルトに戻ってきてもエルフの姿には戻れなくなってしまった。
年をとったとはいえ、指名手配されている以上、人間の姿である事はとても都合がよかった。
ゲールノートと久しぶりに話していると、この世の中に謎の失踪事件があると聞いた。
その話を聞いて、禁忌の魔術書と関係していると思わずにはいられなかった。
しかも20年ほど前から起きているとの事で、私が禁忌の魔術を使ったあの時期と一致する。
あの禁忌の魔術書が、誰かの手に渡り、悪用されているのではと思うと背筋が凍った。
責任を感じずにはいられない。
私は今日から、マルゲリータという別名を名乗り、責任をとるために、この世界で賢者として生きていく事とした。
★★★
ベルギウスはゲールノートの執務室に走った。
「ゲールノートさん!」
「ど、どうしたんですか?!」
ちょっと勢いよくドアを開けすぎた。
この話は誰にも聞かれてはいけないので、部屋に誰もいないのを確認して、冷静にドアを閉めた。
「マルゲリータとマリアンネは同一人物ですね?!
マリアンネのあだ名はマルゲですね?!」
「ど、どうしてそれを?」
僕は興奮していたので机をたたいてしまった。
「答えてください!」
「そ、そうです。マルゲリータは昔、マリアンネというエルフでした。
なぜかあだ名がマルゲだったので、人間になってからはマルゲリータと名乗ったのでしょう。
でも、それは極秘事項です。
誰にも言わないでください!」
「知っているのは、ディートリッヒ王とアクセル王だけですか?」
「そ、その通りだと思います。
そこまで分かったんですね…。」
「どうして話してくれなかったんですか?!」
「ディートリッヒ王の依頼は、誰がこの魔術を使い続けているか、術者を調べる事ですよね?
マルゲリータ=マリアンネと分かったところで、術者を知るすべとは関係がないはずです。」
そ、それもそうだ。
ただ、あのマルゲリータがこの恐ろしい呪いの全ての元凶と知ったのが、激しくショックだった。
「ディートリッヒ王もアクセル王も、マリアンネをとても愛していたのです。
そのマリアンネに辛い思いをさせた悲しい思い出には、ふれたくなかったのでしょう。」
あの魔術書は禁忌の魔術書。
人の魔力を吸い上げ、いかなる望みを叶えるおそろしい魔術。
マリアンネが呪いの術者でないとすれば、いったい誰が使っているんだ!
一人だけ不自然な人がいるけど、まさかあの人なのか…?
いや、そんな訳ない…。
とにかく、こんな恐ろしい魔術、使い続けさせてはいけない!
なんとしても、術者を見つけるんだ!
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